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ご主人様を守ってみせます!

作者: 四季

私は、小さい頃から本や小説が大好きだった。

初めは両親や祖父母に読んでもらい、字を覚えてからは、熱中するあまり時間を忘れるぐらい本の世界に浸るようになった。

自分が自己中なのは自覚していたから、慈愛に溢れた子や明るく皆の中心になる子が特に好きだった。

もちろん、ひねくれた子も逞しい子も好きだったけれど。

沢山の本を読んだ私が最後に嵌まってたのは、とある小説だった。

世界の至宝と言われる力をもった愛らしい少女とそれを取り巻く美青年達の物語。

まぁ、良くある逆ハー物ではあったが、物語の作り方や登場人物達が生き生きと書かれており、アニメやゲーム化もされる位かなりの人気を誇っていた。

二次小説も出回り、それらをかなりの数読んだりもしたし、自分だったらと想像もした。

さて、なんでこんな事を長々と振り返ったかというと、話は簡単だ。

つまり、私がその小説の世界に生まれ変わったからに他ならない。

気付いたのは、私がにこの世界に生まれて数日後。

いわゆる前世を思い出した何よりのきっかけは、今、私の目の前にいる少女だ。

ほんわりとした柔らかで温かな雰囲気を纏い、優しい笑顔を浮かべた彼女。

その笑顔も、腰まである銀色の長いお下げの髪も、優しげに細められた新緑の瞳も私が大好きだった主人公そのままだった。

彼女を見た時、私は自然とあの小説によく似た世界にいるのだと確信した。

それは、何かに強制されているのではないかと疑わずには居られないくらい、不自然な程はっきりとした確信だった。

けれど、それを訝しみ考えられる余裕が、残念ながら私にはなかった。

彼女に優しく撫でて貰っていると、その心地よさと未だに残っている疲労にあがらう間もなく、自然に目が閉じていく。




闇に包まれ、崩壊していく世界。

泣き叫ぶ人々と物言わね屍の山。

それらを悲痛な表情で見渡した彼女は、やがて何かを決意した凛々しい顔で空を見上げた。

そして、ゆっくりと両腕を上に上げる。

数瞬後、掲げた両手の間に眩いばかりの小さな光が生まれる。

少しずつ大きくなっていく光は、正に世界を照らす希望の光。

だが、光が大きくなるにつれ、彼女の顔は苦しげになっていく。

当たり前だ。

だって、あの光は彼女の命、魂の光そのものなのだから。

私の声も他の誰かの声も、彼女に届いていながら、彼女を止めるだけの力を持たなかった。

それでも、皆諦める事なく叫び続ける。

私は、彼女の決意の尊さと自分の無力さにいつの間にかないていた。


やがて、周囲を皓々と照らす程に大きくなった光を、彼女は天に解き放つ。

解き放たれた光は、更に大きくなりながら、やがて空高くにたどり着く。

一瞬だけ圧縮されたように縮んだ光は、次の瞬間爆発する。

世界の全てを包み込んだ光が消える頃には、世界は光や命を初めとしたあらゆるものを取り戻していた。

ただ一人、地面に倒れ伏した彼女を除き。

駆け寄った人々が、彼女を抱き起こす。

息一つ、脈一つない彼女の顔は、ひどく幸せそうだった。

その顔を見つめながら、私はひたすらどうして?と繰り返していた。

どうして、彼女は起き上がらないの?

どうして、彼女の瞳は動かないの?

どうして、彼女は私を撫でてくれないの?

どうして、彼女が世界の為なんかに死なないといけないの?

どうして?どうして?どうして?




はっと、目を開ける。

目に飛び込んで来たのは、漆黒の闇で先程の夢を引きずる私には、まるで世界が終わったように感じられた。

暫くの間、ふるふると体を震わしていたが、安らかな寝息を耳にし、そっと目を動かす。

すると、すぐそばに彼女の寝顔があった。

それを見た瞬間、私の中にどっと安堵が広がる。

彼女の温もりを確かめたくて、すりすりと体をこすりつける。

ふわりと微かに甘やかな心地よい香りと確かに彼女が生きている証である温もりが、私を包み込む。

あぁ、彼女は生きているのだ。

ようやくそう思えて、あの不吉な光景が夢だったと気付く。

だが、あれはただの夢ではない。

あれに似た光景を私は、知っている。

あれは、小説で語られ、アニメで描かれ、ゲームで示されたやがて訪れる彼女の運命。

あれを、彼女に迎えさせる訳には、行かない。

何で私がこの世界に生まれ変わったのかなんて、正直まったく分からない。

でも、意味があるなら、それはきっと彼女を救うため。

彼女を犠牲になんてせずに、世界を救うため。

誰が何と言おうと私は、彼女を救う。

命の恩人たる彼女を救う為、この命を尽くして見せようではないか!

ぴっと意気込みに合わせて長い耳が立ち上がり、ふわふわの毛皮が膨らむ。

小さな爪の生えた前脚に力を入れ、私は心の中でこの世界に宣戦布告をする。


ふわもこ兎の私を舐めるなよ、運命よ!世界よ!そして、彼女に過酷な運命を背負わした神よ!


と、心の内で宣言した後、神ってもしかしてあの作品を書いた作者なのだろうかと、数分悩んだ。

作者には恨みはないし、むしろ大好きになれるものを作って貰って感謝している。

結局、まぁ、この世界は現実だから、他に神がいるんだろうと結論づけた。




さて、彼女の心地よい香りと温もりに包まれて、出来る事なら心ゆくまで眠りたい。

だが、それよりも先にこれから先について考えるのが先決だ。

すぐそばで手招きしている睡魔に何とか打ち勝つ為、目をしっかりと開けながら記憶を辿る。



まず、この世界の名はコルティーヌ。

慈悲深き女神が司る世界、な筈だ。

そして、慈悲深い筈の女神に過酷な運命を背負わされた彼女は、リュリエール。両親を亡くし、それでも精一杯に頑張ってきた優しく健気な少女。

そして、私の大好きな子で、命の恩人で、ご主人様。

そう、彼女は私のご主人様だ。

死にかけていた私を救う為、彼女は一縷の望みを掛け、私を使い魔にしてくれた。

この世界の使い魔は、その生涯を主と共にする。

だから、生かしたい一心で役に立つかも分からない幼い私を使い魔にしてくれた。

この世界で独りぼっちになってしまった私だけど、今確かに彼女と繋がる温かな絆が感じられる。


ありがとう、リュリエール、私のご主人様。

情けないぐらい非力な私だけど、あなたを死なす未来から、絶対に守って見せるから。


彼女の安らかな寝顔を見ながら、再度誓う。



まぁ、私は聖人君子ではないから、彼女を救うと決めた中に私が長生きしたいからってのも少しはあるのだけれど。



感慨に耽っていても、彼女は救えない。

私に与えられたアドバンテージは、私が覚えているこれから彼女に襲いかかる運命だけ。

それさえ、どれだけ役に立つのか定かではないけれど。

それでも、何も無いよりはずっとマシだ。


さて、前にも述べたけれど、私の好きだった彼女の物語の原作は小説だった。

それから、アニメ化・漫画化・ゲーム化とされた。

問題なのは、良くあることではあったが、それぞれにおいて少しずつ設定が違った事だ。

だから、まずすべき事は、この世界がどれに一番近い世界なのか特定すること、なのだが。

小説やアニメ、漫画であれば、ストーリーは一本道なので多少は対策が取りやすかった。

だが、私はこの世界がゲームに近しい世界だと思っている。

そう思う理由は、簡単だ。

私の存在だ。

実は、リュリエールの使い魔はゲームを除けば、全て銀の天狼なのだ。

女神のせめてもの慈悲なのか、彼女は幼い天狼の子を使い魔とする。

そして、何度か彼の力により窮地を脱出するのだ。

これは、実はゲームのイージー・ノーマルモードでも同じだ。

ただ一つ、彼女の使い魔が変わるのは、ハードモードにおいてのみ。

よって、私を使い魔とした彼女は、恐らくこれからクリアした者も少なく、ハード過ぎると言われたハードモードな運命が襲いかかってくる可能性が高い。


正直、彼女に申し訳なくて仕方がない。

彼女は、私を救ったが為に、これから先天狼の助けなくハードモードを乗り越えなくてはならないのだから。


待てよ?

何故、私を救う事で彼女が天狼に会えないかと言うと、天狼に会う前に私を救う為、家に引き返したからだ。

ゲームでは、この私との出会いにより彼女と天狼の子が以後出会うことはない。

だけど、この世界はゲームに似ているけど、ゲームそのものではない筈だ。

つまり、もしや彼女が再び森の本来行くべきだった目的地に行けば、まだ天狼がいる可能性だってない訳ではない。

だって、ゲームで彼女と出会えなかった天狼が女神の元に返ったなんて言ってなかったんだから。


根拠が薄いなんて、私が一番分かっている。

この世界がゲームに似た世界だとしても、ゲームそのものではない。

なのに、都合のいい根拠をゲームに求めるなんて矛盾しまくりだ。

だけど、それがどうした。

矛盾していようが何だろうが、彼女を救える可能性が一筋でもあるなら、掛けてみて何が悪い。

例え、天狼と出会えなくても、今よりは悪くはならない。

天狼に会えれば、御の字だ。

私は、決めたのだ。彼女を救うと。

ならば、矛盾なんて知らない。

思い付く可能性を、試しもせずに諦めるなんて出来ない。


明日、もう今日だろうか?

早速、彼女を森に連れて行こう。

天狼を探さなければ。

そう決めてしまうと、しりのぞけた筈の睡魔がぶわりと襲いかかってきた。

まだ、考える、ことが、おもいだ、さなきゃ、いけな………





「おはよう、ルリィ。体は、大丈夫?」

彼女の優しい声に起こされたのは、既に昼近くになってから。

あのまま、睡魔に負けてしまったのが、悔しい。

彼女の、ご主人様の為に頑張るって決めたのに。

だけど、体は正直だ。グルグルと鳴くお腹の促すままに、彼女の差し出してくれた食事に精を出していた。

がっつく私を微笑ましげにみる彼女は愛らしいが、対象になるのが自分かと思うと、どうにも恥ずかしい。

恥ずかしさを紛らす為にも、一心不乱に食べる。

食べ終わって、さてどうやって彼女を森に連れ出すか考える。

元々、決して頭脳明晰という訳でない私が思いついたのは、実に簡単な手だった。


チャンスを伺いながら、まずは体の状態を確認することにした。

しかし、この体になってから改めて世界は様々な音と匂いに溢れていると感じさせられる。

私の耳は常にピクリピクリと動き、様々な音を拾う。

生まれたばかりの頃は、あまりの騒々しさに頭痛がしたが数日もすれば、雑音の中から必要な音を拾えるようになった。

また、雑多な匂いの山の中から一つ一つ何からの匂いで危険かどうか判断できるようになった。

案外スムーズに出来るようになったのは、この体にあった本能が手助けしてくれたからなのだろうか?




じっと、彼女が外へのドアを開けるのを待ち、開いた瞬間に外に逃げ出した。




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