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緋色の眼を持つ少年  作者: カモメ
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緋色の眼の少年第五話

その光景を目にすることは、僕にとっては初めての事だった。

目の前に横たわるメス犬のマルが産気付き…

透さんがしゃがみこみ、マルのお腹をさする。


マルの表情は苦しげで…

しかし…

透さんの顔をジッと見ている。

まるで全幅の信頼を寄せているようだ。…


『和美…陣痛の間隔が短くなってきた…

愈々産まれて来るぞ…』と静かな声で僕に伝えた。


頭が出てきた。

新しい命の誕生に僕は興奮していた。

次々と産まれて来る子犬たち…


子犬たちのへその緒を咬みちぎり…

舐め回す母犬のマル…


透さんが…

『和美!!タオルを持ってきてくれ!!』と声を荒げた。透さんから視線をマルに移すと、今まで以上に苦しげだ。


透さんに視線を戻すと…



『逆児だ…

珍しいが…このままでは母体も子犬も危険だ』


透さんの声は既に落ち着いていて…


僕は言われたようにタオルを取りにいった。


タオルを透さんに渡すと、左腕にタオルを巻いて右腕で足から出て来ようとしている子犬を母体に押し戻した。


それまで、苦しんではいたが…

透さんに全幅の信頼を置いていた筈のマルが…


いきなり透さんの左腕に噛みついた。


少し苦しそうな表情で、透さんは僕を見て…

『心配すんな…犬の本能だ…』と

微かに微笑んだ。


一旦母体に押し込まれた子犬の体の向きを変えたのか?

今度は頭から出てきた。

マルがへその緒を咬みちぎり…舐め回すが…

子犬は息をしていない。


透さんは直ぐ様子犬の口に息を吹き込み心臓マッサージを始めた。


五回…六回と息を吹き込み子犬の小さな体の胸の辺りを親指で押して行く…


凄く長い時間が経った様にも…

時間の流れが自棄に緩やかにも感じられた…


その時…

子犬の後ろ足がビクン!!と動いた。


透さんは、ゆっくりと、子犬をマルに戻し…

子犬は自力でマルの乳に吸い付いた。


全部で五匹…

全ての子犬を満遍なく舐め回すマル…


最後に生まれた子犬は少し体が小さい…

子犬は五匹とも母親のマルに似て真っ白だ…

睫毛までが真っ白だ…


ただ…最後に生まれた子犬だけは、尻尾の先がちょこんと黒い。


小さな尻尾を振りながら乳を求める子犬達の中でもこの子犬は、何故か気になる。


一度死にかけていたのを、透さんが助ける様を見ていたからなのかは解らない。

だけど…

僕はコイツに…

唯一の特徴である。尻尾の先のチョコンと黒い様から…


心の中で…

チョコと名前をつけた。



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