緋色の目を持つ少年第三話
僕は暫くの間…
白に占領された空間に今にも溶け込みそうな美由紀さんの何気ない仕種に目を奪われていた。
華奢で繊細な指が薄く形の良い唇と連動し…
たまに投げ掛ける純白に溶け込みそうな柔らかな微笑みに僕は釘付けになっていた。僕は牛乳を飲み干し
窓のカーテンを靡かせる風が少し秋らしい風を運んできた。
陽も傾いている。
暇を乞うには最適なのだが後ろ髪を引かれる。
ここはキッパリと暇を乞う決心を決めた。『美由紀さん…僕…
もう…そろそろ…かえらなくちゃ…』
『そう…もうそんなに時間が経ったのかしら…』と
少し眉をひそめて哀しそうな表情を浮かべる。
『遅くなると心配してくれる人が居るんだ?』
美由紀さんは僕に疑問を投げ掛ける。
『心配してくれるのかは解らない。
だけど…迷惑はかけたくない。』と答えると…
『和美くんは良い子だね。それじゃ…
玄関まで見送るわ…』
美由紀さんは床に朝顔の様に広がったワンピースの形が萎む様に立ち上がり
やはり…消え入りそうな微笑みを浮かべ…
僕に手を差し出した。
僕は緩やかに洋館から続く坂道を家路へと向かう。
僕が引き取られた永井の家は祖母と暮らした家とは
隣町にあたり…
この…緩やかな坂を登りきり…下りきった所にある。
頂上から見渡せる限りを田圃が占め…
その全てが…永井の土地らしい。
因って…永井の家は…
今では珍しい専業農家だ。
そこに住まうのは、永井浩子と言う五十を過ぎたおばさんと、三十に満たない。
透さんの姉弟が住んでいる。
緩やかな坂を下り田圃な中を突き抜けるように
永井の玄関まで続く。
玄関まで来ると玄関脇に繋がれている真っ白な犬のマルが繋がれている。
マルのお腹は大きくそろそろ臨月が近いようだ。
僕はマルの頭を撫でて
玄関の扉を横に開いた。
玄関口に長靴とツナギを着た透さんが仕事の汚れを落とし家に上がろうとしていた。
透さんは…
僕に気付き…
『少し遅かったな?』
と僕に声を掛けたが、何故か…田中美由紀さんの事は口に出せなかった。
どうして田中美由紀さんの事を口に出せなかったのかは?
実は僕には解らない。
ただ…一つ言えることは…未だに永井の家に馴染めない僕の遠慮の様なものだったろうか?
この永井の家には大人が二人いる。
一人は先程の透さん…
この人は、母の実家から施設に入れられ…
詳しくは知らないが
永井の家に養子に貰われて来たらしい。
そして…
もう一人…
透さんと二十歳は違うであろう浩子さんがいる。
実質的な当主は浩子さんであり…
僕は浩子さんの養子としてこの家に来た。
透さんのお父さんと浩子さんのお父さんは同じ人で
異母姉弟と言うわりには
浩子さんは透さんへの言葉がキツイ。
必ず命令口調なのだ…
どうして田中美由紀さんの事を口に出せなかったのかは?
実は僕には解らない。
ただ…一つ言えることは…未だに永井の家に馴染めない僕の遠慮の様なものだったろうか?
この永井の家には大人が二人いる。
一人は先程の透さん…
この人は、母の実家から施設に入れられ…
詳しくは知らないが
永井の家に養子に貰われて来たらしい。
そして…
もう一人…
透さんと二十歳は違うであろう浩子さんがいる。
実質的な当主は浩子さんであり…
僕は浩子さんの養子としてこの家に来た。
透さんのお父さんと浩子さんのお父さんは同じ人で
異母姉弟と言うわりには
浩子さんは透さんへの言葉がキツイ。
必ず命令口調なのだ…
しかし…永井の家で専業農家として働くのは透さんだ…
透さんは、良く働く…
広大な田圃に畑の野菜…
豆に働く…
だからなのか?
透さんの…
長く伸ばし後ろで結わえたその髪は真っ白だった。
暫く玄関でボサッとしていると、奥の方から浩子さんの呼ぶ声がする。
その声に僕は反応し
『はい!』と短く返事をして浩子さんの居る奥の部屋へ向かった。浩子さんの元へ向かうと、浩子さんは何時ものように僕を忌々しげな目で一瞥した後…
『和美…大通りに出て…
角の花屋で私の使いで来たと…
何時ものお花を貰って来てお代は後程持ってくると伝えれば…
用意してくれるから…』
と、僕に用事を言付けた。
僕は踵を返す様に浩子さんの元を後にして、玄関で靴を履いていると…
後ろから…
『和美…これでお菓子でも買いなさい。』と
僕の肩越しに千円札を透さんが差し出した。
驚く僕に透さんは
『あまり…小遣いをやれなくてごめんな…
何か欲しいものが有ったら言いなさい。
相談にはのるから…』
こんな優しい言葉を人から掛けて貰う事が無かった僕は…
戸惑いつつも、千円札をズボンのポケットに仕舞い…透さんに小さな声で、ただ一言…
『ありがとうございます』
と告げて玄関を出た。玄関を出て大通りへ向かう…
百姓屋敷が立ち並ぶしろかべの塀が緩やかな坂道にダラダラと続く。
白壁と緩やかな坂道が途切れると。本道理に出る。
その場を左に曲がり数件の店舗の先に生花屋がある。僕は『ごめんください』とおとないを告げると
花屋のおばさんが出てきた。
緊張はしたが…
勇気を出して
『永井浩子に何時もの花を貰って来るように言付かりました。』
と伝えると店のおばさんは合点がいったようで
テキパキと花を用意し始めた。