白い洋館
緋色の目を持つ少年に関わる物語
急に呼び止められて…
成り行きで部屋に招かれる永井和美…
神秘的な田中美由紀は何故に彼を呼び止めたのか?
謎は彼の緋色の目に隠されている。
徐々に明かされて行く穢れた宿命…
乞う…ご期待…
その人は…
透き通った結晶を幾つも集め凝縮し…
尚も透明度を失わず
少し…
蒼く澄み渡る蒼空の色を取り込んだ様な肌をしていた。秋の頬をなぶる風が気持ちよく
照りつける太陽の光が
未だ眼を細めさせる日射しを浴びせる中
白い洋館の二階からレースのカーテンが風に少し靡いているその窓から
外塀の近くを一人で下校する僕に対して…
『ねぇ?君…
君は何時も独りなのね…』
と、声を掛けられた。
俯き加減に下校する僕は
その…鈴の様に澄み…
無機質な響きをも併せ持つその人の声に反応し
顔を上げた。
僕は彼女を見た瞬間…
彼女の透き通る肌と
硝子の様に無機質な瞳に…見射られてしまった。…
奇妙にも彼女の雰囲気に生気が伴わない…
その神秘さは一層彼女から眼が離せなくさせる。
暫くの沈黙の後…
彼女は
『君…
あらご免なさい…
いきなり殿方に君は失礼だったかしら?』
と、眼を細めフ、フ、フ…と笑った。
その笑顔は…
またも僕の心を惹き付ける。
彼女は…
『 よろしかったら…
家でお茶でも召し上がらない?』
と、僕を誘った。
彼女に纏わりつくように揺れる。
レースのカーテンの隙間から何か黒いものが蠢いた気もしたが…
彼女の甘美な微笑みの魅力には勝てず
僕は洋館の門柱の脇へと足を踏み入れた。
玉砂利が敷き詰められた玄関までの道を…ジャリ…ジャリと踏み締める度に閑静な空間にその音が
煩い程に響き渡る。
静かな空間にに異物を持ち込む僕の一歩一歩は
何故か…
気が引ける。
その時目の端に、玄関に続く飛び石に気づく…
僕は舞い上がっているのか?
その御影石の飛び石に気付かないなんて…
やはり僕は舞い上がっていた。
大理石を敷き詰めた玄関に立ち…
遠慮がちに重厚な扉を手前に開くと、玄関口の脇にある階段を白いワンピースを纏う彼女が降りてくるところだった。
『ねぇ?珈琲にする?
それとも紅茶にする?』
僕はどちらかと言えば珈琲も紅茶も苦手で…
と言うより飲んだ事がない。
暫く考えた後…
『良ければ…牛乳かオレンジジュースが良いです。』
彼女はニッコリと微笑み
『そうね…珈琲も紅茶も君には少し早かったかしら?』
と、今度は悪戯っぽい微笑みを浮かべた。
彼女はクルリと僕に背を向けて、白いドアを開け…
キッチンともダイニングとも、判断ができない部屋へ入り…
『先に二階へ上がってて。』
と後ろ向きのまま
僕に伝えた。
暫くの沈黙の後…
『お邪魔します。』と
靴を脱ぎ玄関に揃え…
玄関フロアに上がった。
階段の手摺に手を掛けて一段一段ユックリと登る。
登りきりドアを開けると
ソコは
純白が支配する
決して穢してはならない
聖域に思えた。窓際に置かれたベッドは、純白のシーツが掛けられ
壁も純白で、風に靡くカーテンも白…
僕は純白に占領された彼女の部屋の中で唯一…
純白に占領されていない
フローリングに正座し…
暫し彼女を待った。
開け放ったままのドアを
窓からの風が通り抜け…
カーテンを部屋の内側に靡かせる。
トントントン…
と軽やかに階段を登る足音が聞こえる。
僕は正座したまま膝の上に乗せた両の拳が何故か汗ばむのが気になった。
彼女はお盆に乗せたティーセットとミルクポットを持ち…
『待ったぁ~?』
古くからの知己の友人に語りかけるが如く僕に微笑みを投げ掛け
『ベッドに腰掛けてて良かったのに。』
と笑った。
その笑顔があまりにも自然に投げ掛けられたので
僕は思わず微笑み返した。
『ねぇ?…どうして君はいつも下を向いて歩いてるの?』
彼女は唐突に僕へ質問を投げ掛けた。
その…不意に投げ掛けられた質問に反応し…
顔を上げて彼女の顔を見た。
その時僕の髪の毛がサラリと風に靡いた。
『あらっ!?女の子みたいにサラサラで綺麗な髪ね?
まだ…名前も聞いて無かったわね?
君…なんて名前なの?』
今頃名前を聞いてくる…
彼女に対して小さな声で
『永井和美…』と名乗った。
彼女は益々嬉しそうに
硝子の様な瞳を輝かせながら
『ん~っ…益々女の子みたいね。カワイイ…』と
無防備な微笑みを投げ掛け『私はね…田中美由紀』
と彼女も名乗った。
美由紀さんは、『私…和美くん…君みたいにサラサラの髪の毛をして何時も下を向いて歩いていた男の子を知ってるわ。』
と僕の顔を下から覗き込むように僕と視線を合わせようとしてくる。
水晶の様に透き通る美しい肌と瞳を持つ彼女と視線が合うと引き込まれそうで、慌てて視線を外す。
『ん~っ!!可愛いわ!
折角だから牛乳を飲んでね。』
と美由紀さんもフローリングにワンピースの裾をまるで朝顔の様に広げ…
座り込んだ。
ミルクポットからくすみ一つ無いグラスへ牛乳を注ぐ…
そして僕の前にグラスを置き…自分はティーセットのポットから空気を含ませる様にティーカップへと紅茶を注ぎ…
『久し振りだわぁ
お客様をここにお招きするの。』と微笑む。
あまりにも白に埋め尽くされた部屋に溶け込みそうな笑顔を窓から差し込む外界の光が繋ぎ止める。
僕は少し顔をあげ
その危うい程に美しくも儚そうな美由紀さんの笑顔に視線を寄せた。
『アラッ!?…和美くんの左目真っ赤よ?大丈夫?』
僕は少し口ごもり…
『あっ…こ、これは、生まれつきで』
美由紀さんは興味深そうに僕の顔を覗き込み…『さっき話したサラサラの髪の毛をして何時も下を向いて歩いていた男の子も両目が赤かったのよ?』
美由紀さんは何か懐かしそうに
『和美くんは、その子の親戚かもね?』
と尋ねて来た。
毎週月曜日に更新するよていです。