(7)
月陵がうんざりした表情を見せる。それでもリーナはやめなかった。
「女だと思って、何でも男たちの言いなりになると思ったら大間違 い。あんたたちが駄目だって言うのなら、わたしがこの子の面倒を見るわ。別にお世話してもらわなくても結構。私は気が済むようにやりたい事をやるわ。私を 追い出したけりゃ追い出しても構わないわよ。それでも文句がある?」
「わかった。わかったから、そうキィキィ言わないでくれ。あんたも、今までの女と同じなんだな」
「当たり前でしょ。自分の思う通りにならなければ、あんたのその綺麗な顔も爪で引っ掻いてやるわ」
「しょうがないな――。彼の事はあんたに任せる。あんたから従兄さんに直訴でも何でもしてくれ」
「言われなくてもそうするわよ」
そう言ってリーナはそっぽを向く。
月陵は疲れたような表情で、彼女から目をそらせた。
馬羽は横から女の、くすりと笑いを洩らした表情を盗み見て苦笑する。
(女狐だな)
その女狐が、そんな演技をしてまで何故この少年を庇うのか。
「何故、ホテルに帰りたくないんだ。一番安全な所だろうに」
馬羽は一人に問いかけた。一人が顔を上げる。
「自分でもわからない。でも、このまま自分の見ているものから目をそらしちゃいけない気がするんだ……」
言葉を探し、探し当てられないままに彼は答える。
「今度はこんな軽い怪我で済むとは限らないんだよ?」
「……」
「まぁ、そうなれば、それもお前さんの運命だって事だがな」
ふと、リーナの視線に気付いて馬羽は口をつぐむ。
「能天気な売れない役者さんにしてはシニカルな意見ね」
「僕だって姿が人よりちょっとばかりいいだけの男じゃないぜ?」
馬羽はジョークだよ、と肩をすくめて笑う。だが、リーナは笑い返さなかった。
「そうかもね」
青みがかった印象の強い瞳が、射るように馬羽を見詰める。
「勘弁してくれよ。月陵、姐さん、今日は虫の居所が悪いのかい?」
一人背を向けて窓辺に立つ月陵に、馬羽は声を掛けた。が、月陵は振り返らない。