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上海1932 恋恋不舎(中)  作者: 田中しう
もうひとつの顔
1/32

(1)

(注意)

時代背景として、どうしても政治的な部分も出て来ますが、

あくまでも物語の要素として扱っています。

作者個人の思想を表すものではありません。

ご了承ください。

 『桃源』――

 二階にある執務室から出て来た趙は、大柄な体を揺すりながら階段を降りていて、突然寒風に頬を殴られた。

 手摺りから体を伸ばして覗き込むと、月陵がコートのボタンを外していた。

「どうしました。仕事をサボって外出ですか?」

 趙の声に、はっとしたように月陵が顔を上げる。白い頬が寒風にさらされたせいか、少し赤らんでいる。

「お客さんを送りに出ていただけだよ」

「何で裏口から?」

 趙は月陵の前に立つと、わざとらしく鼻をひくつかせる。月陵の髪からは、微かに甘ったるい香りがした。

「〝陳の店〟から戻った所でしょう」

「客の要望に応えるのが仕事だからね」

老爺ラオイエはあんたにそう言う類の仕事はさせたくなさそうですけどね」

 月陵は肩をすくめた。〝陳の店〟は、修英が持っている〝高級秘密倶楽部〟で、手っ取り早く言えば、遊び好きの上客たちに阿片を吸わせる。

「子供の頃はそうだったろうさ」

「ふん」

 趙は幾分不遜な態度で胸元から煙草を出し、火を点ける。月陵はそんな趙を横目で見て、通り過ぎようとした。

少爺シャオイエ――」

 煙を吐きながら、趙が呼ぶ。月陵が振り返ると、趙は壁を見詰めたまま言った。

老爺ラオイエを裏切らないように」

 珍しく、月陵の切れ長の目に感情がむき出しになった。

 だが、それも一瞬で、いつものように冷たい表情に戻る。

「お前に言われなくとも―」

「月陵」

 階上から声がして、月陵は二階を見上げる。修英がこちらを見下ろしていた。

「上がって来い」

 それだけ言うと、執務室のドアの向こうに消える。

 月陵は趙の顔を見た。趙は無表情に見返す。

 月陵は仕方なしに、階段を昇った。


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