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学園小譚集  作者: 赤色るべら
灰色の空
7/9

真実。

 ───気付いたら、朝になっていた。

 俺は、何日も過ぎていた事なんて気付いていなかった。

 ただ一晩、しらみつぶしに情報を集めて、気がついたら寝ていたぐらいの気分でいた。

 日数の経過に気付かないまま時間を確かめた。シャワーを浴び、惰性で充電器につないでいた携帯をコートのポケットに押し込む。

 空との関連性についてはわからなかったが、調べてみるだに灰色という色は白と黒の中間で、空っぽであると同時に無幾的に全てを詰め込んだ色なのだそうだ。

 『灰色の空』を見つめてはいけない理由は、それに関連するのではないかと感じた。

 今日は色を見た時の人の感情の動き方を調べてみよう。

 ああ、図書館の会館時間が待ちきれない。

 どうしようか。

 どうしよう。

 今から行っても何分待たされるだろう?

 まだ空に太陽は出ていない。

 こんな寒空の下で待たされたら、手足がおかしくなってしまう。

 ……なら、忍び込めばいいんじゃないだろうか?

 そうだ、そうすれば本が読める。会館時間まで誰にも邪魔をされないし、寒い思いをしなくて済むし、読める時間もぐっと増える。

 そうと決めたら早く出よう────すっかりほこりっぽくなった部屋から、ひんやりとした空気の中に踊り出た。


 今日はめずらしく朝から雲ひとつ無く、地平線には顔を出しかけの太陽があった。

 空の青色は相変わらず冬らしくて、ごく薄く、下から金色が照らすように、青色に向けて輝きを叩きつけていた。

 待ち受け画面にでもしようと思って携帯を開くと、不在着信と留守番メッセージが入っていた。

 履歴を確認すると、父親からだった。

 着信の時間は今日の日付から見てもずいぶんと前で、すっかり確認を怠っていたと、俺は慌ててメッセージを再生した。


《よ、明。 父さんやっと留守電聞けたぞー! まあこないだ亜希子に電話したって聞いてるしな、元気だと思うけど元気してるか? 勉強がんばれよ!》


 表紙抜けするほど明るい声と、ありきたりな言葉が、ざらついていた俺の心を和ませた。

 やっぱり親父は明るいなぁ。


《それからな────》


 と、間をあけて吹き込まれた声に、俺の口が、ぽかんと半開きになった。


「……え? 今、何て────」


 自分の耳を疑った。

 俺の聞き間違いだろうか。

 すぐに、再生しなおす。

 前半の暖かい言葉は、もう耳に入らない。

 後半の音を一言一句たがわず拾うためだけに鼓膜を研ぎ澄ませた。




《すまん明、父さん『灰色の空』って何の事だかわからないよ。誰に聞いたかわかるか? わかったら俺が聞いといてやるからな。ほんじゃ、ばいびー♪》




 俺の手から携帯が滑り落ちた。

 アスファルトに角から落ちて、ぱきりと軽い音がした。

 砕け散りはしなかったが、ディスプレイを一閃するようにヒビが走る。

 手が震えた。足が震えた。

 父さんに聞いたんじゃなかったのか。

 じゃあ、俺は誰に聞いたんだ?

 誰が、俺にそんな事を教えたんだ?

 いや、そうだ。


 俺は、どうして親父に教わったと思い込んでいたのだろう?




 ふっと何かに呼ばれるように、強まり始めた太陽の光の方に視線を向けた。

 そのすぐ近くで、青色が淡い金色に打ち消されていた。


 その色はほんの一部だったが、確かに……透き通った、この世界にあるどの灰色よりも綺麗な灰色をしていた。

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