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学園小譚集  作者: 赤色るべら
灰色の空
5/9

妨害。

 『灰色の空』の事を調べる気がそがれてから、調べていた期間と同じくらいの数日が経過した。

 といっても、大衆からの情報収集をあきらめたというだけで、調べる気がなくなったわけではないし、わからないままなのが気持ち悪い事に変わりは無かった。

 調べないようにしてから、その正体に対する好奇心こそ落ち着いてきたが、空を見る頻度は、以前よりも少し多くなっているように思う。

 携帯から天気予報を見ると、今日も雨だ。

 ここ数日ずっと雨だ。

 何日の間、雨が降っていたんだろう。

 見上げてみれば、空はやはり厚手の雲に覆われた、透明度のかけらも無い灰色をしていた。

 晴れていなければ、空の色が灰色かどうかもわからないのに、どうして雲なんてかかるのだろう。

 それが何故だかとてもわずらわしくなって、俺はここ数日、ひどくイラついていた。


 講義中にも窓から空は見える。

 でも、空は空で、雲以外の灰色は見当たらない。

 何も見つからない。

 気がかりがつっかえて、定食は半分ほど喉を通らない。

 昼下がり、午前の講義時間を終えた食堂のガラス窓には、大粒の雨水が全力で体当たりしていた。



「……ちょっと須賀、あんた最近変じゃない?」


 声に隣を振り返ると、邑井が、すぐ近くでタバコを吸われた嫌煙家のような顔で俺を見ていた。


「前は翔に言われなきゃ、あんたが空ばっか見てるって気付かなかったけど、最近は隙あらば空見てんじゃない。そんなに灰色の空が見たいの?」


「うるせぇな、嘘っぱちだろって馬鹿にしてたくせに、口挟むんじゃねぇよ」


「ちょ、ッ……」


 判ったような口をきく邑井に、俺の気分は異様に波立っていた。


「……な、何よ、そんなカリカリしちゃって。嫌だわー人が心配してやってんだから、感謝ぐらいしなさいよ────」


「うるせぇっつってんだよ、俺が何やろうと自由だろうが。心配だとか余計なお世話」


「────……」


 いつもの邑井と変わっていないはずなのに、どうしていたのか、俺はそれを邪魔なように感じて突っぱねていた。

 彼女はしばらく、何かを言おうと口を開閉させていたが、結局は何も言わないまま食堂を離れていった。


 ……はた、と気付いた。

 そういえば。


 『灰色の空』を調べようとすると、邪魔ばかり入るのは何故だろう?

 俺が調べようとすれば情報は無く、講義中には空をちらりと見ただけなのに教授には真っ先に注意されるし、うまくいかないのでもっと掘り下げようとすれば、先ほどの邑井のように、おかしいと言って止めようとする。

 もしかしたら……。

 そこで、俺はとある事に気付いた。

 川嶋は教職を取っており、河野は以前、必須科目の単位を落とした事がある。

 二人とも、俺よりも多く単位を取得するため、講義のない時間は俺より少ないはずなのだ。

 俺はほとんどの休み時間を図書館などでの情報収集に費やしていたのに、二人がかりとはいえ俺の何十倍もの情報を得られるはずがないのだ。

 どうして俺は、こんな簡単な事に気付いていなかったのだろう?

 調べるのに夢中で、些細な事が頭に入らなくなっていた。悔しくて仕方が無い。『灰色の空』の話について肯定的だと思われたあの二人まで、実は俺の邪魔をしようとしているのだ……!


 俺はたまらなくなって、時計の止まらない食堂を飛び出した。

 食事をしている暇などない。誰も調べていない情報がたくさんあるに違いない。

 講義に費やしていた時間を使えば、これまで過ごした無駄な時間が埋められるはずだ。

 この時間、全てを情報の収集に費やすのだ──!

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