調べた結果。
……あれから、父親に何度か電話を入れたのだが、案の定出なかった。
「昔、『灰色の空を見ちゃいけない』って教えてくれたろ? あれってどうしてだめなんだっけ、今度里帰りした時にでも教えてくれよ」
留守番電話に、そんなメッセージを入れておいたので、親からの情報は気長に待つのがいいだろう。しゃにむに電話をかけたところで早く聞けるようになるわけでもないのだ。
そして『灰色の空』の事を思い出して数日が経過した頃、俺は講義が無い時間を、俺は大学内の図書館で過ごすのに使い始めた。
最初は空の写真を探し、灰色が実際に存在するのかを探し回ったが、曇り空しか見つからなかった。
らちがあかないと思い、次は昔からの言い伝えなどを調べてみたが、やっぱり『灰色の空』についても『見てはいけない』という口伝についても見当たらない。
古いゲームか何かで見たのかと思って過去に遊んだ作品を調べたり、少しオカルティックな分野の本にも手を出してみたが、やはりと言うべきか、それらしいものについては一切、見つからないままだった。
特別、その空を見たいと思っているわけではないが、何も手がかりが見つからないのは、少し気持ち悪い。
調べて行けば行くほど、俺は幼少の記憶について、少し自信を無くし始めていた。
───ひょっとして俺は、ほんのたわいの無い日常にあった内容を、幼少の頃に聞いたと勘違いしているんではなかろうか?
「お前が勉強をしているとは珍しいな」
読んでいる途中の本の間に顔をうずめて突っ伏した俺の背後から、低い声が聞こえて来た。
「……のっけから随分じゃねぇかてめェ」
「勉強じゃなかったか、それは失礼したな」
「………………」
否定できない俺は何も答えず、顔を半分だけ上げて、後ろに立つ川嶋を盗み見る。
「冗談だ」
「……あァ、それで?」
本当に冗談なのかわからなかったが、言葉の通りに受け取る事にした。
隣に座った川嶋は、いつものように無表情のまま肩をすくめた。
「思い出せたのか?」
端的な質問に、俺は首を横に振る。
「ローカルな地方にしかない話なのかね、どこにもそんな話は無ぇのよ。ネットでちまちまと検索もかけてみたけど、やっぱダメ」
「だろうな」
やはりかと言った様子の川嶋に、俺の顔には自然、いぶかしげな表情が浮かんだ。
「何だよ、だろうなって。何か知ってるみてぇじゃん?」
「──河野がな」
眉間にシワを寄せて尋ねた俺に、川嶋は短く溜息をついた。俺がかき集めた中でも、いかにもオカルトだと言わんばかりの、黒衣をまとったガイコツの表紙の本を指差して、続ける。
「あいつは、そういう内容に昔から興味が強くてな。何が起こるのか知りたくなったと言い出して、お前の話を聞いてすぐ後に、あの話について調べ始めていた。……俺も手伝わされたんだが」
「……そいつはご愁傷様だ」
そういえば、この二人は高校時代から一緒だったんだったか。何とも言えずつぶやいた言葉に、まったくだ、と日常からシワのよっている眉間を深くして、引き続き溜息をついた。
「助言にもならん事に、検索結果はゼロだ。少なくとも、あいつの情報網の中ではな」
同じ手段で調べても無意味だろうよ、と素っ気無く言い捨て、川嶋は俺に読み散らかされた本を順序よく重ね始めた。
「なんだよ、お前ら揃って、調べてんなら言ってくれりゃ良かったのに。……ま、手間ははぶけたわ、ありがとな」
くたびれた声で告げて席を立ち上がる。川嶋は、手にした本をさっさと書架に戻しに、何も言わずに席を離れていった。
俺も残る本を手にして、もとあった棚に収めて行く事にした。
……途中で面倒になって、まとめて返却棚へ置いていってしまったのだが。