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学園小譚集  作者: 赤色るべら
灰色の空
1/9

見つめてはいけない

 今日の空は冬が近づくにふさわしく、高く透き通った青で、雲をふちどるあたりが白くかすんでいた。

 ずっと眺めていたいと思わせる絶品の色だった。



須賀(すが)って本当に、いつも空ばっかり見てんのね」



 この声と、視界をさえぎる影が、空に心を馳せていた俺の感動をぶちこわしにしてくれた。




 ……この大学の裏手にある芝生の一角は、周囲に防風林なども立てられていない開けた場所だ。

 方角によっては地平線が見えるぐらいには眺めもよく、どの時期も日当たりが良いので、昼寝や日光浴をするには絶好の場所である。

 そして、評判が良いため一人で静かに過ごすには向いていない。

 差し込んだ影に焦点を定めれば、黒髪の女が、自慢のストレートロングを俺の顔面に覆い被せるように、俺の視野に割り込んでいた。

 俺……須賀明(すがあきら)は寝転んだまま、低い所にあるニヤニヤ笑いを睨み上げる。


邑井(むらい)さぁ……いきなり何だよ」


 彼女は邑井遊里(むらいゆうり)。学科は違うが、共通する教科を受ける事が多いために話す機会が多く、よく講義中に何人かとまとまって話している相手の一人だ。


「翔がそう言ってたのよ、明はいつも空ばっかり見てるって」


「……川嶋の野郎、教えなくていい奴に余計な事を教えやがって……」


 楽しそうに講義仲間の事を口にした彼女に、俺は顔を険しくしかめた。

 くだんの長身の青年の、万年仏頂面を思い出す。邑井が真似た口ぶりから、呆れるように言っていた事も、ありありと脳内だけで再現できた。


「そんなんどうでもいいし。もうそろそろ行かないと講義に間に合わなくなって困るんだけど。教室が別館で遠いの知ってるでしょ。単位落としても空見てたいんなら、私だけ先に戻らせて貰うわよ?」


「……サボらねぇよ。余裕もってアラームかけてたし」


 邑井が折り曲げていた体を伸ばし、ぐっと背中をそらした。

 俺も上体を起こして服についた芝生を払う。


「そう? だけど、早く行った方がいいんじゃない? 何か空暗いし、向こうの方灰色してるわよ」


「──────灰色?」


 その一言に、俺は、先ほどまで見ていた空を、勢い良く振り返った。

 雨が降るんじゃないかしら────そう続けられた邑井の声も、まったく頭に入らない。

 空の端に、塗りつけたような灰色が蔓延っている。

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