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月の光と葵の乙女~天正争乱~  作者: 三好八人衆
天正壬午の乱の章
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天正壬午の乱の章~第一話~

関東・・・現在の日本国の首都である東京が置かれている地方である。この地は足利尊氏によって室町幕府が開府されて以降、常に争乱と隣り合わせであった。

京に幕府を開いた尊氏は関東を治めるための出先機関を鎌倉に置き、長官として息子・基氏(もとうじ)を派遣した。これが『鎌倉公方(かまくらくぼう)』の始まりである。鎌倉公方の補佐には『関東管領(かんとうかんれい)』が置かれ、上杉氏が代々世襲した。

鎌倉公方は相模(さがみ)武蔵(むさし)上野(こうずけ)下野(しもつけ)下総(しもうさ)上総(かずさ)安房(あわ)常陸(ひたち)の八ヶ国(まとめて関八州(かんはっしゅう)と称する。それぞれ順番に現在の神奈川県・東京都及び埼玉県・群馬県・栃木県・千葉県全域・茨城県)に甲斐(かい)伊豆(いず)を支配し、これに後に加えられた出羽(でわ)陸奥(むつ)を治めた(それぞれ山梨県・静岡県の伊豆半島及び東京都伊豆諸島・青森県・岩手県・宮城県・福島県全域・秋田県・山形県全域)。

初代鎌倉公方・足利基氏(あしかがもとうじ)は兄で二代将軍の義詮(よしあきら)と協力して関東の統治に努めたが、彼の子の氏満(うじみつ)、孫の満兼(みつかね)と代を重ねるごとに対立していった・・・しかし反乱が起ころうとするたびに関東管領上杉家の歴代当主が文字通り命を懸けて制止して事なきを得ていたが、ついに四代鎌倉公方・持氏(もちうじ)の代には持氏が対立を深めていた時の関東管領上杉憲実(うえすぎのりざね)を討伐する軍を憲実の領国上野に派遣。対して当時の六代将軍足利義教(あしかがよしのり)は関東及び周辺の諸将に憲実救援を命じ、ついには持氏を討ち滅ぼした。1438年から翌39年まで起こったこの戦乱を永享(えいきょう)の乱という。

その後鎌倉公方は再興を果たしたが、混乱を経てその機能は下総国の古河城に移り、『古河公方(こがくぼう)』を名乗るようになる。8代将軍義政(よしまさ)はそれに代わる存在として、異母兄の政知(まさとも)を派遣したが、当時の関東の情勢不安から鎌倉に入ることができず、伊豆の堀越に居を構えることになった。この事からこちらは『堀越公方(ほりこしくぼう)』と呼ばれた。







「―――しかし、我が曾祖父である早雲(そううん)公・祖父氏綱(うじつな)公そして我が父氏康(うじやす)が両公方、関東管領といった旧勢力を討ち破り、この小田原城を中心とした北条帝国を築き上げたわけだな」

「大殿、誰に向かって喋っておられるのです?」

小田原城、本丸。武田信玄・上杉謙信でも攻め落とせなかった天下の名城の主の名は北条氏政(ほうじょううじまさ)という。立派なカイゼル髭を蓄えた立派な体格の彼こそ、戦乱に荒れていた関東を制覇しかけている北条家の四代当主である。

「うむ?ワシにもよくは分からんが、喋らなければならん気がしてな。そしてワシは『大殿』ではなく『皇帝』であるからして間違うことないように。ところで我が子・氏直(うじなお)率いる北条帝国軍はどうしておる?」

氏政はなぜか北条家を『北条帝国』当主である自分を『皇帝』と呼ぶよう家臣や民に強要する。別に呼ばなかったからとはいって罰があるわけでもないというところが、彼の人の好さを表しているかもしれない。

実はどこかのゆるゆる美少女皇帝を意識しているのかもしれない・・・まさかね。

「氏直様は神流川で滝川一益を破り、現在は上野諸将の掌握に努めておられるようです。この分では、信濃・甲斐の平定も容易いかと」

家臣の報告に、氏政は満足げな笑みを浮かべた。

「今回の遠征には、我が北条帝国軍の威光がかかっておる」

本能寺の変をいち早く知った氏政の決断は素早かった。嫡子・北条氏直(ほうじょううじなお)を総大将に5万余の軍勢を、不可侵条約を結んでいた織田領・上野に派遣。滝川一益を打ち破ってこの地を制し、続いて織田の諸将が逃げ散って空白地帯と化した信濃、そして川尻秀隆の守る甲斐を制する腹積もりであった。








徳川家嫡子・徳川松姫(とくがわまつひめ)の両親はとても仲良しだ。それは彼女にとってとても嬉しいことであった。自分と弟しかいないときは、いつでも寄り添っている。範囲的には手が届くところには2人は必ずいる。

夜はいつでも2人はいつでも一緒に寝る。彼女と弟は別の部屋で寝る。ちなみに夜の間の両親の部屋には行ったことがない。近付こうとすると、どこからともなく半蔵がやってきて、部屋に連れ戻されるからだ。その時は絶対半蔵は「姫にはまだ早いです」と言う。以前、両親の部屋から漏れ聞いた声から彼女なりに察して半蔵に「母上は父上に虐められているの?」と口にしたところ、半蔵は真っ赤な顔で「そのことはお忘れください!」と叫び、小さな声で「鷹村・・・コロス!」と物凄くドスを効かせた声で呟いていた。

・・・翌日、父がボロボロになって修練場に転がっていたが、何か関係があるのだろうか?







領国に戻った徳川家は、ただちに軍を動かした。家康率いる本隊は、光秀を討つべく尾張方面に、聖一率いる別働隊は新たに領地になった駿河国に入った。信濃方面で戦線を展開させ、伊豆でも軍を展開させている北条軍に備えるためである。江尻城に入城した聖一は甲斐を治める織田家臣・河尻肥前守秀隆(かわじりひぜんのかみひでたか)にもとへ、信濃へ向かうであろう北条軍に対してともにこれに当たろうという書状を持たせた使者を送るが―――

「河尻殿はすでに討死!?」

「は。河尻殿はどうも甲斐の国人衆からの評判が悪かったようで、信長公が斃れたと知れると同時に武田旧臣を中心にした一揆衆に甲府城を攻められ・・・」

詳しく聞くところによると、信長から甲斐を預かった河尻秀隆は武田旧臣を『自分に申し出れば以前の給与で召し抱える』と触れをだし、その言葉に釣られてやってきた武田旧臣を処刑するというやり方で甲斐の国人から恨みを買っていたらしい。その不満が高まって、ついに爆発し―――といったところだろう。聖一が発した使者は甲斐に到着する直前に、ある人物から教えられたという。

「ところで、ですな・・・一揆の主導者であった三井弥一郎(みついやいちろう)初鹿野信昌(はじかののぶまさ)両名からと思われる書状を預かってまいりました」

それを聖一が開くと、確かに三井・初鹿野両名の署名が記されていた。それによると、彼らは河尻に代わって徳川家に甲斐を治めてほしいと記され、徳川家が甲斐に入ったあかつきには彼ら武田残党軍は徳川家に降るというものであった。恐らく、織田信長による武田征伐の際に、武田の残党を徹底的に滅ぼした織田家に対して徳川家は彼らを保護したからではないだろうか・・・と聖一は推察した。

「罠・・・という可能性は?」

「多分だけど、ないと思う。武田が滅び、河尻殿が討たれた以上、甲斐に徳川家に対抗できる戦力はない。私たちが新府城を占拠するのは容易い」

駿河方面の軍を一任されている聖一は諸将を呼び集めて改めて軍議を開いた結果、甲斐への行軍を決定。江尻城と伊豆方面への抑えを大久保忠世に任せ、その旨を本隊へ通知した後に江尻城を出立した。







甲斐への進軍が江尻城内の者に知れ渡ると、彼らは進軍準備の為に一斉に動きだした。そのなかで、一人の少女が具足の音を鳴らして奥の間へ歩いていた。

健康的に焼けた小麦色の肌と短く刈りこんだ黒髪でボーイッシュな印象を与える少女は、本来は快活によく笑う表情を緊張に固めており、彼女がまだこの具足と腰に()いた刀の重みに慣れていない事が窺えた。

彼女は奥の間と廊下を遮る襖の前に立つと入室の許可を得て部屋に入り、目的の人物が一人でいるのを確認すると、口を開いた。

「とーちゃん!甲斐に攻め込むのか!?」

「そうだよ、秀康(ひでやす)。どうした?緊張してる?」

「し、してるもんか!」

少女の名は鷹村秀康(たかむらひでやす)。聖一の娘だが、彼との間に血の繋がりはない。もとは浮浪児であったが、縁あって彼の養子になった。武芸の才に秀で、『松を守るのはあたしの役目!』が口癖で、聖一夫妻の子とも上手くいっている頼りになる姉貴分だ。聖一個人の養子であるので、彼女は後々聖一個人の領地を継ぐことになっている。

「攻め込む・・・って言っても甲斐には敵はいないから、新府城を接収するくらいだよ。緊張することはないさ」

(とはいえ―――絶対に北条軍と激突することになる。それまでに甲斐を掌握しておかなきゃ・・・)

敵は大国北条。彼らを相手にするには時間が必要であった・・・



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