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月の光と葵の乙女~天正争乱~  作者: 三好八人衆
神君伊賀越えの章
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神君伊賀越えの章~第二話~

普段から武芸の鍛錬を欠かさぬ武士と農業に勤しむ土民が戦えば、普通なら武士が勝つ。しかし、どちらも人間である。平安の木曽(きそ)冠者(かじゃ)源義仲(みなもとのよしなか)や南北朝時代の新田義貞(にったよしさだ)が一矢を受けて討死したように、急所に攻撃を受ければ身分問わずに死に至るのである。

だから伊賀山中での戦闘でも、徳川家臣たちは竹槍を手に迫ってくる土民を相手に気を抜けぬ戦いを繰り広げていた。







徳川一行の陣形は先頭に服部半蔵・本多忠勝・酒井忠次・榊原康政・渡辺守綱が、家康と弓を使う聖一、そして数名の侍女と茶屋の護衛には大久保忠佐・井伊直政・酒井家次・大久保忠隣などが付く形である。






シュッ!

「ぐあっ!」





シュッ!

「がぁっ!」






聖一の正確無比な弓さばきから放たれる矢に射抜かれて、次々と土民たちが斃れ伏していく。容赦はしない。その油断こそが、戦場では命取りになることをわかっているから。

「見事な腕前ですな・・・さすがは『今与一(いまよいち)』鷹村聖一殿」

次々と土民を仕留める聖一の腕前に、茶屋が感嘆の声を上げる。平安の昔、弓の名手として知られた那須与一宗隆(なすのよいちむねたか)資隆(すけたか)とも)に例えられる聖一の腕前は、数々の戦いを経て今や日本国中にその名は鳴り響いていた。

前線でも百戦錬磨の徳川家臣団はリーチの差で有利な土民の懐に飛び込んで斬りつけ、追い払うことに成功した。

「さあ、急ぎましょう。いつ連中が戻ってくるかわかりませぬからな」







―――後の現代日本では、よく知られている明智光秀による軍事クーデター『本能寺の変』も当時は現代との情報網の差もあり、なかなか地方に知られるのは遅かった。当時、織田軍は北陸・中国・関東・摂津などで地方軍を展開させていた。織田軍の中でいち早く情報を知ったのは摂津で四国へと渡る準備をしていた信長の子・信孝擁する軍だったであろうが、信孝と彼を補佐する丹羽長秀は動くことができなかった。そしていち早く動いたのは皆さんご存知のあの人物である。そのなかで、敵対勢力の中でいち早く動いたのは関東・北条家であった。

関東北条氏4代当主・北条相模守氏政(ほうじょうさがみのかみうじまさ)嫡子氏直(うじなお)を総大将に擁した5万余の兵を織田家の関東管領・滝川左近将監一益(たきがわさこんしょうげんかずます)の守る上野国に派遣した。

滝川一益は2万の軍を率い、居城の厩橋城(うまやはしじょう)を出て神流川(かんながわ)で北条軍を迎撃。一度は撃退することに成功するが、体勢を立て直した北条軍の策に乗り大敗を喫した。一益は上野から本拠地のある伊勢長島城に逃げ帰り、武田家滅亡後、武田家の旧領信濃に領地を得た織田家の武将たちも信濃を放棄して逃げ帰り、信濃・上野の国人たちは次々と北条の軍門に降った。

また、武田の本拠だった甲斐国を預かっていた川尻秀隆(かわじりひでたか)も武田旧臣が中心となって起こした一揆に討たれ、甲斐・信濃は主なき空白地帯となった。徳川家は主君不在で動けず、北の越後国・上杉家は内乱と越中まで出てきていた柴田勝家軍に抑えの兵を割かれており、川中島に出て北条軍と睨み合うのが精いっぱいであった。

その中で徳川家は主君や仲間たちが生きて帰ってくることを信じ、留守を預かる大久保忠世・鳥居元忠を中心に軍を編成させていた。

―――いつでも主君の命令で軍事行動が起こせるように、臣下として準備を怠ることはできない。家康が帰ってきたとき、その時こそ徳川家の飛躍の時だと徳川家臣団の誰もが思っている。


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