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月の光と葵の乙女~天正争乱~  作者: 三好八人衆
小牧・長久手の戦いの章
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小牧・長久手の戦いの章~第七話~

四か月ぶり、久しぶりの投稿です。

忘れないでいてくれたでしょうか・・・?

5月12日21時40分:お気に入り登録件数100件に到達!ありがとうございます!!

岡崎城代・石川父子の出奔により、徳川家の三河防衛の最重要拠点である岡崎城の防備は手薄となってしまった。その報が小牧山に入ったとき、聖一たちはにわかに信じようとしなかったが、数正の叔父で遠江国掛川城主である石川家成が手薄になった岡崎城の守りの為に掛川より出陣したという報告が入ると、徳川陣営の動きは慌ただしくなった。

「拙いことになりました・・・岡崎城は三河防衛の要であると同時に、兵糧庫。さらには我らが主君の生まれた城として精神的な柱でもあります。この城が奪われたとなると、ただ城を奪われた以上の痛手があります」

史実よりも早すぎる石川数正の出奔。幸いだったのは、数正にこれからの作戦を伝えていなかったこと。しかし『西三河の旗頭』である彼の出奔は、三河中の城の弱点は筒抜けになったも同然である。

「・・・ともかく、手を打ちましょう。中将殿は清州城に戻ってください。羽柴軍にこの城を奪われると拙いことになりますし、伊勢方面にも目を光らせて頂きたいのです」

「う、うむ。承知いたした」

信雄は慌ただしく本陣を出ていく。決戦を前に織田軍が不在になるのは痛いが、致し方ない。さらに服部半蔵の手の者を呼び指示を下す。

「三河中の城がすべて奪われても構いません。兵力を岡崎城に結集させて羽柴軍から耐えてください」

「石川殿の援軍が来るまでの城の守りは・・・」

聖一の脳裏に、浜松城に残してきた養女の名が浮かんだ。そういえば、先の北条家との戦いではほとんど出番がなく、拗ねていたのを覚えている。

「若い可能性に賭けましょう。秀康を主将に、真田信幸殿に軍師を任せます」

二人には足枷にならぬよう、兵は岡崎までの護衛の為の最小限に留めるように指示をだして使者を走らせた。




石川数正出奔の報告を受けた羽柴陣営の動きは素早かった。岡崎城攻略部隊を編制に掛かった。大将に秀吉の甥・三好秀次を据え、軍監に堀秀政を置き、先鋒には池田恒興とその息子元助・輝政の池田一族。第二陣には羽黒の戦いでのリベンジに燃える森長可が控える。第三陣には軍監の堀秀政、そして最後尾に総大将の秀次が控えるという布陣である。総勢は二万。

先鋒・池田勢は進路上の織田・徳川方の岩崎城をはじめとする諸城を攻略し、着々と岡崎城に迫っていた。岩崎城を攻め落とし、休息を取っていた池田隊のなかで、大将の恒興が浮かない顔をしているのを元助が見かけ、歩み寄っていった。

「父上、如何されました」

「・・・元助か。なに、少々不気味に思ってな」

「不気味・・・にございますか?」

「佐吉が事よ。奴に大谷吉継なる軍師が付いているのは知っておるな?」

佐吉、と言えば秀吉に仕えている主に後方支援や政務を得意にしている石田三成という茶坊主上がりの男であったと元助は記憶していた。そして、彼の傍に目だけを出した頭巾をかぶった不気味な雰囲気の男がいる事も。

「先ごろの賤ヶ岳での柴田殿との一戦。その最中に岐阜で信孝殿が蜂起すると佐吉が申しておっただろう?」

「はい。初めは殿も信じようとはしなかったようですが・・・。結果として信孝殿は挙兵した。婚約者だった殿を裏切る形で」

織田信長は生前、嫡男にして唯一の実子・信忠以外にも一族から信雄・信孝という二人の養子を迎えていた。その二人の婚約者がそれぞれ明智光秀と羽柴秀吉であったのだ。

「信孝殿の挙兵は柴田殿との密約であったという。それを何故佐吉が知りえたのか・・・わしは疑問に思った。軍師の黒田殿ならともかく、なぜ官吏になって日も浅く、これという家臣も情報を得る伝手もない奴が知りえたのか。わしはあの大谷吉継が何らかの情報を知り得ていたのではないかと考えておる」

「まさか・・・考えすぎですよ、父上。彼が未来から来たとでも?」

息子は一笑に付し、進軍の準備を指示するため立ち去ったが、恒興の胸に去来する嫌な予感は払拭されなかった。






池田恒興が胸に去来する不安と戦っている頃、小牧山の徳川本隊も窮地に陥っていた。犬山城より羽柴本隊が出陣し、小牧山の間近にある楽田城に入城。徳川軍を岡崎に向かわせず、釘付けにする動きを取ったのである。

一方の徳川軍は別働隊出陣の報はすぐに入ったが楽田城の羽柴隊の目もあり動けず、岡崎城救援もままならない状況となっていた。その隙に伊勢で滝川一益が羽柴方として挙兵し、織田・徳川方の佐久間正勝が守る蟹江城を攻略。信雄は単独で救援を試みたものの、敗退している。

「どうすれば・・・このままでは岡崎城が奪われてしまう」

史実とは大きく変わった小牧・長久手の戦い。聖一はひとり、小牧山に設えられた一室で頭を悩ませていた。

今でこそ徳川家の軍師として名を馳せている聖一だが、元々はと言えば、未来の知識がある一介の高校生に過ぎない。

しかし、今の彼の立場は徳川家軍師。主君を助け、この均衡した状況を討ち破るための策を練らなければならない・・・

(悩んでおるな、若いの)

「えっ!?」

聖一ひとりしかいないはずの部屋に響いた老人の声。驚いて周りを見渡してみるが、部屋には彼ひとり。

(ふぉっふぉっふぉ・・・わしの声に聞き覚えはないか?)

「・・・あなたは、姉川の時の・・・」

聞き覚えがあった。それは姉川合戦の際、聖一に語りかけてきた声なき声。それが久しぶりに語りかけてきたのだ。

(ふむ。数多の激戦を生き抜き、少しは成長したとは思っていたが・・・まだまだじゃのう)

「・・・面目ない」

(ふぉっふぉ。自らの非を認めるその素直さは認めてやろう。さてさて、その素直さに免じて少し『ひんと』を与えてやろうかのぅ)

面白がるような老人の声が、真剣なものに代わる。

(自らの力を卑下するな。そなたにはもう、初めからの知識以上のものが備わっておる。それは自ら戦場に立ち、自らの力で戦局を動かしてきた経験値じゃ)

(自らと軍が動けぬなら、筆を動かせ。言葉で動かせ。人を動かせ。動かせる力が、そなたにはもう備わっておる)

「筆を動かせ、人を動かせ・・・」

(常に矢面に立ってきたお主『だけ』が出来る事。『奴』には出来ぬ事じゃ)

「え?『奴』って・・・?」

(破れぬ戦局などない。苦境の中にも、必ず打開策はある。自らの後悔のない決断をせよ)

それだけ言い残し、声は途絶えた。







老人の声が途絶えた後、聖一は筆を取った。老人の言葉に従い、黙々と筆を進める。

(僕は『帝王の師』なんて器じゃないかもしれない。でも、徳川家を・・・竹を助けたいという気持ちは、誰にも負けない)

一心不乱に書を認める。その内容は、この危機的戦況を打開するための秘策。

(打開できない苦境なんてない!絶対にこの戦い、勝ってみせる!)

書の最後に花押を印し、人を呼んだ。

「お呼びでしょうか」

一発逆転の秘策。史実では失敗したが、今度は成功させてみせる。変わってしまった歴史、ならばとことん変えてやる!

「これを土佐の長宗我部元親殿に届けてください。こちらは越中の佐々成政殿、こちらは紀伊の雑賀衆の頭領、鈴木孫一殿に・・・」

使者に託された三通の書状。徳川軍の逆転策は、この書状に託された。


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