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月の光と葵の乙女~天正争乱~  作者: 三好八人衆
小牧・長久手の戦いの章
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小牧・長久手の戦いの章~第五話~

徳川軍が尾張国・清州城に入った頃、羽柴軍先鋒・池田恒興は犬山城を攻略して羽柴軍の前線拠点とした。対して徳川軍は小牧山の城址を占領。戦場を一望できる高所を確保し、犬山城に入った羽柴軍本隊と対峙した。






「徳川殿。亡き養母上(ははうえ)との盟約を守り、この信雄に援軍頂けること感謝いたしますぞ!」

そう言って織田信雄は、家康の両手を固く握って謝意を示した。

「の、信雄殿・・・貴殿の気持ちはもう分かりましたから・・・」

両手を握られ、ぶんぶんと振られている家康は少々困り顔。

「中将様、これで手を握るの何度目だっけ・・・」

「もう私は10を超えたところで数えるのをやめた」

それを遠目で眺める康政と忠勝は呆れ顔。一緒に眺める聖一も苦笑するしかない。

「まぁ、信雄様もそれだけ徳川家の力を頼ってくれているわけだし・・・それに」

聖一は間違っても信雄には聞こえぬよう、ポツリと呟いた。

「信雄様は羽柴陣営と戦うための神輿・・・精々利用させてもらおうか」





尾張国・犬山城。白帝城とも呼ばれ、後に国宝にも指定されるこの城は羽柴陣営の前線基地が置かれていた。元は信雄の城だったが、羽柴方についた池田恒興がこれを攻略して拠点としていたのである。

その犬山城の天守閣から濃尾平野を眺めるひとりの武将。名を池田恒興と言った。

彼は織田信雄の養母・織田信長の乳姉弟(ちきょうだい)(恒興の母が信長の乳母)で、信長に従って数々の合戦に従軍してきた歴戦の将。先の清州会議で羽柴秀吉・丹羽長秀・柴田勝家と肩を並べて会議に参加した。

「父上、こちらに居られたのですか」

「む・・・元助と輝政か」

恒興の後ろから天守閣に登ってきたのは彼の長男・元助と二男の輝政。

「如何されたのですか?最近、あまり元気がないようにお見受けしますが・・・」

「いや・・・こうして眺めていると、上様と山野を駆け回った頃が懐かしいと思うてな・・・」

正直に言えば、恒興は織田家の主導権を巡るこの争いにウンザリしていた。先年の『清州会議』で秀吉が主導権を握ってからというもの、すでにあの小娘は天下人気取り。織田家と―――心から尊敬する信長公とともにこれまで築いてきたものが奪われ、内心忸怩たる思いがある。しかしこれも池田家存続の為、信忠公の後を継いだ三法師様の為と信雄の誘いを蹴って羽柴方に参じたのである。

「ところで息子らよ。何か用事があったのではないか?」

「あ・・・そうでございました。筑前殿より、軍議を始める故集まるよう知らせが・・・」

(父上の背は、こんなに小さかっただろうか)

すぐに参ろう、そう言って階下に降りて行った父の背を見て、息子たちはそう思わずにはいられなかった・・・






徳川譜代の家臣・石川数正が留守を預かる三河国・岡崎城。城代・石川数正に来客が訪れていた。

「何用ですかな・・・戦時中に、軍使でもないのに敵将の守る城に来るなど正気とは思えませぬがな」

「いやぁ、なに。徳川家の中でも視野の広い石川殿の城だからこそ訪れたのですよ。ほかの方の城に行ったならば、この大谷紀之介、城門で首と胴が永遠に別れておりまする」

そう、岡崎城を訪れていたのは大谷吉継こと藤津栄治であった。彼は素顔を隠すために付けているが、頭巾の隙間から僅かに覗くことができる目は、こちらを小馬鹿にするようにニヤニヤとしていた。

「して、用はなにかな?」

「なに、大したことではありませぬ・・・」







「石川伯耆殿。この岡崎城、我々に譲っていただきたい」







盗み読んだ書状の内容を纏めたものを送った。とりあえずこれで弟たちの無事は確保されるだろう・・・

けれども、彼女は後悔の念に苛まれていた。

「ごめんなさい・・・鷹村様、ごめんなさい・・・」

それは、内通者である自分を信頼してくれている聖一を裏切った後悔の念。自分は普段と変わらない仕事をした―――はずなのに、初芽は自責の念に駆られていた。

(どうして?いつもの事じゃない・・・なんでこんなに涙が出るの・・・?)

拭っても、拭っても溢れる涙。彼女がその理由を知るのは、もう少し後の話となる・・・


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