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月の光と葵の乙女~天正争乱~  作者: 三好八人衆
小牧・長久手の戦いの章
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小牧・長久手の戦いの章~第二話~

投稿が遅れて申し訳ないです!

新生活に入るに当たり、自分のパソコンがなかったり、仕事が忙しくてなかなかこちらを投稿できませんでした・・・

―――あの方が生まれた日の事を、昨日のように覚えている。

あの方が母上様と一時生き別れ、父上様のもとを離れた時からあの方の成長を見守ってきた。

―――初めは―――無礼かもしれないが―――妹が成長する過程を、兄のような目線で見守ってきたつもりだった。しかし―――いつからだろう・・・

日々美しく成長していくあの方を、『女』として見ていくようになったのは―――






「―――殿!」

家臣が自らを呼ぶ声に意識を覚醒させ、徳川家臣・三河国岡崎城代石川伯耆守数正(いしかわほうきのかみかずまさ)は現在の状況を思い出した。

ここは彼が主君から預けられている岡崎城の城主の間。居並ぶのは石川家の家臣と息子達。自分を呼んだのは数正の傍に控える石川家の老臣である。

「・・・おお、すまぬな。うたた寝していたようだ。して、なんだったかな?」

「は。これから来る羽柴家との戦いに備えての・・・」

そうだった。主君に恋慕したのも昔の話・・・今の主は徳川家の救世主たる青年の妻で、二児の母。

数正は過去の思いに蓋をし、評定に神経を集中させた。







この世界に来て数年。いい加減筆で和紙に長文を書くことにも慣れた聖一は、この日も机に向かって筆を走らせていた。宛先は越中国(えっちゅうのくに)(現在の富山県)の佐々内蔵助成政(さっさくらのすけなりまさ)。これから来る秀吉との戦いに備え、秀吉軍の北陸の戦力を封じる作戦である。

この他にも四国の長宗我部氏や紀伊国(きいのくに)(現在の和歌山県)の傭兵集団『雑賀衆(さいかしゅう)』に手紙をだし、秀吉軍の戦力を分散させることに成功。特に雑賀衆は築城中の秀吉の新しい本拠・摂津国大坂城に迫る事を聖一に確約し、これで秀吉軍本隊の出陣を遅らせることができそうだ。

文の末尾に自分の名前を署名し、自分の家臣にそれを持たせて下がらせるのと入れ替わりに、一人の少女が入ってきた。

「鷹村様、お茶とお茶菓子をお持ちしました」

「ありがとう、初芽さん」

入ってきたのは最近鷹村家で召し抱えることになった侍女の初芽。家が貧しく、亡くなった両親に代わって弟妹たちを養うために職を転々としてきた苦労人で、以前両親が仕えていたという堺の豪商の紹介状を持って鷹村家の門を叩き、聖一に仕えることになったのである。

「そろそろ初芽さんが当家に来て1か月になりますか・・・貴女はよく働いてくれていますね」

「い、いえ・・・私などにはもったいないお言葉です」

しかしこの少女はよく働く。さらに細かいところまでよく気が付き、気も優しいため、鷹村家だけではなく、徳川家中の若侍の間でも人気があるようだ。初芽は特別美人というわけでもないが、彼らから言わせると『一緒にいると落ち着く』女性であるという。

「では、私は・・・」

「あ、ちょっと待ってください」

聖一はお茶とお茶菓子を置いて退出しようとした初芽を呼び止める。キョトンとした様子でこちらを見つめる彼女に、聖一は照れ臭そうに笑みを浮かべる。

「あの・・・もしこの後何もなかったらでいいんですが・・・私の話し相手になってくれませんか?最近、ひとりで息抜きをするのにも少々飽きまして」

天下に名を馳せる徳川家の軍師からの意外な『お願い』に小さく笑みをこぼし、「・・・私でよければ、喜んで」と膝を曲げ、腰を落とした。








その夜・・・聖一は月が照らし出す浜松城本丸の門を潜っていた。駆け寄ってきた小者に愛馬の轡を預け、呼び出された城内の一室に向かう。久しぶりに我が子の寝顔でも見たかったが、今夜は父としてではなく徳川家の重臣として登城している。

案内された部屋は夜にもかかわらず、何も明かりがともされていなかった。持っていた明かりを廊下に(・・・)置き、真っ暗な部屋に入る。戸を閉じ、部屋の中央に座る。

「遅いぞ」

「ごめん、半蔵」

ひとりで待つことしばし。部屋のいずこからか声が聞こえてきたが、聖一は全く動じることなく会話を始める。

相手は服部半蔵正成(はっとりはんぞうまさなり)。徳川家の隠密頭を務める少女だが、家中でも彼女を知っている者は限られている。聖一は彼女の姿を知る数少ない人物であった。

あまり人に姿を見られるのを嫌う彼女のために、聖一は明かりを外に出していたのである。

「依頼の結果が出たぞ。貴様の所の侍女の身元を洗ってみたら・・・面白いものが出てきた」

聖一の背後で何かが落ちた音。振り返ってみると、そこには一通の巻物が転がっていた。半蔵に断わって廊下に置いていた明かりを部屋に持ち込み、巻物を開く。

「これは・・・」

その内容に、思わず顔をしかめる。それほどまでに、彼女の『本来の経歴』はひどいものだった。

「・・・羽柴の家臣に、彼女の死んだ両親が仕えていた主君と同じ大谷姓の者がいたな。その人物について、調べる必要がありそうだ・・・」


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