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月の光と葵の乙女~天正争乱~  作者: 三好八人衆
天正壬午の乱の章
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天正壬午の乱の章~第七話~

夜の帳が落ち、月が地上を照らし出す。信濃の国人・真田昌幸の居城である真田本城の本丸御殿では、徳川家との同盟成立を祝し、鷹村聖一を主賓に迎えて宴が催されていた。無礼講とあって、宴会場となっている謁見の間はすごい騒ぎになっていた。

「おうおうっ、鷹村殿も呑んでおられるか!?」

「ええ、昌幸殿。美味しく頂いております」

すでに出来上がった昌幸から、新たに杯にお酒が注がれる。周りを見ると、みんながみんな赤ら顔ですでに出来上がっており、彼の護衛についていた渡辺半蔵も昌幸に無理やり酒を飲まされてダウンし、すでに彼女は寝室に下がっている。もう1人の護衛である彼の養女(むすめ)秀康は、不思議なことにいくら酒を飲んでも全く顔色が変わらない。聖一の部下であった彼女の実父が酒に強かったからなのかもしれない。

従兄者(あにじゃ)(それがし)が踊りを披露しましょう!」

「おお、踊れ三十郎!」

踊りだす者、謡いだす者、侍女にセクハラをする者、侍女に張り倒される者・・・真田本城の宴は、日付が変わるまで続いた。









篝火を持った兵士が見回りを行っている姿が見える。軒先に腰掛けた聖一と昌幸は、先ほどとは打って変わって静かに杯を傾けていた。

「・・・分かりました。信幸殿をお預かりします」

「本来なら信幸をを手元に置いて、信繁を預けねばならぬはずだが・・・どうせ預けるなら、次代の真田を担って行かねばならぬ奴を預けた方が良かろうと思ってな」

本来なら人質に送る男子は次男以降の子である場合が多い。家康の時の場合のように、子が一人しかいない場合はその限りではないが・・・

「政務見習いってとこだな。これから武辺者だけでは生き残れない時代が来るだろう・・・俺も信玄公のもとに人質に遣られたけど、可愛がられたもんだ。人質に行って、学んだこともあるしな」

徳川家に従う上で、真田昌幸が出した条件は3つあった。先に述べた『沼田領の安堵』の他に『新城築城の費用の一部負担』。これは徳川家の従属に際して北の上杉家に備え、上田の地に真田本城に代わる堅固な城を築きたいという昌幸と、いずれ来るであろう羽柴秀吉との戦いに備えて北の上杉家の脅威を少しでも削ぎたい徳川家の思惑が一致し、すぐに許可が下った。

そして最後の3つ目が『こちらから出す人質は鷹村聖一のもとの預ける』というものであった。

「徳川家の重臣どもが俺を評価していないことぐらいはわかっている。どうせ息子を預けて忠誠を誓うなら、自分を評価してくれる人間に預けたいんだよ」

昌幸はこう言って、聖一に嫡男・信幸を預けることに決めたのだった。




「では父上、行ってまいります」

住み慣れた城の門の前で、真田信幸は見送りに来た父に旅立ちの前の挨拶を行っていた。彼が纏うのは、昨夜母から渡された手縫いの着物。携えているのは真田家伝来の刀。同じく父から贈られたものだ。

「母上にも、お元気であられますようにとお伝え下さい」

この場に母はいなかった。「別れが辛くなるから」と、彼女は御殿の玄関までの見送りになったのだ。

「伝えておこう。信繁には何かあるか?」

「・・・勢いだけではなく、考えて戦をするよう伝えて下さい」

「・・・それも伝えておこう」

彼の妹・信繁は信幸に代わって沼田城代を務めているが、父や兄から見て猪突猛進の猪武者の一面があり、信幸は兄として案じていた。

「信幸、そろそろ・・・」

「はい。では・・・行ってまいります!」

愛馬にまたがり、すでに先で待っていた聖一たち徳川一行に向かって駆けて行く。その後ろ姿を見送る昌幸の背は、少し寂しそうに家臣たちには感じた。






武田旧領をめぐる天正壬午の乱は、徳川家臣・鳥居元忠が北条家嫡子・北条氏直に嫁ぐという形で和平が成立。徳川家は東に版図を広げることに成功した。さらに希代の謀将真田昌幸を傘下に加え、信濃方面の憂いはほぼ完全に除かれた。

一方、羽柴秀吉は賤ヶ岳の戦いで柴田勝家・織田信孝を滅ぼし、池田・前田・丹羽ら織田家の旧臣もほぼすべて秀吉に従い、彼女は織田信長の後継者として地位を確固たるものとした。

しかし、それを良しとしない者がいた。滅ぼされた信孝と同じく、信長の養子であった織田信雄であった。たしかに彼から見れば秀吉は養母の家臣であったわけで、家臣である秀吉が自分よりも多くの勢力を抱えていては、それは面白くはないはずだ。

信雄は秀吉に内通した疑いで自らの家老三名を処断すると、秀吉に対して宣戦布告。同時に徳川家に同盟を申し出る。

いずれ秀吉とは戦わなければならぬと考えていた家康は同盟を申し入れ、羽柴軍との決戦の大義名分を得る。さらに聖一の帰国を待って、同盟の詳細を詰めることとした・・・

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