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短編小噺シリーズ ~評価の高いものを連載化させます~

伯爵家の三男に神の祝福を受けて転生したので、気ままに前世の夢だったバーを開きます

作者: 雪丸
掲載日:2026/05/06

短編小噺シリーズ 

高評価いただきありがとうございます。50ptを超えたので連載版を書かせていただきます!

連載が始まりましたらXにてお知らせします!!

X:@yukimaru2357

 ――酒は、人を救う。


 前世の俺は、そう信じていた。

 別に大げさな話じゃない。酒で人生が好転するとか、嫌なことを忘れられるとか、そんな安っぽい意味でもない。

 ただ、疲れ切った心を少しだけ軽くしてくれる場所が、酒場にはあった。

 仕事終わりに立ち寄る、小さなバー。

 カウンター八席だけの古びた店で、無口なマスターが静かに酒を出す。客も騒がず、ただグラスを傾けるだけ。

 あの空間が、好きだった。

 ブラック企業勤めだった俺にとって、そこだけが“自分に戻れる場所”だった。


 ――いつか、自分のバーを開きたい。


 そう思いながら、結局夢は叶わなかった。

 連日の残業。積み重なる疲労。そしてある冬の日、会社帰りの横断歩道で、俺の意識は唐突に途切れた。




 次に目を覚ました時、俺は見知らぬ天井を見上げていた。


「アルフレッド様! お気がつかれましたか!」


 飛び込んできたメイド服の少女を見て、俺は数秒固まった。

 豪華な部屋。高級そうな家具。身体に馴染まない感覚。

 そして脳内に流れ込む、別人の記憶。


 エルグラン伯爵家三男――アルフレッド。


 それが今の俺らしい。

 長男は王立学院首席の秀才。

 次男は騎士団期待の天才剣士。

 対して三男のアルフレッドは、のんびりした性格で、周囲からも争いに向かないと思われている存在だった。


 ……最高じゃないか。


 貴族社会には面倒が多いが、三男なら継承争いとも無縁。金にも困らない。

 つまり、


「自由に生きられるってことだろ?」


 その夜、俺は一人で部屋にいた。

 窓の外には異世界の月。

 そこで突然、身体の奥から熱が溢れた。


『汝に祝福を授ける』


 頭の中に声が響く。


『酒を愛した魂よ。酒神ディオネアの名のもとに、汝へ加護を与える』


 視界に文字が浮かび上がった。


【酒神デュオニュソスの祝福】

・酒類生成

・品質鑑定

・空間収納

・状態異常耐性

・酔いによる能力向上


「……最後だけ方向性おかしくない?」


 思わず突っ込む。

 だが試しに念じると、掌の上にグラスが現れた。

 琥珀色の液体。甘く香ばしい香り。

 一口飲んだ瞬間、俺は絶句した。


「……美味すぎる」


 前世でも会社のお偉いさんとの付き合いで高級酒を飲んだことがある。

 だがこの酒はそれとはまた違った。

 舌触り、香り、余韻。その全てが完璧だった。

 理解した。

 この祝福は、“酒を作る力”だ。

 ならば。


「バー、やれるじゃん」


 胸が高鳴った。

 前世で叶わなかった夢。

 それを、この世界でなら実現できる。

 俺はその場で決意した。


 ――異世界で、自分のバーを開く。




 それから三年。

 王都の片隅に、小さなバーができた。


 ――《Moon Drop》。


 木製の扉に、青い月の看板。

 立地は微妙。繁華街から少し外れた裏通り。だが俺はこの静かな場所が気に入っていた。

 店内はカウンター中心。

 照明は落ち着いた暖色。

 そして何より、“酒”には自信があった。


「いらっしゃいませ」


 最初の客は、疲れ切った冒険者だった。


「……酒、あるか?」


「もちろん」


 差し出したのは、この世界では存在しないカクテル。

 氷が鳴る。

 男は怪訝そうに飲み――目を見開いた。


「なんだこれ……」


「モスコミュールです」


「意味は分からんが、美味い」


 その日から、少しずつ客が増え始めた。

 騎士、商人、冒険者、貴族。

 立場も種族も違う人々が、夜だけは肩書きを忘れて酒を飲む。

 それが俺の理想だった。

 ある日、一人の女性が来店した。

 銀髪に赤い瞳。黒いローブを羽織った美女。


「おすすめを」


 静かな声だった。

 ただ、只者ではない気配がある。

 俺は少し考え、赤いカクテルを作った。


「ブラッディ・メアリーです」


 彼女は一口飲み、微かに笑った。


「……面白い店ね」


 それから彼女は常連になった。

 名前はリリア。

 だが後に判明する。

 彼女の正体は――王国宮廷魔導師長だった。


「なんでそんな偉い人がこんな裏通りに?」


「静かだから」


 そう言って彼女は酒を飲む。

 その口コミは凄まじかった。

 気づけば《Moon Drop》は、王都でも有名な店になっていた。




 ある雨の夜。

 店の扉が乱暴に開かれた。


「……営業中か?」


 入ってきたのは、全身傷だらけの男だった。

 漆黒の鎧。圧倒的な威圧感。

 酒を飲んでいた客たちが息を呑む。

 男はカウンターに座ると、低い声で言った。


「強い酒をくれ」


 ただならぬ空気だった。

 俺は無言でグラスを置く。

 男は一気に飲み干し、深く息を吐いた。


「……久しぶりだ。酒を美味いと思ったのは」


 その瞬間。

 外から轟音が響いた。

 窓ガラスが震える。

 次の瞬間、店の外壁が吹き飛んだ。


「見つけたぞ、魔王!!」


 騎士団だった。

 剣を構えた騎士たちが店を包囲している。

 俺は硬直した。


 ……魔王?


 カウンターの男を見る。

 男は面倒そうに頭を掻いた。


「静かに飲みたかったんだがな」


 空気が震えた。

 魔力。そして圧倒的な力。

 客たちは悲鳴を上げる。

 次の瞬間、騎士団長が叫んだ。


「総員、攻撃――」


「待て」


 気づけば、俺は前に出ていた。


「うちの店で暴れるなら、客だろうが騎士だろうが出禁だ」


 一瞬、場が凍る。

 騎士たちは呆然とし、魔王すら目を丸くした。


「……お前、俺が怖くないのか?」


「怖いよ。でも酒飲んでる時くらい、平和にしたいだろ」


 沈黙。

 そして、魔王は突然大笑いした。


「ははははは!! 面白い人間だ!」


 凄まじい威圧感が消える。

 騎士たちは困惑していた。

 すると奥から、リリアが姿を現す。


「騎士団、剣を下げなさい」


「宮廷魔導師長!?」


「ここで戦闘を行えば周辺被害が出る。……それに」


 彼女は小さく笑った。


「この店で騒ぐのは禁止よ」


 結局、その夜。

 宮廷魔導師長、騎士団長、魔王の三人が、同じカウンターで酒を飲むことになった。


「……悪くないな、この酒」

「だろ?」


そんな光景を見ながら、俺は思った。

ああ―――これがやりたかったんだ、と。


 《Moon Drop》には、今日も様々な客が訪れる。


 悩みを抱えた冒険者、失恋した令嬢、任務帰りの騎士。そして時々、変装した王女や魔王まで来る。

 この店では、肩書きは関係ない。

 酒を飲みたい奴が来ればいい。

 ある夜、常連客に聞かれた。


「マスターは、なんでこの店を始めたんだ?」


 俺は少し考え、グラスを磨きながら答えた。


「夢だったんだよ」


「夢?」


「誰かが、少しだけ楽になれる場所を作るのが」


 静かな音楽、グラスの音、柔らかな灯り。

 前世で憧れた場所が、今ここにある。

 窓の外には異世界の月。

 俺は酒を注ぎながら、小さく笑った。


500pv or 50pt以上いただけた評価の高いものを連載化させます!

高評価よろしくお願いします!

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