表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生命魔法使いに転生したので、聖者の皮を被って気ままに生きようと思います  作者: aramakid
冒険者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/131

第89話 位階Ⅲ

 十九層。


 通路の奥から足音が近付いてくる。


 ライルだ。


 肩で息をしながら剣を引きずるように歩いてくる。

 防具には爪痕が増え、額から落ちた汗が顎先を伝っていた。


「ノア、頼む」


 返事の代わりに『ヒール』を流す。


 淡い光がライルを包む。


 裂けた皮膚が閉じ、強張っていた肩の力が抜けた。

 荒かった呼吸も整っていく。


「っはぁ……生き返る」


 ライルが首を回す。

 握り直した剣を肩へ担ぎ、そのまま次の広間へ向かった。


「今度は負けねぇ」


 通路の先ですぐにオークの咆哮が響く。


 入れ替わるようにエレナが壁へ手をつきながら戻ってきた。

 ローブの裾は裂け、杖を握る指先も赤く擦れている。


 以前みたいに後へ下がったままではない。

 近付かれた時に対処できるよう、杖術まで使い始めていた。


「ふぅ……疲れた……」


 壁へ背中を預ける。


「ちょっと休憩。魔力、空っぽになりそう」


 僕は『ヒール』をかける。


 光が流れ込むたび、エレナの呼吸が落ち着いていく。


「エレナって、そういう頑張るところありますよね」


「え?」


 エレナが顔を上げる。


「僕、好きですよ」


「……は?」


 間抜けな声が漏れた。

 数秒遅れて頬が熱を持つ。


「ちょ、ちょっとノア、何言って——」


 首元の『聖心の調律』が淡く発光した。


 薄桃色の光が、鼓動に合わせて明滅する。


 エレナが言葉を止める。

 肩の力が抜け、強張っていた表情がほどけた。


「……なんか、元気出てきた」


 握り直した杖を見下ろし、それから顔を背ける。


「もう一部屋いってくる」


 早口で言い捨て、そのまま近くの広間へ駆け込んだ。


 数秒後。


「——『アイスバレット』!」


 通路の奥で、張りのある詠唱が響いた。





「ノア!上がった!位階!」


 通路の奥から、リサが駆け込んできた。


 息は上がっているのに、足取りは軽い。

 頬についた汗を拭うより先に、投斧を掲げて笑った。


 僕は視線を向け、『鑑定』を発動した。


【名 前】リサ

【位 階】Ⅲ

【魔 力】C

【スキル】怪力 身体強化 投擲 解体 剛腕


 位階だけじゃない。


 魔力も伸びている。

 新しいスキルまで増えていた。


「なんか、すごい!」


 リサが両腕を開く。


「体が勝手に動く感じ!こうしたいって思ったら、そのまま動けるの!」


 興奮した声のまま、投斧を放つ。


 斧が一直線に飛ぶ。


 通路の壁を掠め、弧を描いた。

 そのまま戻ってきた斧が、吸い込まれるみたいにリサの手へ収まる。


「うわ、なにこれ!」


 リサ自身が一番驚いていた。


 握った斧を何度も見返す。


 背後で足音が重なる。今度はカイだ。

 装備は汚れているが、それでも足取りは乱れていない。


 僕はカイを『鑑定』する。


【名 前】カイ

【位 階】Ⅲ

【魔 力】C

【スキル】防御強化 身体強化 自己再生 大盾術 圧殺


 最後に増えたスキルを見て、僕はカイの大盾へ視線を向けた。


 中央には、人の頭ほどもある鋼塊が据えられている。

 オークを殴り潰したせいか、表面には肉片と石粉がこびりついていた。


「……強くなった」


 カイが短く呟く。


 言葉の意味を確かめるみたいに、大盾を壁へ押し当てた。

 押し込む動作は力任せというより、重量そのものを移動させる動きだった。


 石壁が軋む。


 鈍い音と共に、石壁が内側から割れたみたいに陥没する。

 砕けた破片が足元へ転がった。


「お前、それもう盾っていうか破城槌だろ……」


 ちょうど戻ってきたライルが呆れたように言う。


 全身から湯気みたいに熱気を立たせていた。

 剣を肩へ担いだまま笑う。


「俺も、やっと上がった」


 額の汗を腕で拭ったところで、『鑑定』を走らせる。


【名 前】ライル

【位 階】Ⅲ

【魔 力】C

【スキル】剣術 身体強化 超反応 剛剣術


 試すように、剣を振った。


 風が鳴る。


 空振りなのに、剣圧だけで床の埃が吹き飛んだ。


「お、おぉ……!」


 本人が一番驚いている。


「……これ、やばいな」


 獣みたいな笑みの奥に熱が混ざっていた。


 最後に戻ってきたのはエレナだった。


 ローブの袖は裂け、杖を支える腕も震えている。


 それでも視線だけは前を向いたままだった。


「……上がったわ」


 壁へ背中を預けたまま、呼吸を整える。


 僕は『鑑定』を発動した。


【名 前】エレナ

【位 階】Ⅲ

【魔 力】A

【スキル】氷魔法 魔力感知 魔力操作 多重発動 杖術

【魔 法】アイスボール アイスバレット アイスバインド アイスウォール アイスコフィン


 魔力はAまで伸びている。


 エレナ自身も感覚が変わったらしい。

 手のひらを見つめて、何度か指を開閉した。


「……見える」


「何がです?」


「魔力の流れ。前よりずっと」


 エレナが通路の奥へ腕を向ける。


 氷弾が三発、同時に空中へ浮かんだ。


 放たれた氷が、吸い込まれるように消える。

 間を置かず、次弾。

 さらに次。


 エレナが息を呑む。


「……嘘。こんなに簡単に」


 エレナが再び自分の手のひらを見つめる。


「これで、全員上がったな。それじゃ打ち上げだ!」


 言いながら、ライルが剣を腰の鞘に戻す。

 歩き出す足取りは軽い。


 カイが大盾を担ぎ直す。

 リサも投斧をホルダーにしまった。


 僕らは二十層まで降りると、地上階に転移した。


 外に出た瞬間、やわらかな春風が頬を撫でた。

 冬の名残はすっかり薄れ、広場の石畳には淡い陽だまりが広がっている。

 露店の屋根が風に揺れ、はためく布の音に、どこか浮き立つようなざわめきが混じっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ