表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生命魔法使いに転生したので、聖者の皮を被って気ままに生きようと思います  作者: aramakid
冒険者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/130

第87話 壁

 まばゆい光が収まり、脈打つ幾何学模様が描かれた広間へと降り立つ。


 二十一層へ向かう階段を降りながら、ライルが期待を滲ませた声を上げた。


「次はゴーレムだろ?ちょっと楽しみだな」


「実際に強さを確かめたら、十九層に戻りましょう。位階上げの効率が違います」


 ただ効率論を説いても、二十層を突破したばかりの皆は納得しきれない。

 まずは完全な()に衝突させ、自身の無力を自覚させるのが、次の計画を自発的に受け入れさせる最短ルートだ。


「そんなに強いのか?」


「位階Ⅱでは防御を抜けないと思います」


「うわ、面倒くせぇな、それ」


 ライルが鼻を鳴らした。


「今日は感覚だけ覚えてください」


 階段を下り切る。


 踊り場の先、巨大なアーチをくぐった瞬間、僕は『魔力走査』に引っかかった反応へ視線を向けた。


「右。角の先に一体います」


 全員の足が止まる。


 カイが盾を前へ出し、ライルが半歩左へ開く。

 リサは投斧を指に引っ掛け、エレナが詠唱へ入った。


「——『アイスバレット』」


 のっそりと姿を現した石の巨体へ、エレナの魔法が飛んだ。


 氷弾が胸に当たる。

 砕けた氷片が肩口へ散り、灰色の表面を白く曇らせる。


 そこへリサの投斧が続けざまに飛ぶ。


 硬い音。


 二本とも弾かれる。


 回転しながら石床へ転がった斧が、壁にぶつかって止まった。


「っ、硬っ……!」


 リサの目が見開かれる。


 エレナの声にも動揺が滲んだ。


「今ので、止まらないの……?」


 ゴーレムは意に介した様子もなく、重々しい足取りで迫ってきた。


 迎え撃つようにカイが盾を構えて突進する。


 鈍い衝突音。


 盾が軋む。


 だが、ゴーレムの巨体は微動だにしない。


「なっ——」


 押し返されたのはカイの方だった。

 靴底が石床を削る。


 ゴーレムが無造作に腕を振った。


 カイは咄嗟に盾を傾ける。


 衝撃が盾を叩く。


 カイは衝撃を受け流しきれず、そのまま後方へ吹き飛ばされた。

 

「カイ!」


 エレナが叫ぶ。


「大丈夫だ!」


 床へ片膝をついたまま叫び返す。


 その間に、ライルが背後へ回り込んでいた。


「らぁっ!」


 膝裏へ剣を叩き込む。


 火花。


 耳障りな金属音。


 刃が弾かれ、ライルの腕ごと跳ね返された。


「嘘だろ……!」


 ライルが距離を取る。


 ゴーレムがゆっくりとライルへ振り向く。


「ライル、下がって!」


 エレナの声が飛んだ。


 ゴーレムが一歩踏み出す。

 その足が地面に触れる寸前、僕は膝裏を正確に突いた。


 重心が崩れる。


 僅かな、しかし巨体にとって致命的な乱れ。


 ゴーレムの脚がもつれ、大きく揺らぐ。


「えっ!?」


 リサが息を呑む。


 支えを失ったゴーレムは、そのまま地響きを上げて前のめりに崩れ落ちた。


「……マジかよ!」


 ライルが呆然とつぶやく。


 僕はすかさず背へ飛び乗り、魔力走査で見つけていた核へ『ライフスティール』を発動する。


 魔力で捉えたその命を、核から無理やり引き剥がす。


 立ち上がりかけていたゴーレムの腕が止まる。

 そのまま巨体から力が抜け、完全に沈黙した。


「いま……何したの?」


 呆然としたまま、エレナが問いかける。


「『ライフスティール』という魔法です。こういった疑似生命体は抵抗が弱いので、通りやすいんです」


「命そのものを……?」


 エレナの声がわずかに震える。


「ええ、そうです」


 僕はうなずく。

 誰もすぐには口を開かなかった。


 最初に沈黙を破ったのはライルだった。


「……まあ、ノアだからな」


 頭を掻きながら吐き出す。


「いや、そこで納得するの……?」


 エレナが引きつった笑みを浮かべた。


「今さら驚いても仕方ねぇだろ。杖でゴーレム転ばせる時点で大概だぞ」


「それは……確かに」


 ライルは倒れたゴーレムを蹴った。

 まるで岩でも蹴ったみたいな音がした。


「……つーか、それ以前に硬すぎだろ。マジで傷ひとつ付かなかったぞ」


 剣を握ったまま、苦々しく顔をしかめる。


「投斧も弾かれちゃった……」


 リサも転がった斧を拾い上げ、刃先を確認した。


「私の魔法も、ほとんど効かなかったわ……」


 エレナが奥歯を噛む。


 カイは盾を持ち直しながら短く吐いた。


「……勝てる気がしない」


 誰も否定しない。


 ライルが肩を落としたまま笑う。


「なるほどな……。こりゃ十九層に戻った方がよさそうだ」


 その一言に、全員が無言で頷いた。


 実際に戦ってみたことで力量差は十分理解できたはずだ。


「じゃあ予定通り、十九層へ戻りましょう」


 階段を駆け上がる。


 十九層の通路には湿った獣臭がこびりついていた。


 左右の広間という広間にオークが押し込められている。


 開け放たれた入口の奥で緑灰色の巨体が肩をぶつけ合っている。

 爪の生えた指が石壁を掻き、唸り声が通路まで漏れてきた。


「よし、さっそくやるか」


 ライルが剣を抜く。

 エレナは深く息を吸い、リサは腰の投斧を指で回す。

 カイも盾を背中から外した。


「待ってください」


 僕は声をかける。


「位階を上げるなら、数を狩る必要があります」


「ああ、だから十九層に来たんだろ?」


 ライルが振り返る。


「はい。なので——一人で一部屋ずつ攻略してください」


 エレナの目が見開かれる。


「……えっ!?この数を一人で?」


 通路の先を見たまま、喉が引きつった声を漏らした。


 広間の中では十体を超えるオークが肩をぶつけ合っている。


「補助もしますし、怪我も疲労もこちらで治します」


 僕はそう言って皆に『エンハンス』をかける。


 エレナの眉間に皺が寄った。


「いや、治るとかそういう問題じゃ——」


 その横をカイが通り過ぎた。


 盾を鳴らしながら広間へ向かう。


「ちょっと、カイ!」


 呼び止める声にも振り返らない。


「勝つためなら、やる」


 そのまま広間へ踏み込んだ。


 直後、オークたちが一斉に吠える。


 カイは盾を前へ突き出したまま突進した。


 轟音。


 オークの一体が壁へ叩きつけられる。


「……負けてられねぇな」


 ライルが口の端を吊り上げた。


 剣を肩へ担ぐ。


「ゴーレムを片手で潰せるくらいには強くなってやる」


 そう吐き捨てると、通路の左手にある広間へ踏み込んだ。


「リサも行く!」


 リサが跳ねるように駆け出す。


「ノアに置いてかれるの、悔しいし!」


 腰の斧を揺らしながら隣の広間へ飛び込んだ。


 残されたエレナが長く息を吐く。


「……ほんと、無茶ばっかり」


 それでも視線は逸らさない。


 広間の奥でうごめくオークたちを見据えたまま、肩を回す。


「フォロー、ちゃんとしなさいよ」


「もちろんです」


 エレナは前髪を掻き上げると、オークの群れへ向かって歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ