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生命魔法使いに転生したので、聖者の皮を被って気ままに生きようと思います  作者: aramakid
冒険者編

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第53話 ギルドの動き

 ——ミルハイム冒険者ギルド 支部長室


「それで?グレンはどうだ。尻尾を出したか?」


 窓を背に黒壇の机の前に座る口ひげの男——支部長が問いかける。


「深夜に荷馬車に細工するところを、新人が目撃しています」


 アイリーンが背筋を伸ばし淡々と報告する。


「ですが、状況はさらに動きました。グレンと通じていた『凶鳥のオットー』が討たれました」


「なんだと!詳しく話せ」


 支部長が立ち上がる。机の上の書類がわずかに揺れた。


「グレンが細工した香辛料を積んだ荷馬車が道中で故障。商人が馬車を離れなかったため、新人パーティーを護衛に残して本隊は宿泊地の修道院へ向かいました」


 アイリーンは軽く息を吸い、言葉を続けた。


「残された荷馬車は、オットーの騎馬と鎧を携えて門限ぎりぎりに修道院へ辿り着きました」


 支部長室は静まり返り、外の風の音だけが聞こえていた。


「その新人パーティーが倒したというのか。……何者だ?」


 支部長は口ひげをつまみ、思案するように視線を落とす。


「誓いの天秤という四人組です。今はミレイユがついています」


 アイリーンは微動だにせず答えた。


「それで?グレンの方は」


「セシリアをつけています。おそらく男爵家の襲撃があるかと」


「なるほど。男爵家からすればグレンは裏切り者というわけか」


 支部長は指先で机を叩き、考え込む。


「それで、どうする?」


 アイリーンは同じ姿勢のまま報告を続ける。


「グレンを襲った者を捕らえます。自白が得られればグレンの内通だけでなく、男爵家とのつながりも明白になります」


 支部長はうなずいた。


「上手い手だ。いいだろう。新人の証言も補強にはなるだろう。公式に聴取する」


「グレンが襲撃された後なら証言するとのことです」


「なに?」


 支部長が目を細める。


「ギルドが先にグレンを処罰してしまうと、男爵家の矛先が自分達に向く可能性があるからと」


 アイリーンは身じろぎもせず、言葉を続けた。


「ホントに新人か?……もしかして、今の対応案もその新人が?」


「ええ。ノアという子です」


 支部長は大きく息を吐き肩をすくめた。


「わかった。その通り進めてくれ。ノアについてはこっちでも調べてみる」


「では、失礼します」


 アイリーンは踵を返すと、支部長室を後にした。


 ミレイユが二階に消えていく誓いの天秤を見送っていると、入れ違いにアイリーンが階段を降りてきた。


「あの子達はどうだった?」


 アイリーンが問いかけると、ミレイユは少し肩をすくめて応えた。


「他の子はともかく、ノアくんは大概ね。金貨の山を見てもまるで動じないんだから」


「あの子のことは支部長も探りを入れるそうよ。私達はグレンを見張りましょう。セシリアに合流するわよ」


 言い終えるなり酒場へ向かったアイリーンの後にミレイユも慌ててついて行った。


「どう?」


 酒場の奥の席で見張りを続けるセシリアの隣に二人は腰を降ろした。


「ずっとあの調子よ」


 セシリアが視線で示したテーブルにはすっかり出来上がったグレンと黒鉄の面々がいた。


「昨日まで散々襲撃されてたのに、危機感無いのかしら」


 セシリアがため息をつく。


「確かに不自然ね。もう安泰だって思い込まされてる?」


 アイリーンが騒ぐ男たちを冷めた目で見つめる。


「まさか、ノアくんが……って、流石に無いか」


 ミレイユはそう呟くが脳裏には先ほどの、金貨の山を前にして微塵も動じなかった少年の瞳が鮮明に焼き付いていた。


 やがて、グレンと黒鉄の面々が立ち上がり千鳥足で酒場を出ていく。


「これは、今夜来るわね」


 セシリアが確信を込めて呟く。その視線は無防備に騒ぐ男たちから外されることはない。


「まあ、さっさと仕事が片付くならラッキーでしょ」


 ミレイユはどこか楽しげに肩をすくめて応えた。


「ミレイユは尾行、セシリアは高所で待機。私はここで指揮を執るわ。……始めるわよ」


 アイリーンの鋭い指示が彼女達の空気を一変させた。


 夜の冷気が湿った石畳の匂いを引き立てている。

 ミレイユは『隠密』を発動し、影から影へと滑るように移動を始めた。酒場からふらふらと出てきた「黒鉄」の背中を一定の距離を保って見据える。


 街灯の届かない裏路地へと足を踏み入れた瞬間、彼女の神経はより一層鋭く研ぎ澄まされた。


「……さて、獲物はどこから現れるかしら」


 闇に紛れ、音もなくグレンを追うその姿は、先ほどまで冗談を言っていた女のそれではない。


『セシリアが配置に着いたわ。動きがあったら合図して』


 耳元にアイリーンの声が『ウィスパー』の魔法で届く。


「了解。……今のところ、獲物は千鳥足のままよ」


 ミレイユは小声で応じる。視線の先では、グレンたちが暗い路地の奥へと消えていく。湿った夜の空気が彼女の肌をひんやりと刺した。

 

「お前ら先に行ってろ。ちょっくら用を足してくる」


 グレンはそう言って鼻歌まじりに仲間と別れると、ふらつく足取りで路地の壁際へと向かった。


「……最悪」


 物陰で見守るミレイユは露骨に顔をしかめる。


 グレンがベルトを緩めた瞬間——


 音もなく、闇が溶け出すように二人の男が現れた。


「来たわ。『隠密』持ちね。かなりの手練れよ」


 ミレイユの囁きは『ウィスパー』越しにアイリーンへと届く。


『了解。そのまま待機して』


 アイリーンの冷徹な指示が耳元で響く。

 一人が背後を固める位置につき、短く頷いた。それを合図にもう一人の男が影のようにグレンへ肉薄し、一息にその喉笛を掻き切った。


「……グレンがやられたわ」


 ミレイユが淡々と事実を告げると、即座に返信が届く。


『いいわ。予定通りその襲撃者を確保して』


 ミレイユは潜んでいた闇から飛び出すと、光茸の胞子を詰め込んだ小袋を男たち二人に向けて叩きつけた。


 炸裂した小袋から光の粉が舞い、逃げ惑う男たちの背中を鮮やかに浮かび上がらせた。


「――マーキング完了」


 胞子を浴びた男たちは全身を光らせながら必死に闇へと逃げ込んだ。


 石畳を叩く荒い足音が裏路地に反響する。男たちは入り組んだ路地の十字路に差し掛かった瞬間、弾かれたように左右へと分かれた。


『ミレイユは左を。右はセシリアに任せて』


 即座にアイリーンの指示が飛ぶ。


 右へ折れた男は袋小路の壁を蹴り、一気に屋根へと駆け上がった。

 だが、その頭上を取る影がある。教会の鐘楼に陣取っていたセシリアが放つ『エアロスナイプ』が、空を切り裂いて男の膝を正確に射抜いた。


 一方、左の狭い路地へ逃げ込んだもう一人は背後の気配が消えたことに一瞬だけ安堵した。しかし、彼が警戒しているのは地上だけだ。


「……上がお留守よ?」


 頭上から降ってきたのは、ミレイユの冷ややかな声。

 彼女は『エアステップ』で建物の壁を蹴り、空中を突き進んでいた。逃走者が振り返る間もなく、重力と加速を乗せたミレイユの蹴りが、男の背を冷たい石畳へと叩きつけた。


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