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生命魔法使いに転生したので、聖者の皮を被って気ままに生きようと思います  作者: aramakid
冒険者編

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第39話 氷晶花

 宿に戻りスープと黒パンをかき込むと、僕は二階へ上がった。

 ライル達が場所をとってくれていたので、そこに横になる。


「どうだった?」


 ライルが小声で話しかける。


「ああ、明日話すよ」


 僕はそれだけ言って目を閉じた。


 ――深夜。


 ふと、違和感を感じて目を覚ます。

 暗がりの中、見知らぬ男がライルの懐に手を伸ばしていた。


 僕は抱えたままの杖を、男の喉元に突きつける。


「……チッ」


 男は一瞬ぎょっとして凍りつく。

 だが次の瞬間には舌打ちをして、自分の寝床に戻っていった。


 ここで騒いでも意味はない。


 ここで騒いでもどうにもならない。

 低ランク冒険者同士の争いなど、街の人間は興味を持たない。

 双方とも宿から追い出されておしまいだ。


 僕は男が寝入るまで、見張りをづづけた。


 ――僕らが稼いでいるのが、広まってきているな。


 もう少しまともな宿に移りたいがそれも難しい。

 俺たちみたいな冒険者を泊めないからこそ、まともな宿なのだから。


 やはり一気に稼いで、まともな宿に泊まれる身分を手に入れるしかないか。

 僕はそっと目を閉じ、次の計画を頭の中で整理した。


 翌朝。


 蚤にかまれた背中を『ヒール』で癒やすと、僕は宿を出てギルドへ向かった。

 朝の空気は冷たく澄んでいて、鳥のさえずりが通りに響く。

 

「よし、今日もホーンラビット依頼、受けてくるぜ」


 依頼ボードに駆け出そうとするライルの肩を、僕は軽く掴んで引き留めた。

 

「待ってください。今日は別の依頼にしましょう」


「ん?いい情報があったのか?」


「ええ、それについては町を出てから話しましょう」


 僕はボードの端から頼票をはがし、窓口に提出する。

 昨日、資料室の手続きをした受付は、黙って依頼票に判を押した。


 町を出て、街道を歩く。

 周りに誰もいなくなったのを確認して、ライルが口を開く。


「なあ、ノア。あの依頼なんなんだよ。文字ばっかりで絵のない依頼だったぞ」


「氷晶花の採取です。資料室で採取方法を調べました」


「氷晶花?」


「ええ、あの山の崖に生えているそうです」

 

 僕は草原の向こうにそびえる山脈を指さした。


「すぐに溶けてしまうので冷やしながら運ぶ必要があります。エレナさんの氷魔法が頼りです」


「ええ任せて。それで、報酬はいくらなの?」


 エレナが胸をたたく。


「金貨五枚です」


「……は?金貨?」


 ライルの声が裏返る。

 珍しくカイも目を見開いている。


「それって、やばい依頼なんじゃ……」


「資料で読む限りでは、そこまで難しい依頼ではありませんでした」


「そんなおいしい依頼、なんで誰も受けないんだ?」


「字が読めないからでしょう」


 ――依頼票に絵がないのは、資料を読めない冒険者をはじくためだろう。


 もしかすると資料室を使う冒険者を選別するための依頼かもしれない。


「そうか……なあノア、今度俺にも字の読み方、教えてくれよ」


 ライルが真剣な視線を向ける。


「ええ。もちろんです」


 僕はうなずいた。


「それにしても、金貨五枚か……登録料の返済してもたんまり残るな」


 ライルの顔がにやける。


「それなんですが、口座を作りませんか?」


「口座?」


「ええ、ギルドにお金を預ける仕組みです。預り証さえあればどこの支部でも預けたお金を受け取れます」


「え、すごい便利じゃない」


 エレナが目を丸くして感心する。


「ですが、預かり証の発行に手数料がかかります。最低金貨一枚」


「は?ぼったくり過ぎだろ」


「大陸中のどこでも安全に資金を運べると思えば、安いみたいです」


「でも、預かり証を盗られたら終わりだろ?」


「資料室で見た限りでは、本人以外使えないようになっているそうです」


「ふーん。でも、どうして口座作るんだ。今のところ移動する予定はないだろ?」


「口座を持ってると信用が得られます。そうすれば――ちゃんとした部屋のある宿に泊まれます」


「確かに飯もまずいし、蚤もいるけど……。宿なんて寝られれば十分だろ」


「ライル、昨日の夜に財布を盗られそうになっていたの気づきました?」


「……マジで?」


「ええ。追い払っておきましたが、あんなところで金貨抱えて眠れますか?」


「わかった。口座作ろう」


 ライルが顔を青くする。


「じゃあそろそろ山に向かいましょう。ホーンラビットに気を付けて」


 僕たちは膝まである草をかき分けながら山を目指す。草むらのかすかな動きに目をやりながら、慎重に足を運んだ。


 やがて、僕たちは山のふもとにたどり着いた。

 振り返れば町は遠く小さく見える。


 目の前には切り立った崖がそびえ立っていた。

 巨大な岩壁は灰色の岩肌をむき出しにし、ところどころに雪の白が輝いている。


「……でかいな」


 ライルが小さく呟く。


 僕は崖をじっと見上げながら、氷晶花が生えているという場所を探す。

 崖の中腹の岩棚に青白く輝く花がかすかに見える。


 僕は岩肌に手をかけ、慎重に登り始めた。

 

「気をつけろ、ノア」


 ライルの声が緊張で少し震えている。


 崖は想像以上に険しかった。


 指先を岩の窪みにかけ、足を確実に置きながら一歩一歩進む。

 時折、雪が溶けた水が滴り落ち、岩を滑らせる。


 エレナは氷魔法で小さな氷の支えを作りながら、僕たちの登攀を助ける。


 風が吹き抜け、冷たさが骨にまで染みる。

 でも目の前に見える青白く輝く氷晶花が、僕たちを突き動かす。


 足が疲れ、手が痛む。

 けれど、一歩一歩登るたびに目標が近づいていく。


「あと少しだ……!」


 ライルが励ますように声を上げ、僕たちはさらに崖をよじ登った。


 氷晶花が咲く岩棚にたどり着くと、僕たちはようやく一息ついた。


 岩棚に腰を下ろし、町と街道を見下ろす。

 町の建物や行き交う人々が遠くに小さく見える。


 頬を撫でる冷たい風が心地よい。


「きれいな花ね」


 エレナが氷晶花を見て呟く。


「採取するときは根元から摘んで、すぐに氷で包んでください」


「わかったわ」


 エレナはうなずくと、慎重に氷晶花を摘んで、氷の塊に閉じ込めた。


「これで、金貨五枚か」


 ライルが目を輝かせる。


「無事にギルドに納品したらね。帰りも気をつけて降りるわよ」


 エレナはそう言うと、崖を降り始めた。


 登りの倍の時間をかけて、ようやく麓にたどり着く。


「ふぅ……。下りのほうが危なかったぜ」


 ライルは額の汗をぬぐい、安堵の笑みを浮かべる。

 カイは相変わらず無表情だ。


「それじゃ、気を抜かずに帰りましょう」


 エレナの掛け声に従って僕らは町へと歩き出した。



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