表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生命魔法使いに転生したので、聖者の皮を被って気ままに生きようと思います  作者: aramakid
プロローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/44

第34話 神にならなかった者

 白い光が収まると、僕は祭壇から礼拝堂を見渡した。


 長椅子の前に跪く幹部達。そして、最後尾で呆然と立ち尽くすクリスと――バルド。


 ――幹部だけではなかったか。


 クリスはともかく、バルドは予想外だ。

 まあ大丈夫だ。二人なら口止めは難しくない。


「驚くことはありません。真理は常に光の中にあり、光は死の影に屈することはありません。皆さんの祈りと主の御慈悲により、私は再びこの地を踏む許しを得ました。――さあ、顔を上げてください」


「……ノアッ! お前、本当に……本当に戻ってきたんだな!」


 カイルは叫ぶように声を上げ、膝をついたまま床を拳で叩いた。


「信じてた……いや、信じられるわけないだろこんなこと! バカ野郎、心配させやがって……!」


 その目には隠しようのない涙が溢れていた。


「……こんなことが、本当に……」


 エリオスは膝をついたまま、呆然とノアの足元を見つめていた。


「あなたが遺した言葉の重みが、今、ようやく理解できました。……死さえも真理の階梯に過ぎなかったというのですか。ノア様、あなたは……一体どこまで先を見ておられるのだ」


 僕は祭壇から跪く仲間たちを静かに見渡した。


「……私は、このまま姿を消します」


 その一言に、エリオスとカイルが弾かれたように顔を上げた。喜びの色が一瞬で狼狽へと塗り替えられる。


「待ってくれ、ノア! せっかく戻ってきたのに、どうして……!」


 カイルの声が震える。


 僕はそれを穏やかな、しかし拒絶を許さぬ眼差しで制した。


「私がこのまま教会に残れば、この『奇跡』は火種となるでしょう。権力は私を神輿に担ぎ、敵対する者は私を異端と断じる。やがて教会は二つに割れ、血が流れる。……それは、私の本意ではありません」


 僕は一歩彼らに近づき、エリオスとカイルの肩に手を置いた。


「エリオス。カイル。……あなたたちは、光魔法の使い手です。その身に宿しているその輝きがあれば、原理主義者の攻撃もやがて収まるはずです。……私のいないこの学派を、あなたたち二人の光で導いてほしい」


 二人は言葉を失い、ただ僕の手の熱を感じているようだった。


「……君たちなら、後を託せる。そう信じています」


 僕が最期の言葉を紡ぐように告げたその時だった。

 跪く幹部たちの間を割り、最後尾にいたバルドが、力強い足取りで祭壇へと歩み寄る。


「――全くだ。死んだと思えば生き返り、生き返ったと思えば今度は消えるか。相変わらず人騒がせな子供だぜ」


 バルドはそう言いながら、祭壇のすぐ脇、僕の枕元に供えられていた一本の杖を無造作に掴み上げた。


「お前の使っていた杖だ。どうも他の杖と様子が違ってしまってな。地下聖堂では使えん。持っていけ」


 その杖を僕の胸元へと突き出した。

 

「いいんですか?」


「聖遺物として残しておいてもいいが?」


 バルドはにやりと笑う。


「……それは困ります。ではありがたく」


 僕は素直に杖を受け取った。

 久しぶりだが、吸い付くように掌にしっくりと馴染む。


「では、皆さん。後は頼みましたよ」


 僕は右手をそっと左手に添え、脈拍を測る仕草をする。

 そのまま幹部一人ひとりと視線を交わしていく。


 幹部たちは一斉に立ち上がると、無言で同じ仕草を返した。

 己の刻む鼓動を測るその仕草は、新たな誓いのように力強い。


 最後に、最後尾のクリスに視線を向ける。


 クリスは肩をすくめると言った。


「ついて来い。お忍びの貴族が出入りに使う通路がある」


 感傷を振り払うような足取りで、彼は小礼拝堂を後にした。


 僕は手元に残った銀の鍵をエリオスに託した。冷たい金属の重みが、正式に僕の手を離れる。


 一度だけ祭壇を振り返った後、僕はクリス背中を追った。


 クリスに導かれた狭い小部屋で、僕は巡礼者の粗末なローブに身を包んだ。

 フードを深く被ると、そのままひんやりとした地下の隠し通路へと足を進めた。


「ノア、本当のところはどうなんだ?お前なら、あのまま『聖人』として教会を牛耳ることだってできただろうに」


 前を行くクリスが暗がりに声を潜めて問うた。その背中には、少しの寂しさと、理解しがたい怪物への畏怖が混ざっている。


「ええ、ですが教会はもう僕がいなくても掌握できるでしょう? それに……まだ世界的な組織は二つも残っています」


 僕は歩調を緩めることなく、落ち着いた声で返した。


「は……? 二つ……残ってる、だと?」


「商業ギルドと冒険者ギルド。僕も、もうすぐ十二歳になりますからね。まずは冒険者ギルドに所属してみようと思います」


 クリスが足を止め、呆然と振り返る。


「……お前、正気か」


「大真面目ですよ、クリス。せっかくですから、気ままに生きてみようと思います」


 暗い通路に僕の屈託のない声が響く。

 だが、その内容はクリスを戦慄させるに十分だった。


「おまえは、《《気まま》》で世界征服するつもりか……」


 クリスが呆れ果てたように吐き捨て、重い石扉のレバーを引いた。

 軋む音を立てて開いた先は救済局の敷地外、聖都の入り組んだ路地裏へと繋がっている。


「買い被りですよ。まずは十二歳の新人冒険者として、地道に依頼をこなすところから始めます。……ああ、そうだ」 


 僕は一歩、夜の湿った空気の中へと踏み出し、振り返った。


「クリス。いずれまた、あなたの力を借りることになるかもしれません。その時はよろしくお願いしますね」


「ああ」


 クリスはわずかに口元を歪め、短く息を吐いた。


「主要都市には手の者を配置しておく。何かあれば教会を使え」


 クリスは言い終えると再びレバーを操作した。


 背後で石扉が閉まる音が重く響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ