表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生命魔法使いに転生したので、聖者の皮を被って気ままに生きようと思います  作者: aramakid
プロローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/36

第30話 裏切れぬ構造

 勉強会の発足から数か月が過ぎた。


 聖ヴォーロの肖像画を背に、僕は治癒魔法の講義をしていた。


「この世界には目に見えない病魔が潜んでいます。傷口を『ヒール』で塞いでも、後に化膿して再度癒やしが必要になった経験はありませんか?」


 何人かが小さくうなずく。


「その原因の多くは目に見えない病魔の残存です。単に水で洗い流しても完全には取り除けないことがあります」


 僕は参加者をゆっくり見回しながら続けた。


「ですから『ヒール』の前に『ピュリフィケーション』で浄化しておくと回復がより確実になり、後の再処置も減らせます」


 参加者たちは息をのんで見入り、魔法と理論が結びつく瞬間を肌で感じていた。


「では次は皆さんの体験を語ってもらいましょう。最近どういう患者をどう治して、結果どうなったかを……今日はルチアーノさん。お願いします」


 ルチアーノは一瞬、言葉を詰まらせた。


「ああ、だが……これは貴族の秘密にも関わることなので――」


 僕は穏やかに微笑んで言った。


「大丈夫ですよ。ここでの秘密は絶対に漏れません」


 小礼拝堂の薄暗い光が、参加者たちの顔に影を落とす。


「ここでの話は外に持ち出さない約束です。皆さん、そうですよね?」


 僕は胸の前で左手首に触れ、脈を測る仕草をした。


 参加者たちは一斉にうなずき、礼拝堂内の空気が静かに引き締まる。

 その視線には、互いへの信頼と、これから始まる秘密の学びへの期待が混ざり合っていた。





 勉強会を終え、小礼拝堂を後にする。

 先頭を歩く僕の後ろには、十数人の若き癒やし手たちが一糸乱れぬ足取りで付き従っている


 回廊の角を曲がると、数人の年嵩の司祭たちが足を止めた。

 彼らは僕という「異分子」と、その背後に控える若者たちの異様な統制に、露骨な嫌悪を隠そうともしない。


「……見ろ。神童ノアがまた子飼いの連中を連れ歩いているぞ」

「救済局も末だな。光魔法も扱えぬ若造に未来を託すとは」


 耳を刺す陰口を無視し、僕は階段の手前でぴたりと足を止めた。


 振り返るとそこには熱に浮かされたような瞳をした、僕の「信奉者」たちがいた。


「ノア助祭、今日の講義も……素晴らしかったです」


 一人が声を震わせる。

 僕はそれを柔らかな微笑みで制し、全員の目を見つめた。


「皆さんの熱意こそが、神の御心です。ですが、今は持ち場に戻りましょう。私たちの『真理』は、日々の救済の中でこそ証明されるのですから」


 僕は一人一人の表情を確認し、言葉の余韻が染み渡るのを待つ。


「それでは、また」


 その言葉を合図に彼らは一斉に頭を垂れ、それぞれの持ち場に散っていった。


 階段を上りクリスの執務室へ戻る。

 僕が近づくと騎士が恭しく扉を開く。


「あ、ノア様。お帰りなさい。今は来客はございません」


 前室の書記官が羽ペンを止め、僕に挨拶をする。


「ありがとう。テオドロさんも遅くまでご苦労様です」


 そう言って僕は執務室に入った。


「ノア、勉強会のほうは順調か?」


 執務室へ戻ると彼は窓の外を見つめたまま、問いかけてきた。


「ええ。ルチアーノさんはやはり、救済局を通さない依頼を回されたみたいですね」


 僕は淡々と続ける。


「タデオ男爵のお嬢さん……ライ病らしいですね」


 この世界では、まるで天罰のように忌み嫌われる病だ。


「なるほどな。ドメニコ司教の伝手で、秘密裏に依頼したわけか」


 クリスは少し考え込み眉をひそめる。


「どう扱うかはお任せします。治せますので、治療が必要なら言ってください」


「そうか。頼もしいな」


 クリスは書見台に向かうと、さっそく手紙を書き始めた。


「この件を扱う際は、出所が僕だとわからないように工夫してくださいよ」


 僕はクリスに念を押して、控えの間に移った。


 長衣(アルバ)と、聖帯ストラを脱いでチェストに収め、ベッドに腰掛ける。


 窓の外を見ながら考える。

 

 ――組織の運営は、今のところ順調だ。


 会員の治癒の腕は以前にも増して上がっている。

 ルチアーノが重要な治療を任されていたように、各派閥でも重宝されるようになった。


 互いの秘密を共有したことも大きい。

 もう簡単に裏切ることはできないだろう。


 それに秘密を口にする心理的な壁も薄れ、情報を自然に引き出せるようになった。


 もうすぐ同期たちが配属される頃だ。

 会員はまだ増やせる。


 問題はその後だ。

 僕が直接関与した同期たちが裏切ることはないはずだ。

 だがそれ以上会員を増やせば、必ずスパイも送り込まれるだろう。


 ――まあ、やりようはある。


 理論を教えるのは同期たちで最後にすればいい。


 一般向けの講義では実践方法だけを伝えておけば十分だ。

 その後幹部になって理論を知る立場に立つ頃には、彼らはすでに異端の治療法をたっぷりと実践している。告発などできはしまい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ