覚悟
おれは目の前で起こっている事が信じられなかった。
宇田がやられそうになっている事ではない。
たった一発で、肩で息をしている状況にだ。
あいつは、訓練生時代に教官に攻撃を入れ、迫る勢いの強さだった。戦闘カリキュラムにおいて、常にトップであり、同期であいつの横に立てるやつはいなかった。
だからおれは、勝てないまでも、一発くないなら攻撃を入れられるのではないかとそう思っていたのに。ここまで実力差があると思っていなかった。
おれの驚愕の表情を見て、黒田軍曹は「あいつは、おれら5人の中だと1番負け数が多いんだよ。相性もあってってのもあるんだけどね。」
でもと、「防御においては、1番だね、彼くらいの攻撃であれば、基本的にはあの分厚い肉体と神力に寄って防がれる。見た目に反し、反射神経も悪くない。あいつの肉体が届く範囲から打たれるこ攻撃はまず入らない。」
おれには、どう反撃していいか分からないから、反論もできない。
やはり、宇田が行っていた方法しかないが、それは相当の覚悟がいる事だ。神力の揺らぎの安定性は=精神力の安定性となる。これから無茶な攻撃をする人間の精神力は、常人であれば、大きく乱れるだろう。
つまり、リスクの大きさに対し、全く意味ない攻撃になりかねない。
宇田を見る。
あいつは、やはり天才だった。すでに覚悟の決め、精神を安定させて、最初より揺らぎが小さい。野比咲軍曹に迫るくらいだ。
俺は戦闘において、あいつに勝てた事がないのだから、挑戦し、迫って行くべきだ。
だが今回だけは、本気で応援したい。
頑張れと。
やはり、一発当てるなら視界外から当てるしかない。
ならば、先ずはと。
空拳を放つ。大きな一発ではなく細かく素早く腕をふり、弾幕のように。
野比咲軍曹には一切ダメージは無い。それでいい。
少しでも、相手にストレスを与える。
この攻撃は、ダメージとしては意味がないが、視界を一部狭める。
少しだけ眉間にシワがよったところで顔面に当たる部分だけ空拳を多くし、視界を完全に塞ぐ。
ハンマーを持った右腕に力が入った。
今だ!!
宇田の噂は聞いていた。同期を完全に置き去りにするほどの戦闘の能力を持つと。
だが、実際に戦ってみると、期待したほどではなかった。
一発ガード越しに当てて身たら、カスみたいな威力の弾幕を貼ってきた。正直いくら当たろうが意味がない。
視界を塞ぎ、挑発しているようにみる。
こちらには、かなりの余裕がある。少し乗ってみようと思い、ハンマー振り、弾幕を振り払う。
振り払われハンマーは爆風を起こし、必死に作った弾幕は全てが無意味だったと思わされるほど簡単に散る。
だがそれでいい。
振り払われたデカいハンマーでも視界が塞がれその瞬間に、両足のみに神力を纏い、今までにないスピードで背後に回る。一点集中で纏った時の動きなど初めてであり、うまい位置取りができるか不安だったが、悪くない位置だ。さらに右足のみに神力を集中させ、振り抜く。
だが、振り払われ、残心に入っていたハンマーが迫ってきた。
これヤバいかも、でも覚悟はしただろ。
ハンマーの頭が腹に刺さる。
宇田は野比咲軍曹の背後に超スピードで回り、右足のみに揺らぎのない神力を纏わせ、振り抜いた。
当たると思った。
だが、虚しくも、ノーモーションで迫るハンマーが宇田の腹に刺さり30mほど吹っ飛ばした。
俺は、吹っ飛ばされた宇田へ神力を纏い近づくが、それより先に黒田軍曹が着いていた。
血を吐いている宇田を見て心配するだけの俺と違い、黒田先輩は様子を確認し、大丈夫と頷き背負って本部基地へ連れて行った。
宇田の全力でも無理だったかと落ち込んでいたが、観戦していた残りの二人から拍手が上がっていた。
なぜだと思ったが、野比咲軍曹が元の位置から50cmほど後退していた。
詳しくは分からなかったが間違いなく一発入れた証拠だった。




