第19話 近づくクリスマス
十二月になり、街はすっかりクリスマスムード。
ニュースでは、我が市ご自慢のイルミネーションイベントが今年も始まった――と報道されている。
市中心部の通りで開催され、数十万個の電飾でライトアップされ、寒い街を暖かな光で包まれる。
冬のデートスポットとしては定番中の定番らしいが、俺たちは行く予定はない。
去年も行かなかった。
期間限定の人気スポットであるため、いつ行ってもたぶん知り合いに遭遇するからだ。
「いいなぁ、行ってみたいなぁ」
行かないとは決めていても、やっぱり行きたいものは行きたい……彩紗がため息まじりにそう言った。
「今年もムリそうだな。来年は受験勉強で忙しくて……再来年か? だいぶ先だなぁ」
「今思えば、中三の時がチャンスだったね」
「でも、あの時は受験勉強一色だったからな。市内とはいえ遊びに行く時間はなかった……」
あのころの彩紗の成績は、まさに瀬戸際だった。志望校に合格できる確率は半々あるかないか。
デートに時間を使う余裕はこれっぽっちもなかった。
「時間もなかったけど、まだ付き合う前だったもんね」
「そういえばそうか」
「当時の私には、イルミネーションを観に行こうって誘う勇気はなかったなぁ」
俺たちが付き合い始めたのは、受験が終わった後だ。
当時はここで一緒に勉強をするだけの仲で……とはいえ、誘ってもらえたら、なにがなんでも行ってたと思うけど。
「デートに誘う勇気すらなかったけど、あの頃はあの頃で幸せだったよ。理希くんとここで一緒に過ごすことができて。でも、当時の私は不登校でドロップアウトした側だったから、なんとかまっとうな生活に戻らなきゃ。そうしないと理希くんと付き合えないって思って、だから必死で勉強してた」
「その頃にはもう俺のこと好きだったのか」
「そりゃそうだよ。私のことを助けてくれた王子様だもん。そもそも好きじゃなかったら、毎日二人きりで勉強教えてもらわない。もし好きじゃなかったとしても、毎日一緒にいたら好きになる」
まるでどんな道をたどっていても、必ず結ばれる運命にあった――とでも言いたそうだ。
「当時の私には、理希くんと付き合えるなんて夢みたいなことに思えてた。それが現実になって、こうして一緒にいるのが当たり前にしか感じなくなるなんて」
「それは俺もだよ。彩紗は遠い雲の上の存在みたいに思えてたから、俺が助けてあげられるうちは近くにいられるけど、助けがいらなくなったらまた遠いところに行ってしまうと思ってた」
「私はそんな薄情じゃないよ。それに、別に遠い存在でもない」
「今は理解してるよ。当時は知らなかったって話」
ぽんぽんと彩紗の頭を撫でる。
彩紗はいつものように、猫撫で声を出しながら頬を擦りつけてきた。
「まぁでも、学校ではいまだに遠い存在か……」
「学校はね…………」
「どうにかしたい気もするけど、もう二年の冬だからなぁ。卒業まで待った方が楽な気もする」
「そうだね。そもそも受験勉強が本格化したら、今ほど遊んでもいられなくなる……あれ、受験モードになるまであとどれくらい?」
「夏を制する者は受験を制するって言葉もあるし、七月くらいじゃないか?」
「あと半年とちょっと⁉」
「…………あらためて考えると、高校生活ももう半分以上終わってるのか……あっという間だな」
「本当に。……だから、まぁ学校でのことはあきらめて、今まで通りでいいんじゃない? 特に問題も起きてないし」
「そうだな」
学校でも一緒にいたいか、いたくないかで言えば、もちろんいたい。
しかし、そのための現実的なハードル、失敗した時のリスク、そして手に入るもの。
総合して考えると、今のままで別にいいかな……という気になる。
俺たちの関係を誰にも教えることができない、という問題は、どうしても解決しなければいけないほど大きなものではない。
「まぁそれはそれとして、理希くんは今年のクリスマスはどうしたい?」
「ここでチキン食べながらテレビ見て」
「いつも通りだね。代わり映えしないけど、代わり映えしないって思えるほど関係が続いてるってことでもあるし、いいことはいいことなんだろうけど。チキン以外にもクリスマスらしいことしたいなぁ」
「ケーキか。でも、二人で食べるにはホールは大きすぎるし、カットされたケーキではそれっぽさも――」
「理希くん、私はそういうこと言ってるんじゃなくて……って、全部言わせる気? 私が言いたいことくらいわかってるんでしょ?」
「――ここにお泊りしたい?」
彩紗がにやっと笑う。
正解のようだ……というか、問題が簡単すぎる。
「いつもはお泊りはダメってことになってるけど、クリスマスなんだから許してもらえるような気がするんだよねぇ」
「どうかなぁ、クリスマスだからダメな気もするんだが」
「とりあえず私は親に訊いてみるよ。ダメって言われたらあきらめるけど」
「粘らないんだ?」
「理希くんとのことで親に反対されたくないからね。今年のクリスマスも大事だけど、先は長いので、さすがに後先考えず全力投球するわけにもいかないからね。それに――」
それからいつも以上に体を寄せて来た。
「クリスマスにイチャイチャはしたいけど、別にいつでもできるし」
「そうだな」
俺は彩紗の肩を抱き、キスをした。
彩紗の言う通り、クリスマスにお泊りしてできることは、今すぐにでもできる。
★★★
「ところで、クリスマスプレゼントは何がいい?」
彩紗に腕枕をしてあげながらそう訊いた。
「お揃いの指輪とかいいなぁ。薬指に嵌めるやつ」
「それはもうちょい待ってください。経済力を手にするまで」
「じゃあお菓子とかでいいよ」
「それは欲がなさすぎ……」
「いいの。理希くんからは幸せな時間をたくさんもらってるから、クリスマスだからっておねだりしたらもらい過ぎになっちゃう」
「いや、たくさんもらってるのは俺も同じだから」
「いやいや、私の方がたくさんもらってる。だから、私からはすごいプレゼントをあげる。理希くんは黙ってそれを受け取ればいいの」
すごいプレゼント?
「どんな?」
「それは当日のお楽しみ」
「まさかとは思うけど、自分にリボン巻いて『プレゼントはわ・た・し』とかベタなこと言わないよな?」
「え、それじゃダメなの?」
マジか。なんのひねりもなくやるかだったのか……。
「それってその後、強制的に俺がお返ししないといけないやつじゃん」
「だって……ホワイトクリスマスって言うし」
「ベタな下ネタを……」
それだといつもとあまり変わらない気がするが……、まぁお手軽といえばお手軽か?
いや、いつもとは違う特別なことをねだってきたりとかあるかも?
……まぁ、悪くないか。
むしろ最高だな!
去年は十二月の真ん中に二人揃ってインフルエンザにかかり、当日までは一応回復したが万全には程遠く、クリスマスらしいことが満足にできなかった。
今年は彩紗が何をどれだけねだってきても応えられるように、体調を整えておかないとな。




