第15話 待ち合わせ
203号室の外でキスをしたい――。
という彩紗のねがいを叶えるため、次の日曜日に俺たちは出かけることにした。
どこに行くかは彩紗に一任することにして、今日は203号室ではなく、外で待ち合わせ。
「そう言えば、外で待ち合わせって久しぶりだな」
さらに言えば、彩紗と一緒に出かけるのも久しぶりだ。
俺たちの関係は、学校の人たちには秘密。知られないように、203号室にいることが多いので、デートらしいデートというのはなかなかしない。
いつも一緒にいて楽しいし、マンネリなんて感じないけれど、今日はいつもと違う時間を過ごせると思うと、なんかわくわくする。
半同棲カップルではなく、普通の高校生カップルのように一緒に外出して一日遊び、そのクライマックスにキスをする。
うん、これはこれで、なんかすごく良い一日になりそうだ。
★★★
着ていく服を選び、念入りに髪型を整えていると妹が茶化しに来た。
「なんで今さらそんなおしゃれしてるの? 浮気? 浮気相手の前だと、彩紗お姉ちゃんの前より気合入れるの?」
なんてことを言ってくる。
それを適当にあしらっていると、彩紗から連絡が来た。今日の集合場所の案内だ。
「ほれ、彩紗から連絡。浮気じゃないってわかったか?」
「あ〜ほんとだ。ってことは、お姉ちゃんも今日は気合入れた服を着て来るってこと? 勝負下着? 黒のレースの勝負下着で来るってこと?」
「いや、デザインは知らんが……あんまりそういうことは言うんじゃない」
どれだけ意味を理解しているか知らんが、騒ぐ妹の頭を撫でてくちゃくちゃにする。すると、怒ってどこかに行ってしまった。
猫みたいなやつだ。
★★★
指定された待ち合わせ場所は、地元から少し離れたところにある繁華街の駅。
市内にいくつかある繁華街の中では遠い方で、比較的落ち着いた雰囲気でもある。
うちの学校の生徒の生活圏からは、たぶん外れている。知り合いと遭遇する確率は高くないだろう。
家を出て駅に向かい、地下鉄に乗る。
もしかして彩紗にばったり会わないかと少し期待したけれど、そんなことはなかった。場所を指定してくるくらいだから、先に向かっているのだろう。
目的の駅の外に出ると、真ん前にドカンとデカい体育館のようなものが見える。
プロのバスケだか何だかのホームスタジアムらしい。あちこちで宣伝されているが、興味がないのでよくわからない。あ〜、ここにあったのかぁ、ぐらいの感じだ。
その体育館前の広場が指定の待ち合わせ場所。それなりに人がいたけれど、意外にあっさりと見つかった。
まぁ当然か。彩紗は後光を背負ってるからな。どれだけ人がいても、彩紗のいるところだけ輝いている。
「彩紗〜」
手を挙げて近づいて行くと、彩紗も手を挙げた。初冬に合わせてモコモコのコートを着ている。
まるで動物化したみたいだ。ケモミミとしっぽをつけたら、たぶん俺はこの場で悶絶死する。
「お待たせ」
「うん、待ってたよ」
彩紗はそう言って、つま先立ちになり背を伸ばし、俺の唇にキスをしてきた。
「……ん?」
「どうしたの、そんな驚いて。今日は外でキスするためのデートでしょ?」
「そうだけど……デートを終えて、そのクライマックスにキスって流れなんじゃ?」
「違うよ? 行く先々で、事あるごとにキスするデートだよ?」
マジかよ、思ったよりアグレッシブだな。
「そんな気持ちなこもってないキスはノーカンだから、やり直し。はい、今度は理希くんから」
彩紗は目を閉じてキスを催促してくる。
いくら知り合いがいない場所とはいえ、人はたくさんいる。こんなところでキスなんて恥ずかしい。
それに彩紗がキスしてるところを誰かに見せたくないし……だが、このまま放置はできないな。
……まぁ、キス顔をじろじろ見るやつもそういないだろう。その辺でキスするカップルとかそこまで珍しくないし。
「……んっ」
彩紗の唇に俺の唇を押し当てると、彩紗の口から甘い吐息が漏れてきた。
キスを見られるのは百歩譲って我慢するけど、そういう声はダメ! それを聞いていいのは俺だけ!
彩紗の口から吐息が漏れないように、少し強めに圧をかけてキスをする。
「理希くんったら積極的……いつもより気持ちよくなっちゃう」
唇を離すと、潤んだ瞳の彩紗がそう言う。ここが203号室なら押し倒してるところだ。
さすがにそれは我慢できるが……人に見られている中でキスしてわかったが、なんかこれいいな。
説明できないけど……なんか、その……いつもより盛り上がる気がする。あんまり感じちゃいけない気持ちの気がするけど、二人の時にはない何かが、見られながらのキスにはある。
「さて、待ち合わせのキスをしたところで、次のキスの場所に移動します!」
「本当にキス基準で日程組んだのか……」
「そうだけど?」
それが何か? と小さく首をかしげる彩紗。
こうも堂々と言われるとツッコむ気もなくなる。
「で、次のキスの場所だけど……なんと、メイド喫茶でやります!」
……これはまたとんでもないところを選んできたな。




