第1話 理希と彩紗
好感度MAXから始まるイチャラブストーリーをぜひお楽しみください。
第1話のみ三人称視点で2話から一人称になります。
――彩紗:今日は来れる?
というメッセージが送られて来たのは、昼休みが始まる五分前だった。
同じクラスなのだから、あと少し待って直接言えばいいのに……という単純な話ではない。
ちゃんと意味があっての行動だ。
坂城理希は教師の目を盗んで、《行く》と短い返事を送った。
昼休みが始まると、理希のところに数人の男子が集まってきた。
揃いも揃って特徴のないモブ顔の集まりだ。
イケメンでもなければ、キモいわけでもない。スリムでもなければデブでもない。顔面偏差値48〜52くらいの集まり。
かく言う理希もそれくらいの見た目。どこにでも……どこの教室にも溢れているモブ男子の一人だ。
一方、井納彩紗のところにも人が集まってくる。
理希のところとは対象的に華やかな顔立ちが揃う。
顔面偏差値で60を割る者はいない。その中でも一番顔が良いのが彩紗だ。
彩紗のグループは七割ほどは女子だが、男子も少し混ざっている。
彼らも顔面レベルは高く、いかにも一軍といった様子。誰が見ても、クラスの中心はこのグループだとすぐにわかるだろう。
あとは、カラフル。全員多少なりとも髪を染めていて、遠目にもわかる存在感。
黒髪の男子しかいない理希のグループとはなにもかもが違う。
理希と彩紗、教室内でのふたりの階級差は明白。
たとえ同じ教室にいても、話をすれば不自然に思われる。
いや、話すだけならできる。
事務連絡なら問題はない。
しかし、さっきのメッセージのやりとりのような、放課後の予定の確認はムリだ。
もしそんな話をすれば、クラス全員に聞き耳を立てられ、知られたくないプライベートを暴かれてしまうだろう。
なので、ふたりは学校では極力話をしないようにしている。
ふと目が合う瞬間もあるが、そういう時もこっそり視線を外す。
「坂城殿、今日はみんなで古本屋めぐりをせぬか?」
弁当を食べながら、左隣に座る小野が放課後の遊びに誘ってきた。
友人の名前の後ろに殿と付けるのが、最近の彼のブームだ。
一ヶ月前は氏だった。古のオタクみたいでイヤだからやめてくれと懇願したら、殿に変わった。
理希としては、殿もどうかとは思っている。
彼もオタクではあるのだが、そういうコテコテのあだ名を付けられるのは好きではない。
しかし小野は形から入るタイプで、しかもレトロ厨が入っている。自分が生まれる前の時代のオタク文化に強い興味を持っているのだ。
「悪いな、小野。今日は用事があって」
「うむ、ならばしかたない。ところで、そろそろ我の名前の後ろに氏か殿をつけてくだらさぬか?」
「……え? なんだって?」
「むう、それはまさしく古の創作技法、鈍感系! まさかまだ使う者がいたとは」
小野がなにやら一人ショートコントを始める気配を見せたので、理希は乗ってやることにした。
「知っているのか、小野!?」
「告白イベントは盛り上がるが、成功しても失敗しても物語が先に進んでしまう。これを回避するために、告白しつつも、イエスともノーとも言わずのらりくらり躱す創作テクニック。余りに多用されすぎたのと、引き延ばしを図りたい作者の手の内が見え透いていることで支持を失い衰退した! と言われている」
小野は早口でまくし立て、だんだん興奮してきて声が大きくなる。
立ち上がり、拳を握りしめ鈍感系の衰退について熱く熱く語るその姿は、彼が好む00年代のオタクを彷彿とさせる。
「そうか、歴史はわかった。だから落ち着け、ここは教室だ」
小野の暴走をこれまで黙って見守っていた堀田がたしなめると、我に返った小野は少し恥ずかしそうに着席した。
「むぅ、これは失敬。しかし、坂城殿、我らも華の高校生。これからなにがあるかわからぬ。もし万が一、ハーレムを築けるようになるとも限らんので、その時のために鈍感系の技法を嗜んで置くのも一興かと」
「いらんいらん。一人で十分だ。二人以上いてどうする?」
「まるで特定の一人がいるかのようですな」
妙に鋭いなこいつ、と思いつつ、理希は思考を悟られぬように笑った。
「我らに隠れていつの間に彼女を?」
「いや、彼女なんていないから」
「別に隠さなくても。悪いとは言いませんぞ。しかし、ご報告くらいはほしいところ……ご報告……うっ、古傷が……」
なにか思い出したように小野は頭を抱え、机に突っ伏した。
★★★
一連の様子はかなり目立っていて、クラスメイトたちの中には迷惑そうに彼を見ている者も数人いる。
「また始まった……あいつらいい加減にしてほしいわ、ったく」
教室の別の場所、一軍の集会所ではそんな声が聞かれた。
「なんかイメージだとああいうグループは、あたしらみたいな一軍のご機嫌窺ってひっそりしてるもんなのに。うちのクラスはあいつらが一番騒いでて、なんかおかしくない? 絶対調子乗ってるよ、あいつら。ね、彩紗もそう思うよね?」
その女子は彩沙に同意を求める。
彩紗はちらっとオタク男子たちのグループを見て、正確には理希を見て、曖昧に笑った。
「みんながご飯食べてる時に、大きな声で騒ぐのは良くないよね」
個人の批判ではなく、一般的なマナーの話にさらっとすり替える。
話しかけた女子は、論点をすり替えられたことに気付かず「それな〜」と同意した。
「あ、それで話は変わるけど、今日の放課後ってみんな時間ある? 行きたいところあるんだけど」
その女子の提案に、グループの男女たちは同意した――彩紗を除いて。
「ごめんなさい、今日は用事があって」
「また? 彩紗って放課後空いてない率高いよね。塾とか?」
「まぁそんな感じ」
「塾かぁ、来年大学受験だから、あたしもそろそろ始めといた方がいいのかなぁ? でも来年からで間に合うくない?」
「どこを狙うか次第かな」
「それはそう。高いとこ狙うなら早い方がいいに決まってるけど、まだ将来の夢とか特にないし。のりあえずそれが決まるまでは塾行かなくていいかな」
彩紗はなにか言うべきかと思ったが、本人がそれを選んだのなら横から口を出すことではないと考え直し、開きかけた口にご飯を入れた。
◆◆◆
放課後、理希は友人らと少し会話をした後、教室を出て帰路に着いた。
市営地下鉄に乗り、三十分ほどかけて自分の街へ。
駅から自宅までは西へまっすぐ一キロほど。
だが彼は、あと五百メートルほどの進んだ場所の交差点で進路を変えた。
県道を北へ向かい、細い路地へ入る。
ぐねぐねした道を歩き、たどり着いたのは小綺麗なアパート。
家族で住むには小さすぎる単身者用のアパートだ。
階段で二階に上がり、財布の中にしまってあるカギを取り出し、ドアを開けた。
「おかえり」
部屋の奥から彩紗が現れ、理希を出迎えた。
「ただいま」
一緒に暮らしているわけではないが、ここに入る時のあいさつは「ただいま」。
先に来ていた方は「おかえり」と迎えるのがここでのルール。
築十三年。
六畳のワンルーム。ベランダあり。
市営地下鉄の駅から徒歩十二分。スーパーまでは五分。
風呂トイレ別。
共同費込みで月六万円。
これはそんなアパートの203号室で営まれる、半同棲する高校生カップルの日常の物語。
全10万字ほどで完結まですでに書いています。
完結まで毎日午後8時に予約投稿設定しています。




