水無瀬村-(8)
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ヨルにおんぶをされながら、私は湖の調査を開始しました。夢の原因について直接的な答えとなるものは見つけ出せませんでしたが、やはり夢と同じ場所であるようと感じました。そうであれば一つの仮説が浮かんできます。
突然の展開で精神的に追い込まれてしまっていた状態であったため確信は持てていませんが、過去の水無瀬村の湖で実際に起こった出来事であり、私が体験した事は誰かの追体験だったのではないか、そしてその人が村の人達に夢を見せる原因ではないのかと。
「原因が超常的なものであれば、大勢の人に同じ夢を見せるのも可能なのでしょうが…」探偵としてそれで良いのでしょうか。超常現象は証明する事は難しいのです。妄想するのは簡単なんですけどね…。
「そいつが夢を村人に見せているとするなら、怨みからか…?」死者が現世の人間に干渉する。怨みであればわかりやすいのですが、不可解な事もあります。
「怨みであれば、村人の見る夢が優し過ぎないか…?雨が見たものに比べると」ヨルの言葉に私も頷きました。
「この村で過去に起きた事が真実で、その事に怨みを持っているのであれば、誰彼構わず私が見たものでも良さそうですよね」私だけが見た事に意味があるのでしょうか。「……死人如きが」とヨルが湖を鋭い目をして小さく呟きました。
「ヨル、一度宿に戻りましょう。本当にこれが答えであるならば、何か村に残っているものがあるかもしれません」明確な原因がわからない以上、この線で考えてみてもいいかもしれません。
「わかった…だが、何が残っているんだ?殺した人間の記録か?」それがあれば仮説の後押しになりそうですが、流石に殺人の記録は難しい気がします。
「神社で見た光景、白装束の人物、祝詞…については聞こえませんでしたが、やはりあれは儀式だったのだと思います」ヨルはピンと来ていないようでした。
「儀式であれば何らかの記録が残っている可能性があります」記録を探すためにも戻って休みたいです。強かってはいましたが、疲れたしお腹が空いてきました。晩御飯は何でしょうか?ヨルはすでに帰路に向けて歩いてくれています。
「雨、腹鳴ってるぞ…」前を向いて歩いているヨルから呆れた声が聞こえます。体勢的に顔を見る事は出来ませんが呆れ顔だろうと言う事はわかりますが運んでもらっている手前、ハリセンは辞めておきました。
無事に神社を後にして山道を降っていきます。
いつの間にか日は傾き始めているようでした。
「そう言えば、ヨル…」臭いは平気なのですか?と私は不意に気になって尋ねました。
「ん…?ああ、雨を見つけた時に綺麗さっぱり臭いが消えていたな…」必死で忘れていたが…とヨルは苦笑しています。臭いが消えた?ヨルが弱るほどの臭いだったのに?
「湖を調査した時には臭いも原因も見当たりませんでしたよね…一体どう言う事なんでしょうか」臭いも怨みの内だったのでしょうか。目に見えるものではないので追う事もできないのが悔しいですね。
「まぁ、臭くないのはいい事だ」ヨルは嬉しそうに笑っています。そう言う事じゃないでしょう、ヨル…。ヨルの様子に言葉を続ける元気がなくなってしまったので、私は黙ってヨルにおぶさって宿まで運んでもらいました。
宿に帰った後、晩御飯をたくさんいただいたのは言うまでもありませんよね?
晩御飯を食べて部屋に行った後、私は熱を出してしまいました。連日の疲れでも出たのでしょうか?布団で横になっている私の側にはヨルが心配そうな顔をしています。
「何か必要なものはあるか…?」そう言いながらおでこに冷たいタオルを乗せてくれます。
「ありがとうございます。でも、心配しないでください。お薬を飲んだから明日にはきっと良くなりますよ」私の言葉に少し安心したようです。
「ほら、ヨルも疲れたでしょう?部屋に戻って休んでください」今日は移動も多かったですし、私をおぶってもくれましたから。
「疲れてなんていないが…そうだな。だが、何かあったらすぐに来るからな」と、ヨルは立ち上がりました。気を使わせてしまってはいけない、と納得してくれたようでした。
「おやすみなさい、ヨル」部屋の扉に手を掛けているヨルに伝えます。彼もこちらを振り向いて、「おやすみ、雨」と言って部屋を出て行きました。
パタンと部屋の扉が閉まると、部屋全体が広くなったように感じました。おでこからタオルを取って重たい頭のまま体を起こすと、視界が踊ります。落ち着いてから、ヨルに電気を消して貰えば良かったな、と考えてスイッチを押すと部屋は瞬く間に暗くなりました。窓の外に目をやるとすでに真っ暗で、この部屋が世界から隔絶されているよう思いました。時折見える月明かりと虫の声だけが私のいる部屋と世界を確かに繋がっていると認識させてくれます。
布団に戻ると私は手の中のタオルを見ました。タオルは冷たいはずですが、ヨルの体温が残っている気がします。無骨に折り曲げられたタオルに不器用な彼の優しさが現れているようでくすぐったい気分になりました。ヨルに心配ばかりかけていてはいけませんね。
早く元気になるためにも、布団に横になった私はおでこで優しさを感じながら目を閉じました。
◇
⸻その晩、私は一つの夢を見ました。
⸻私はじっと湖の中心を見つめていました。
⸻ただ、そうしているだけで水面のように心は穏やかでいられます。
⸻静かな夢…そう思いました。
⸻動いているものは、何一つ存在していません。
⸻不自然な自然を前に私も動く事はありません。
⸻これは⬛︎⬛︎です。
⸻でも、そろそろ夢から醒めないと。
⸻私は静かに消えていきます。
⸻消える瞬間、微かに目の端に何かが映りました。
⸻湖の中から手を伸ばして、私の事を見つめている無数の目が。
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