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水無瀬村-(7)

―――――――キリトリ―――――――


 気が付いたら暗闇の中にいました。

 一片の光もない空間。ただ当てもなく、目的もなく漂っています。すでにどれ程の時間が経過したかもわかりません。

 全ての境界線が失われている世界で、肉体があるのかも今となってはわからず、誰であったかも思い出す事が出来ません。こうやって思考している事でさえ、徐々に次第に意識も存在も意義も全て薄れて、混じっていって、消えていくのも悪くありません…ここであれば、誰にも咎められる事なく妄想に浸る事が出来ますから。

 でも…誰に咎められるのでしょう…それに妄想とは何でしたか……?何か、物足りない気がします。大切なものを失くそうとしている気がします。

 私を想い、見てくれる誰かを——。


―――――――キリトリ―――――――


 ——め!——しろ!


 ……うるさいです。何でしょうか。静かにしてください。私は意識に蓋をします。


 ——きろ!あ——!


 ……しつこいです。容赦のない音に少しだけ苛々してしまいます。イタッ!? 何かちょっと痛いんですけど!? やめてください!痛いです!やめなさい!やめて!

「——やめろ!」私は抵抗しようと勢いよく起き上がりまし、痛い!!私のおでこに衝撃が走って火花が散ります。私のおでこ、ちゃんとありますよね?凹んだりしてませんよね!?思わず手を伸ばしました。…良かった、無事なようです……無事ではなかったですが、まだ、目の前がチカチカしています。

「いっ……てぇぇ!雨、お前の頭、岩かよ!」聞き慣れた声。目の前で同じくおでこを押さえているヨルの顔が見えました。

「…ヨル?」ヨルとは長い間、会っていない気がします。私はゆっくりと手を持ち上げて、彼の頬に触れました。「雨?」ヨルは戸惑って、目をぱちぱちと瞬かせています。

「ヨルだぁ……」ヨルが目の前にいます。何故かとても安心してしまった私は彼の首を目掛けて抱きつきました。

「うぉっ!」私に合わせてしゃがんで居たため、ヨルはバランスを崩して後ろに倒れてしまい、その上に私が乗るような体勢になりました。

「…お、おい…雨さん?…いててててて!い、息が…」私はヨルの首をキュっとします。完全にキマッています。

「ヨル、私のほっぺた叩いてましたよね?ねぇ!」ほっぺたがジンジンしているので、嘘は通用しないです。ギリギリと力を込めているとヨルが酸素を求めるように口をパクパクとさせて、私の背中をタップしているので力を少し緩めてあげます。

「……本当にヨルですよね?」ヨルからの返答がありません。首を絞めて怒らせてしまったのでしょうか。おそるおそる、顔を見るとヨルは白目を剥いていました。素人の首絞め、ダメ絶対。


「…で、何があったんだ…?」介抱の甲斐もあって数分後に意識を取り戻したヨルは、自分の首を摩りながら私に経緯を尋ねてきました。

「…私が小道を抜けてこの湖を目にした瞬間、ある夢……いえ、体験しました」色々あった後、改めて今、自分がいる場所を再確認しました。私は社殿裏の小道を抜けた先、湖の前に倒れていたようです。ヨルは私が行ってしまった後、すぐに追いかけてきたらしく、ここに倒れている私を見つけたと話してくれました。私も自分の身に起きた事を話します。

「体験…?」私の言葉にヨルが食い付きます。

「…あれは何かの儀式だったのでしょうか。…私は湖に沈められて…」続けようとした言葉を一度、飲み込みます。そして「私は……殺されたんです…」とこぼしました。ヨルは眉間に皺を寄せて、どういう事だ?と目で問いかけてきます。私は先程あった事を、ゆっくりですが、出来るだけ詳細にヨルに話すことにしました。


「今となってはあれが妄想だったのか、実際に私の身に起きた事なのかわかりませんが…ただ…」話を聞き終えた後、ヨルは難しい顔をしていました。私はぽつりぽつりと続けます。

「とても…とてもリアルでした…あの痛みや苦しみ、恐怖、それに死は、今でも思い出せてしまう程、私の記憶に刻まれています…」冷たい水が全身を包む感覚を思い出してしまい、咄嗟に震えそうな体を抱き締めて顔を伏せました。油断すると涙が溢れそうです。

「雨…すまない…俺が1人で行かせてしまったから…」私が顔を上げるとヨルは私の側で辛そうな顔をしていました。私は首を横に振って否定します。

「ヨルは何も悪くないですよ…私が1人で勝手に突っ走って………」その時、何かが引っかかりました。私は言葉を切って考えます。

「どうして私達は神社に来たのでしょうか」

「それは……雨が行くと言ったから…か…」少し言いにくそうにヨルは言います。

「そうですね。私がそう言って、ヨルにも着いてきてもらいました。ですが、そもそも私は何処で神社について知ったのでしょう。水無瀬村で誰も語る事のなかった神社の事を。もちろん、事前調査でも神社の情報はありませんでしたし」

「確かに前情報も何もなかったが、神社の存在を雨は知っていたな…何処で知ったのか、少し不思議ではあった」

「そう、不思議なんです。神社のことを“どこで”知ったのかが、どうしても思い出せないんです。誰かから聞いた気もするし、自分で見たような気もするし、最初から知っていたような気もします。ヨルは神社の事を知らなかったんですよね?」ヨルが頷きました。

「ああ、まったく知らないかった」それに、とヨルは言葉を続けました。

「雨が神社に行こうと言っていた時、違和感を感じた時があった」違和感。どういう事でしょうか?

「雨からは絶対に神社行く必要があると言う強い意志を感じた」

「強い意志…ですか…?」確かに思い返せば、湖に辿り着くまでは行かないとダメだと言う考えに囚われていたような気がします。

「もしかしたら、うまく誘導されていたのでしょうか」

「どういう事だ…?」

「私達は調査の為に水無瀬村に来ましたよね?そして実際に聞き込み調査を行いました。ほら、宿を出た後に言ったじゃないですか、隠されると逆に調べたくなるものです。あえて話さない事で神社の存在を私の中に植え付けた、と」私は探偵で妄想家ですからね、私にとっては特にいい餌だった訳ですね。それで強い意志を持つほどになるとは思えませんけどね。

「それにどこで、どうやって知ったのか…という事は謎のままですよね…例えば妄想した通りに何か閉じ込められているのであれば、私の言動やこの場所で見た事を鑑みて、その何かに呼ばれたとかなのかも知れませんが…」

「ちょっと強引過ぎないか…?その何かが雨を呼ぶ目的なんてあるか…?」

「んー…私にあの湖を見せる事が目的だった、とか?まぁ、外れていても良いんですよ、結局は妄想になってしまうので…」そう言って、私は肩をすくめました。自分で言っていて、信じられませんし。

「…夢の原因については不明のままですが、私が見たものと夢は関係ありそうですよね」村の人達に聞いていた夢のフィールドと同じですからね。「湖か…」とヨルもピンと来たようです。

「夢の中で殺された湖と同じだとしたら、ただの偶然じゃ済まないが……そうだな……」ヨルは他に思うところがありそうな表情をしています。「どうしましたか?」私は尋ねますが予想はついています。

「なぁ、やっぱりもうやめて帰ろう。何度も言ってるが、俺は雨が危ない目に会うくらいなら他はどうだっていいんだ」やっぱり、ヨルはそう言うと思っていました。私は首を横に振って意志を伝えます。

「…ヨル、気持ちはとても嬉しいです…ですが、探偵として頼ってくれた人を見捨ててしまっては、父に顔向けが出来ませんから…」ヨルを拾った事件の時、探偵で事務所の初代所長であった私の父は行方不明となりました。そんな父は依頼人を見捨てる事は一度としてありませんでした。なので事務所を継いだ私がそれを破る事は決して出来ません。

「親父さんに顔向けか…わかったよ…だが、次に何かあったら強制的に連れ戻すからな…」少しズルかったかもしれませんが、ヨルも妥協してくれました。私もヨルの言葉に頷きます。

「ヨル、ありがとうございます。では湖に何か隠されていないか、見てから帰りましょう」と私は言って、立ち上がります。「わわっ…!」それと同時に私は膝から崩れてしまいました。どうやら自分で思っている以上に体力を消費してしまっているようです。

「ほら、雨。俺におぶされ」ヨルが私の前に屈みました。

「ふぇっ!?い、嫌ですよ」変な声が出てしまいましだが、ヨルの言葉に慌てて拒否します。ヨルは振り返り怪訝な顔で私を見ます。

「どうしてだ…かなり疲れているだろう…?」

「あ、汗をかいたから嫌なんですよ!」ヨルは鼻がいいので密着は嫌です!

「そんな事か…臭いなんて気にしないから、ほら」そんな事ではないですよ!デリカシーがないやつめ!断固として動きません!そんな私を見て、ヨルは溜め息を吐いて「…しょうがない」と立ち上がりました。

「な、何ですか…?」威嚇している私の前まで歩み寄ってきて私を抱き上げました。

「や、やめ!」びっくりして抵抗しますがまったく意に返されませんでした。それどころか「こうでもしないと雨は意地を張って動かないだろ」と言い出す始末です。しばらくは暴れてみましたが、そのうち私の方が諦めました…。


いつも読んでいただきありがとうございます。

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