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水無瀬村-(5)

 神社に向かう山道に入ろうかと言う頃、ちょうどそれは聞こえました。

「……?ヨル、聞こえましたか?」私は歩みを止めてヨルに確認しました。

「…何がだ?」私の問いかけにヨルも耳を澄ましていましたが、彼の耳には何も聞こえなかったようです。

「水面に一滴だけ水が落ちたような音です。先程一度だけ聞こえました」あれは気のせいだったのでしょうか…。

「…水が落ちる音に何か気になる事があったのか?水の音くらいはしそうなもんだが…」ヨルは不思議そうな顔をします。ヨルの言う事は最もです。

「いえ…何が、という訳ではありませんが、何故か気になってしまいました。それに今朝この道を通った時はもっと水が流れる音がしたような……ヨル。この辺りは嫌な臭いとかしていませんか?」もしかしてと思い、例のヨルが言っていた臭いについて再び、聞いてみます。

「臭いか?…そうだな」ヨルは目を瞑って、鼻をくんくんと動かしていましたが、急に顔を顰めました。

「……微かに。この山道の先から流れて来ているのか…登るたびに臭いが強くなっている、か…?」ヨルは臭いを感じながら山道を少し進みます。私も後に続いて、ヨルの言葉を待ちます。

「雨…神社に行くの辞めた方が良いんじゃないか…?」突然、歩みを止めて私を振り返りました。

「ヨル。その臭いはどのような臭いなんですか?」

「ん……。あー…簡単に言うなら、大量の何かが腐ったような…内臓を直接抉るような酷い臭いだな」そう言ったヨルの顔は僅かに青ざめて見えました。

「その臭いの原因はわかりそうですか?」と私は続きを返します。一体、その臭いとはどう言ったものなのでしょうか。

「いや…実際見てみないと何とも言えないな…」

「なるほど…」ヨルが苦しむ程の臭いがあの神社に?朝行った時、私は何も感じませんでした。本当に何かがあるのでしょうか。

「雨…やっぱり神社に行くのは辞めよう。何か嫌な予感がする」先程は提案程度でしたが、今度は強い口調でした。ヨルは真剣な目で私を見ています。

「………神社には恐らく、村の人達が隠している何かがあります。もしかしたら夢の原因にも辿り着けるかもしれません」だから危険があったとしても行かないといけません。ヨルと目が合います。

「朝に行った時は何もなかったんです。きっと大丈夫ですよ」例え、私は1人であっても行かないと。

「私は行きますよ。探偵として、依頼を蔑ろには出来ません」ヨルを睨むように見つめるて、無言の主張をしました。しばらくの沈黙。ヨルは「…わかったよ」と納得してくれました。

「だけど危ないと思ったら、すぐに引き返すぞ」雨の事は俺が守ると、ヨルは何処か、戦場にでも行くような表情をして言いました。ありがたい事に無理をしてでも、着いてきてくれるようです。

 私は素直に頷いて「…ありがとうございます。ヨルが来てくれるなら心強いです。それに神社はきっと大丈夫ですよ、ヨル」と重ねて同じ言葉を伝えます。

「じゃあ改めて行きましょうか」私は意志を強く保つと山道に挑み、登っていきます。

「…俺は依頼なんてどうでもいいんだ…雨が居ればそれで」ヨルが私の後ろで何かを呟きましたが、その言葉は私の耳には届きませんでした。


 私達は無言で神社に向かって歩いて行きます。なだらかな傾斜で息が上がる事もありません。ただ朝よりは気温も上がっているため、その分、体力は奪われていきます。私は溶けそうになりながらも時折、ヨルに背中を押してもらったり、引っ張ってもらったりして登ります。おんぶは流石に頼んでいません。

「臭いはやはり強くなっていますか…?」私の言葉にヨルは頷きます。臭いのせいか彼は鼻を摘みながら歩いています。

「ヨル。辛いですよね…無理を言ってしまい、申し訳ありません」引っ張ってくれているヨルに声を掛けます。繋いでいる手を無意識に握っていました。

「気にするな、俺が好きでやってるだけだ…」顔は前を向いたまま、首を横に振ります。

「……依頼が終わって、事務所に帰ったらヨルが好きなもの食べに行きましょうね」

「なんだそれ…」ヨルが吹き出して「変に気を使わないで雨はいつも通りにしていろ」と続けてくれます。ヨルの優しさが身に染みます。

「それより、あれじゃないか?」ヨルは前方を指差しています。指の先。木々の間から真っ赤な鳥居が見えました。

「あ…本当ですね」目的の場所が迫ってきました。気合を入れましょう。自然と脚に力が篭ります。


 山道から鳥居が見えて、数分も立たないうちに水無瀬村の神社に到着しました。その場所は今朝来た時と寸分違わずに存在していました。修繕跡がある今にも崩れそうな社殿。綺麗に保たれている鳥居。動いている訳もなく。山中に造られたスペースに静かに佇んでいます。

「到着しましたね…ヨル、大丈夫そうですか?」隣に立っているヨルの顔を見上げます。ヨルはしっかりと手で鼻を摘んでいます。

「ああ…臭いは酷いが、まだ耐えられない事はない…」と言いつつも少し弱っているように見えました。早めに情報を集めて下山しましょう。

「何か隠されていないか、すぐに調べてみましょう」自分に言い聞かせるように言います。2人で鳥居を潜ると「臭いが強くなった」と言ってすぐにヨルが立ち止まりました。私はヨルを心配しながら神社の中を見渡しますが、社殿と鳥居があるだけで、他に奇妙なものや臭いの原因になりそうなものは一切見当たりませんでした。そうであるならば、一体何があるというのでしょうか…。目には見えない何かがここに…?それに。

「鳥居を潜ったら、臭いが強くなる…鳥居に守られて…?」鳥居がある事で臭いが外界に行かないようになっているという事ですか?

「…ヨル。臭いはどの方向が一番強いかわかりますか?」ヨルは悩むように社殿の裏手。社殿よりも奥、そして上側を指で示します。

「あちらですね、わかりました。少し調べに行ってみます…!」ヨルの示した方に駆け出します。あの方向に何かが。それはヨルを苦しめる存在か、夢の原因かもしれない存在か、それともまた別の存在か。

「…おい、雨!待て、1人で行くな!」背後からヨルの焦る声がしますが、相当、謎の臭いに参ってしまったのかすぐに追いかけて来る様子はありませんでした。

 私は社殿の裏手に回り込むとそこから、更に上に続く道を見つけました。ヨルを苦しめられた憤りからだったのか、私は山道を踏み付けるように一気に駆け上がりました。そこに答えがあると信じて。

いつも読んでいただきありがとうございます。

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