水無瀬村-(4)
「ご馳走様でした」
”けいしょう”に戻った私達は無事に志乃さんの作ったお昼御飯を食べる事が出来ました。本日のお昼御飯も素晴らしいものでした。まさか、お魚があんな形で出てくるとは思いもしませんでした。
「今からもう晩御飯が楽しみですね、ヨル!」向かいの席でお茶を飲んでいるヨルに同意を求めます。異論は認めません。
「そ、うだな。だが、雨…食べ過ぎたら太…」スパァン!と食堂に何かが破裂するような良い音が響きました。
「……!一体、何の音ですか!?敵襲ですか!」周知を警戒しますが、いつまで経っても二の矢が来ません。しかし、ヨルがやられてしまったようです。頭を押さえています。ヨルが反応出来ないだなんて、どのような恐ろしい敵なのでしょうか。私がキョロキョロとしていると、目の前のヨルがこちらを白い目で見ています。何故でしょう?心当たりはありませんが。
ヨルは呆れ顔で「雨…今のは何で叩いているんだ」と叩かれた場所を摩りながら尋ねてきます。どうやら隠しきれなかったようですね。潔く認めましょう。
「企業秘密…と言いたいところですが、デリカシーのないヨル専用に準備しておいたハリセンですよ」場合によってはスリッパなどに変わるので安心してください。釈然としない表情のヨル。だからこそ叩かれたのですよ。
「それにしても良い音でしたね…まるで…」ハッとして自分の口を押さえます。まさか、そんな…いえ、でも思い当たる節も…。
「なぁ……雨も大概、失礼なんじゃないか…?」ヨルの視線がチクチクと刺さります。
「誤解ですよ、信じてください」ヨルの頭の中身が空だからとか、そんな事は一欠片も思っていません。曇りのない無垢な目で見つめ返すとヨルは気圧されたました。私の勝利です。
「ふふふ…妄想家を舐めてはいけませんよ」自画自賛しましょう。
「いや、心の声が漏れてるぞ…」ヨルは、はぁ…と深い溜息を吐きました。
閑話休題です。
「お昼御飯もいただいたところで、そろそろ神社に向かいましょうか」
「雨は朝にも行ったんだよな?そこには何かあるのか?」
「いいえ、ありませんでした。あの場所にあるのは社殿と先程、遠目で見た鳥居だけでした」私はハッキリと言います。
「……なら、あまり行っても意味がない気がするんだが…」
「ヨルは夢の調査をした時の事を覚えていますか?
「村の奴等に話を聞き回った時か?…いや、あまり覚えてない…」ヨルの思わぬ返答に私は絶句しました。一緒に居ましたよね。調査は連日行いましたし、なんだったら昨日も調査しましたよ?まさか、あのヨルは別次元のヨルでこのヨルとは違う存在なのでは。
「いや、何となくは覚えているからな…?」私が妄想の世界に旅立っていると、まずいと思ったのか誤魔化そうとしてきます。だから中身が空だと言われるんですよ…主に私に。
「………私が尋ねても、村の人達は誰も神社の事を話そうとしませんでした。頑なに。だからこそ、何もないのが不思議なのですよ。」私はコホンと一つ、咳をすると話を戻します。
「そこまで気にする事か…?存在を知らなかったって可能性もあるだろう…?」
「…社殿はボロボロでしたが、鳥居は綺麗に手入れされているようでした。水神様を信仰している水無瀬村で、その存在を知らないなんて事はあり得ないと思います」私は深く思考を落としていきます。
「どうして、社殿はボロボロなのに、鳥居だけ綺麗にしてあるのでしょうか…?」社殿は神霊が祀られている、言ってしまえば神様が住む場所ですか。そして、鳥居は俗世と神域を隔てる存在です。どちらも本来であれば神社にとって重要な物です。その中で鳥居だけ綺麗だなんて、神様を蔑ろにするような行為です。あれだけ水神様、水神様と言っていた村の人達が。そんな事、あり得るのでしょうか。これでは、まるで…。
「まるで、何かを閉じ込めているようです」そうであれば、あの空間は何なのでしょう?”神の社”なのですか?本当に?
「お、おい、雨…」ヨルは止めようと手を伸ばしますが、次々と流れる妄想は止まりません。
「語ろうとしなかった村人…あそこには触れたくない何か、または見たくない何かがあるかのようです…」
「雨!戻ってこい!」思考の海でブツブツと妄想を続けていると、ついにヨルの手が肩に届いて現実に呼び戻されました。
「ヨル、どうしましたか?」ぼやけていた焦点がヨルに合わさります。ヨルも目が合うと肩の手を離しました。
「…突然、妄想を始めるなよ…」
「何を言うんですか、いつもの事ですよ?」
「それでもびっくりするんだよ…」いつも心配をかけていたのでしょうか。ちょっと反省します。改善は難しいですけどね。せめてもの謝罪の気持ちとして頭を撫でておきます。
「そういうわけで、神社に向かいますよ」何はともあれあの場所にはヒントがあるかも知れませんしね。
「何がそういうわけ、なんだ……まぁ、雨が行くって言うなら着いて行くけどな…」文句を言いながらも素直で良かったです。私達は立ち上がって神社に向かう事にしました。
「この村にはどうして宿があるんだろうな…」宿を出た私達。ヨルは背後に佇んでいる宿を振り返りながら言いました。
「何ですか…藪から棒に…」
「いや…この場所には特別なものがないだろう?名所とか特産品とか…」水無瀬村に来る道すがら、この村については調べてみましたが、確かにこれと言って名物となるものはありませんでした。
「ああ…そう言う事ですか、人が来る理由がない。であればわざわざ作る必要はないのでは?と言いたいのですね」ここは山奥で旧道からも外れています。軽く調べただけなので、特別なものを漏らしている可能性も否定は出来ませんけどね。
「山の奥で迷う人間が多かったからと思ったんだが……どうしたんだ、変な顔して」私がニコニコ笑っていたら変な顔と言われました。無意識にハリセンを握っていましたが、ここはグッと抑えましょう。
「いえ、ヨルも色々と考えられるようになったなと思いまして」素直に言葉を伝える事にします。
「なんだそれ…俺は昔からちゃんと考えているぞ」心外だ、と顔を歪めます。
「私と出会った頃は、もっと考えなしだったと思いますが…」あの時は酷かったです。考えなしと言うより、お金や一般常識と言った概念がありませんでしたから…うぅ…思い出すと頭が痛くなります。私の指摘にヨルも言葉を詰まらせてしまったようです。
「…それより…!雨はどう思う?」内心を振り切って話を戻したようです。
「…ううん…確かに水無瀬村に目立った観光名所は見当たりませんでしたし、自給自足で十分生活を賄えているようなので交易も特に必要がなさそうですし」私の言葉にヨルは頷きます。
「まぁ普通に考えるとずっと昔に作った名残、旅人や神社の参拝者の為とかなんでしょうね」
「やっぱり、変な所はないか…」ヨルが残念そうな顔をしています。ですが、がっかりする必要はありませんよ。
「…現状では、としておきましょう。その方が、妄想のしがいはありますから。ただ、”けいしょう”さんがあって良かったですよね。美味しい御飯も食べられましたから」御飯だけで少なくとも星5つは余裕で付けたいくらいです。
私達がそんな話をしている時、何処かで水の音が聞こえた気がしました。
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