水無瀬村-(19)
遅くなってしまい、申し訳ありません!
特に誰かに見つかることもなく、刀屋のお屋敷に到着した私達。
車からは荷物を下ろさず、隠れるように移動したのが良かったのかもしれません。
お屋敷であてがわれた部屋は綺麗に片付けられた和室で、狭すぎず広すぎずと言った部屋でした。
ヨルは「何かあったらすぐ呼べ」と言って勝手に他の部屋上がり込んで、さっさと寝てしまったようでした。
私はみさきさんに浴室を借りる許可を得て、汗を流します。
汗と一緒に疲れも流れて行けばいいのですが、そうもいきません。事務所に帰ったら温泉でも行きたいですね。
浴室を後にして客間の前を通りかかるとみさきさんが部屋でお茶を飲んでいました。
「みさきさん、シャワーありがとうございました」私は彼女に声を掛けます。
「…あ、雨さん」顔をあげてこちらを確認すると「少しお話しませんか?」と続けました。
「もちろん、いいですよ」そう返答して、私は客間に足を踏み入れました。
みさきさんの前に腰を下ろすと、しばらくの間静寂が訪れました。正確に言うと虫の声や時計の音はしています。
「あの…」みさきさんがチラッとこちらを見ました。
「雨さん…本当にごめんなさい。私…あなたを生贄にしようと…」言葉に詰まるみさきさん。その目には涙が溜まっています。
「…誰かを生贄になんてしたくなかった…こんなの間違ってるってずっと思ってた…だけど、私にはどうすることも出来なかった…従うしか、なかった…」溢れ出す言葉を私は何も言わずに聞きます。
「結局、自分が可愛くて……でも誰かを犠牲にして成り立っている村に…自分に吐き気がして…」
顔を覆うみさきさん。指の隙間から涙が見えました。言葉にならない嗚咽。
「みさきさん…もう終わるんです。色々と思うところはあると思いますが、あなたも苦しんでいたんですよね?これからは好きに生きていいんですよ」私がここで正論を並べてもしょうがないですし、残念なことにすでに生贄になった人を救えるわけでもありません。みさきさんが今後どういう選択をするかは分かりませんが、これで終わるんです。
「…そう、ですね…ありがとう、雨さん…」顔を覆う手を外して、そう告げるみさきさん。目には後悔と安堵が入り混じっているようでした。
「とりあえず、今日は休みましょう。明日も大変なはずですから」そう言って立ち上がり、みさきさんの肩をポンと叩きます。
「はい…お時間をいただきありがとうございました。おやすみなさい」その言葉を聞いた私は客間を後にして部屋に戻ります。
布団を敷いて横になって目を瞑ります。
疲れたので何も考えません。
おやすみなさい。
鳥の囀りで目を覚ました私はすぐに起き上がることなく布団の中で惰眠を貪ります。
とは言いながらも、人の家なのでだらだらしてはいられません。起きます。
「んー!」
起き上がり伸びをすると頭が回ってきます。
布団から出て、着替えや身支度を済まして部屋を後にしましょう。
これから報告会ですから。
私が部屋を出るとちょうどヨルも部屋から出てきたところでした。
「おはようございます」声をかけるとこちらを向きました。
「雨か…どうだった?」朝の挨拶もありません。
「おはようございます」改めて語気を強めて言うと「あ、ああ…おはよう…」と押され気味の声が返ってきました。私はにっこり笑って頷きます。
「…で、どうだったんだ」
「夢のこと、ですよね?それについては二度手間になってしまうので、みさきさんを呼びにいきましょう」と告げますが、ヨルは私の様子からなんとなく理解できたのか、安堵しているように見えました。
客間に顔を出しますが、見当たりません。
台所にも居ないようです。
「みさきさんー?何処にいますかー?」
お屋敷中に響いたか分かりませんが、結構大きな声で呼びかけますが、返事がありません。と言うより物音一つしていません。
「……おかしいですね」
広いお屋敷とはいえ、自宅で迷子にはならないですよね。
「みさきさんの部屋に行ってみましょう」
後ろから着いてきているヨルに向けてそう言って、歩き出します。
お屋敷の廊下の先。
綺麗な細工が施された戸の部屋がみさきさんの部屋です。
まだ寝ているのかもしれないので、いきなり開けるのは良くありません。寝てなくても、ですけどね。
「みさきさーん、居ますかー?」
まずは部屋の中に声を掛けてみます。数分待ちますが、反応がないため、次はノックをしました。
中の音に耳を澄ましましたが、誰かが動く音も聞こえません。
「…雨。部屋の中から人の気配がしない」
ヨルの言葉を受けて、慌てて戸に手を掛けて一気に開きました。
戸を開けたときに部屋の中から何処か湿気た風が抜けていきました。
「みさきさん!居ますか!」
私達は急いで部屋の中に踏み込みます。
みさきさんの自室。
中にはタンスと棚、そしてベッドが一つ。
年季が入っていますが、長い間、大事に使われてていたことがわかります。
それほど広くない部屋を見渡しますが、何処にもみさきさんの姿はありません。
まさにもぬけの殻と表現していいほどに。
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