水無瀬村-(13)
意識が戻りました。
目を開けても真っ暗です。
「イタタ…」傷などは無さそうですが頭が痛いです。何があったか思い出します。……そうでした、本を持って外に出ようとしたところで急激に眠気が訪れたんでした。でも一体どうして…?ふと、客間で飲んだお茶が浮かびました。睡眠薬…?もしかしてみさきさんが?まさか、そんな事はないですよね。
「ヨル?みさきさん?」2人の名前を呼びました。程なくして近くからヨルの呻き声が聞こえました。私は
体を起こすと声の場所を手探りで探します。温かいもふもふした何かに触れました。何度か触るとヨルだとわかりました。何度か揺らすとまた呻き声。起き上がる気配がしました。
「……雨、ここは何処だ…?」
「ここは刀屋家の蔵ですよ、忘れてしまったんですか?」寝ぼけているのかわかりません。
「ああ…何があったんだ…」考えた事をヨルに伝えてみます。
「どういった理由でここに残されたのかはわかりませんが…」残念な事にわからない事ばかりです。
「……刀屋 みさきの気配もないな…」ヨルはきょろきょろしてみさきさんを探しているようです。
「真っ暗なのによくわかりますね…」流石、犬系男子です。目は慣れてもいまいち見えません。
「…思ったんだが、スマートフォンで照らせるんじゃないのか?」……ヨルのくせに鋭いですね。私は無言でスマートフォンを取り出してライトを照らします。ヨルの顔が見えます。明るいって素晴らしいですね。
「持ち物を取り上げられてなくて良かったですね」そして周辺を照らすと、私達が取りに来た本が落ちています。みさきさんは持っていかなかったのですね。私は拾い上げます。この中に秘密があるかもしれないので持っていきましょうか。
「雨、ここから出るぞ…刀屋 みさきを問い詰めてやる」差し伸べられた手を握って私も立ち上がります。
「…もうみさきさんも村から脱出は無理って事ですよね…」思わず俯いてしまいます。
「……理由次第だろう」と、手を引いて入り口の方に歩き出しました。
「この本には何が書かれているんでしょうか?」手の温もりを感じながらヨルに話しかけます。
「さぁな…雨、ここで読み始めないでくれよ」
「私はそんなに見境なしじゃないですよ…!時と場合を選んで読みますよ」今がそんな状況じゃないのはわかっていますよ、と手を強く握ります。
「…だが今更、夢の事なんてもうどうでもいいだろう」ヨルは痛がる素振りも見せずに言います。
「それでも気になるものは気になるんですよ。妄想家として」声を大にして言います!
「そこは探偵としててであってくれ…」ヨルの方から痛い指摘が飛んできました。
「言い間違えただけです!」もちろん探偵としてですよ!…本当ですよ?
「この扉ですよね?」程なくして私達は観音扉の前に辿り着きました。中から押してみます…全く動きません。案の定、開けられないように施錠されてしまってるようです。
「雨、少し退いてくれ」ヨルに何か作戦があるようです。言われた通りに扉の前から移動します。
「…行くぞ」ヨルは深く息を吸い込むと途轍もない勢いで観音扉を蹴りました。木材に重いものがぶつかる音。私はその音に目を瞑ってしまいました。
「…チッ、ダメか」その声に失敗したのを悟って目を開きます。そんなヨルに「やる前に一言、言ってくださいよ…」と文句を言いました。まぁヨルの力でも開けられないなら方法は一つしかないですね…。これは使いたくなかったですか…。
私はヨルをそっと押しのけて、再び扉の前に立ちます。そして大きく息を吸って、姿勢を低く構え…
「みさきさーん!!開けてください!開けてくださいーー!!」と向こう側に声をかけます。
言い終えた後、沈黙が蔵を支配します。
「ふっ…ダメでしたか…誰もいないようですよ、ヨル」どうやら誰も近くにいないのかもしれません。
「雨…なんか、かっこ悪いな…」
「対話で何とかしようとしただけですよ」疲れた顔のヨルは放っておきましょう。さて、どうしますか…。
「開かないし、反応がない。一体何が目的なのか…」
「俺達を監禁しても何も得はないぞ?」
「……嫌な予感がします。これまでの事を考えると、私にはのんびりしている時間はないかもしれません…」小さく呟きます。思い当たる事もありますし、何とか出口を探した方がいいですね。
「ヨル、他に出入り口がないか探しますよ」私は来た道を見据えて進み始めます。「雨…!何処に行くつもりだ?」とヨルも後ろから着いてきます。
「ここから脱出するにはヨルだけが頼りです」振り返ってヨルをまっすぐ見つめます。
「……わかった。理由は後で話してくれよ」話が早くて助かります。そして、ヨルは私を追い抜いて先を歩きます。
「ところで何か目星はあるのか…?」颯爽と歩くヨルがちらっと私を見ました。ちょっとかっこ悪いです。
「そうですね…蔵の位置と方角……うん、あっちの方向に行きましょう」私は指でその方向を示します。
「他には…?」重ねて尋ねられます。行くだけでは脱出は出来ませんからね。私は少し言葉を溜めます。
「……臭いを。私の考えが正しいなら、道が現れるはずです」ヨルは何か思い当たったようで、頷くと私の前に手を差し出しました。私はその手をしっかりと握ります。
「少し、急ぐぞ」そう言って引っ張られるように進み始めました。
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