(第007話)リザベルさんは召喚できる(条件あり)
「おっはようございまーす! 新しい朝が来ましたよー!」
この声……本当に来てくれたんだ。
女神……リザベルさん。貴女は俺の女神です……
「せえのっと!」
ん? 気合いを入れた?
と思った直後、昨日もくらった頭突きが入った。
「い……痛っだああああ!」
「多良木さんって変わってますよね。毎日頭突きで起こしてくれって……」
「頭突きのことじゃないですよ!」
「はっ! もしかして変態マゾヒスト? けど、そんなことは書いてなかったし……」
朝から頭突きされるわ、変態呼ばわりされるわ、もう散々だ。
何だよこのポンコツ女神。
「リザベルさんは痛くないんですか?」
「ええ! たとえブラックホールでも、私の頭は潰せませんよ!」
ただの石頭に、無駄にスケールでかい表現だな。
「とにかく、明日から頭突きはやめてください」
「はあ。分かりました」
「それと、昨日のトレーニング内容を報告したいんですが」
「おっ! 早速ですか!」
「数えてたんですけど、途中から分からなくなっちゃったんですよね」
「なるほど。情報通りのうっかり者ですね」
情報って……あの紙のことか。しかし、うっかりはお互い様だろ。
「けど、少なくとも腕立て伏せ、腹筋、スクワット、背筋、全部300回以上はしてますから!」
「おお! なんかよく分からないけど、凄い気がします! 何言ってるのか全然分かりませんけど!」
そう。俺は昨日、睡眠以外の時間はほとんどすべて筋トレに費やしたんだ。
飽きっぽい俺がどうしてこんなに頑張れたかというと、それはもちろん、他にやることがないから。そして、リザベルさんにドヤ顔で報告するためだ。
「じゃあ、今日は400回にチャレンジですね!」
「そんな急に増えないですよ」
期待されると嬉しい。やっぱ人間、期待されてなんぼだよ。
400回……頑張ってみようかな。いや。頑張ろう! 他にやることもないしね!
「それより相談があって」
「何でしょう?」
「筋トレグッズはもらえないんですよね? ダンベルとか、バーベルとか」
「サーベルとか?」
「覚えてください。サーベルは筋トレグッズじゃないです」
「えっと……筋トレグッズに限らず、この部屋には何も持ち込めないんです」
「じゃあ、リザベルさんのハリセンとか算盤とかは?」
「あれは私の標準装備ですから。服と同じ扱いなんですよ」
装備か。何かよく分からん理論だな。
単調な筋トレに変化がつけば……と思ったが、諦めるしかないか。
「けど、装備以外にも持ち込めるものがあるんです。持ち込めるというか、この部屋に召喚できるものがあるんですよ」
「召喚?」
「ええ。既に死んであの世にいる生物であれば、この部屋に呼び出すことができますね」
なるほど……であるなら、既にお亡くなりになった格闘技の先生なんかを呼んでくれば、これから2年間、マンツーマンで指導してもらえるのでは?
「人間も大丈夫ですか?」
「人間って、地球星人のことですか?」
「はい。指導してくれる方をお招きしようかと」
「残念ですが、それはできません」
「え? 死んだ生物はいいんじゃないんですか?」
「何でもいいわけじゃないです。魂が合わない場合もありますから」
「たましい?」
「ええ。少し難しい話になるかもしれませんが」
「細かいところは省いてもらっていいです。どうせ分かりませんし」
そういうと、リザベルさんは少し考え込む素振りを見せた。
しかし、ふとした思いつきで筋トレグッズの話をしただけだったんだが、それがまさかこんな方向に飛んでいくとは……
「まず、生物は個体ごとに一つの魂を持っています」
「はい」
「で、その魂には型というか、種類があります」
「何種類くらい?」
「10の30乗くらいです」
というと、0が30個並ぶ数か。
よし。深く考えないようにしよう。どうせ分からないし。
「で、私は基本的に、地球星人を呼び出すことができない型なんですよ」
「じゃあ俺は?」
「多良木さんは例外ですね」
なるほど。例外。やっぱりよく分からないや。
「けど、地球星人の数はけっこう多いですから、例外は多良木さん1人だけだとは思えないですね……ちょっと待ってください。検索してみます」
「え? ああ、お願いします」
検索……頭にコンピュータが入っているんだろうか。
じゃあ、あの算盤はいったい何のためのものなんだろう……?
「いました! 地球星の時間で昨日死んでます!」
「ど、どんな人ですか?」
「あれ? これって多良木さんの知り合いですよね?」
「知り合い?」
「はい。私立十六夜学園2年生。多良木さんは2年生の担任でしたよね?」
うう。うちの生徒か。嫌だなぁ。
「そ、それより名前は?」
「えっと……たなかこうていくん? こうてい? 不思議な名前ですね」
たなかこうてい? うちにそんな名前の生徒はいないような気がするが……
ん? ちょっと待てよ。こうてい……肯定、校庭、行程、高弟……
皇帝?
「そ……それ……こうていじゃないです」
誰だって最初はそう思う。けど、そう呼んだ者は必ずぶちのめされる。
それの正しい呼び方はこうていではなく――
「そいつの名はカイザー……田中皇帝なんです!」