(第057話)リザベルさんの一人称でお送りします(2)
よかった。多良木さんが無事だった。それだけでもう私は十分幸せ。こんなに幸せなのだから、増加傾向の体重のことも、さっき食べたポテチのことも、全部忘れてしまいましょう。
(そちらの生活にはもう慣れましたか?)
うん。ロボ声もそろそろ直ってる頃でしょう。
ふふふ……私、声だけはけっこう自信があるんですよね。
(はい。どうにかこうにか。それよりリザベルさん。聞いてもらえますか?)
(その声……何かいいことがあったんですね?)
(あ。分かります?)
(もちろんですよ。それじゃ、多良木さんの冒険譚を聞かせてください)
(実は俺、いつの間にか凄い石頭になってたんですよ!)
え? いいことって、それ?
(石頭……ですか?)
(はい! これって、リザベルさんの石頭がうつったんじゃないですか?)
あー。そういえば説明していませんでしたね……
(うつったって……病気みたいに言わないでくださいよ)
(そ、そうですね。それじゃ遺伝で)
(それだと、私が多良木さんのお母さんになっちゃうじゃないですか)
(た……確かに)
うーん。今更説明するのもアレですし……まあ、いいかな。役に立つことはほとんどないでしょうけど、だからって困ることもないでしょう。
(けど、元気そうで何よりです。問題らしい問題もないようで、安心しました)
(問題……なく……?)
あれ?
「問題はありまぁす!」
(わっ! リケジョ! 何だか懐かしい!)
「も……問題……な、何から話そうか……えっと……」
(声が出てますよ。落ち着いて。まだまだ時間はありますから)
(そ、そうですね。落ち着きます)
一体、何があったんでしょうか。
けど、石頭の件の次に回すくらいだから、きっと大したことではないのでしょう。多良木さんったら、あわてんぼうなのは相変わらずですね。
(それでは、一つずつゆっくりと話してください)
(はい。一つずつ、ゆっくりですね。それでは……)
そうだ。念のため、メモしておきましょう。
えーっと、鉛筆はどこに……
(この世界、魔王がいるんですけど)
え? 魔王?
「な、何だってーーー!」
(それも三人)
「な、何だってーーー!!」
(二年前に突然現れたそうです)
「な、何だってーーー!!!」
「リザベルさんこそ落ち着いてください!」
(はっ! 多良木さん、声が出てますよ!)
かくいう私も、さっきは声が出てましたけど。
そんなことより! ノストラダムスの大予言ばりにびっくりしちゃったじゃないですか! そりゃ出ちゃいすよ! 『な、何だってーーー!』 が! というより、話す順番がおかしいでしょ! どう考えても石頭よりこっちが重要!
しかし……どう考えても変ですね。魔王なんて、猫型ロボットが出すお役立ちアイテムみたいにポンポン出てくるようなものではないんですが。
けど、多良木さんが嘘をつくとも思えません。詳しい話を聞く必要がありますね。えーっと、鉛筆鉛筆……ありました。
(それでは多良木さん、その魔王のこと……)
(はい。できるだけ詳しく説明します)
(まず、名前が分かるなら教えてください)
(三人のうち、二人は自分で名乗ったみたいです。それがギデオンとアレイスター)
ギデオン? アレイスター?
うう。思い出せそうで思い出せない。
(もう一人は?)
(この世界の人たちからはフォーアームズって呼ばれてます。こいつは喋らないんで、渾名みたいなものですね)
フォーアームズ?
(その名前……腕が四本あるってことですか?)
(はい。安易なネーミングですよね)
確かに。けど、その安易さのお陰で……分かっちゃいましたよ。そいつが何者か。
(多良木さん。落ち着いて聞いてくださいね)
(分かりました)
(その四本腕の正式な名前はゴルムント・バートレイ)
(な……名前が分かるんですか!)
(はい。そしてゴルムントのお陰で、他の二人……ギデオンとアレイスターのことも思い出せました)
(凄い! さすがリザベルさんだ!)
ふふふ……もっと褒めて。
(アレイスターの本名はアレイスター・ナッシュロー。ギデオンの本名は凄く長いから飛ばします)
(なるほど。寿限無みたいなものですか)
けど、どこまで話すべきでしょう。というより、どこまで話せば、秘密を保ったまま多良木さんに幸せな一生を送ってもらえるのでしょうか。
いや。今は秘密のことは後回しです。まずはその魔王……いいえ。奴らを始末することを考えないと。
(その三人は魔王ではありません)
(えっ? でもこの世界の人たちは魔王だって――)
(おそらく、強い力を持った凄く悪い奴だからそう呼んでいるだけでしょう。魔王の正式な定義からは外れます)
(魔王の正式な定義……そんなものがあるんですね)
(その三人の正式な定義はこうです。欲望に飲み込まれ、不老不死を求めた結果、数千万年、数億年に及ぶ生の苦しみを受け続け……精神が崩壊した知的生命)
(そ……それって……)
(はい。私たちはその三人……いえ。三匹のことを、悪魔と呼んでいます)




