(第055話)馬車でお出かけ(敵襲あり)
三日後、ミアさんの業務移行が終了し、俺、ミルズくん、ミアさん、カーライルくん、リンジーさんの五人は首都オルフセンを目指し、ガスパールの町を後にした。
とはいえ、ガスパールの町と首都オルフセンは整備された街道で結ばれており、移動のほとんどは馬車になる。二階建馬車の一階部分に俺たち五人プラス意識のないラルゴが乗り込み、二階部分は見張りの兵士や御者の交代要員が利用する。馬車に乗るのも、こんなVIP待遇も生まれて初めてだ。
「聞いたよ。タラキくん、ずっと勉強してたそうじゃないか」
走り出してからしばらくして、リンジーさんが話し掛けてきた。
「ええ。勉強というか、一般的な常識を身につけようと――」
「熱心で何よりだよ。二人の仲もより深まったことだろう」
う……この腐女子、さてはミアさんに聞いたな。
「タラキさん、凄く吸収が早いんですよ。僕も教えてて楽しかったです」
「きっと、君にいいところを見せようと頑張ったんだろうね。まったく、愛とは素晴らしいものだよ」
どうしても話をそっちに持っていきたい腐女子は置いといて、実際、それはあるかもしれない。俺が頑張るのはいつも、誰かの熱意や期待に応えたいと思ったときだ。
二年間、一日も休まず鍛え続けることができたのは、リザベルさんが傍にいてくれたからで――
って、そういえばロボベルさんと交信できる日、今日じゃないか!
もちろん、話ができるだけでも嬉しいが、それ以上に、聞かなければならないことがたくさんある。争いのない平和でイージーな筈の世界に、魔王が三人。しかもそのうちの一人は恐ろしく狡猾な奴で、そいつの策略にはまった人間は少しずつ滅亡に向かっている。これをイージーだというのは、いくらなんでも無理があるだろう。
あ、それから戦闘力測定装置のことも。
俺の四分の一の戦闘力しかないミアさんに大苦戦、というか実質的に負けてしまった理由。ミアさんの方が戦闘が上手いということもあるが、そんなに油断したつもりも、手加減したつもりもなかったんだが……
「ドラウプニル様。もうすぐ――」
「ああ。分かってる」
ん? カーライルくんとミアさんが話している。
「カーライルさん。何がもうすぐなんですか?」
「ここから先、街道は細く、険しくなるんだ。つまり、奇襲をかけるにはもってこいの場所だということだよ」
え? 奇襲? ヤバくない?
と思っていると、ミアさんは伝声管を使って、馬車の二階にいる兵士たちに何やら指示を出した。
「たぶん、アタシが動いたことは、もうギデオンにバレてる」
「私が進言したんだよ。魔王にとって脅威になるのは、動かない軍隊よりも動く八英雄だってね」
確かに。軍隊を動かす権限がある人は、揃いも揃って魔王の掌の上にある。
「私と上にいる魔法兵は防御魔法が使える。八英雄の魔法使いみたいに強い障壁はつくれないけど、弓矢くらいなら問題なしさ」
重苦しい沈黙。果たして、本当に来るのだろうか。
しかし、ミアさんとリンジーさん、それからカーライルくんの読みが外れるとは……
そのとき、伝声管が二階の兵士の声を伝えた。応じるように、ミアさんが叫ぶ。
「来たぞ! 合図するまで動かないでくれ!」
まずい! 俺は普通の兵士と違って、覚悟を決めるのに時間がかかってしまう!
急げ! 妄想妄想妄想妄想妄想……
敵は馬車に矢を射かけているようで、四方八方から小さな衝突音が聞こえてくる。しかしこの馬車はVIPの護送車。鉄板で覆われた特別製。そこいらの馬車とは違うのだよ!
「私は御者と馬を守ればいいかな?」
「頼む!」
おお。リンジーさん、さすがの状況判断だな。
「ドラウプニル様! 私とタラキ様は出ます!」
「分かった! 気を付けろ!」
カーライルくんもさすがだ。二階へ指示を出しているミアさんの手を煩わせないよう、最小限の確認だけで次の行動に移った。優秀な人ってこれができるんだよなあ。
「タラキ様! 参りましょう!」
「オッケー!」
よし! こっちも妄想完了! じゃなくて準備完了!
俺たちが馬車から出てくるのと同時に、二階から一人の兵士が飛び降りてきた。
凄いな。けっこう高いぞこれ。
「カーライル! 敵はオーク、約三十だ! この前のデカブツもいるぞ!」
は? この前のデカブツ? それって……アレのことだよな?
って、うわっ! あいつ、ボスオークじゃん!
何で? 確かに背骨へし折ったのに!
「回復魔法を使う敵がいるということですね」
「え? 魔物も魔法を使うの?」
「はい。ごく稀にですが」
くそう。そうと分かっていれば、ダメ押しの一撃を放っていたのに……
そういえばラムダさんにも言われてたな。多良木は詰めが甘いって。ちゃんと反省しないと、また繰り返してしまうことになりそうだ。
「タラキ様。私たち二人は馬車後方の雑魚を処理します」
「じゃあ、俺が前のデカブツ担当でいいのかな?」
「申し訳ありません。タラキ様に危険な役回りを――」
「気にしない気にしない。もうオイタできないよう、次はきっちり仕留めるよ」
俺は一直線に、ボスオークの前に駆け出した。
そう。可哀相なんて言ってられない。こいつは体が治るたびに、人間に、俺たちに危害を加えようとするんだから。
しかし……うーん。やはりデカい。しかも、今回はかなり警戒しているな。俺のことを、ナリは小さくとも油断はできない……蜂みたいな奴だとでも思っているんだろう。
(けどな)
お前如きに手こずってるようじゃ、魔王を倒すなんて夢のまた夢なんだよ!
足下への警戒が強く、この前のような股抜きはできそうにない。俺はゆらりと接近し、ボスオークの斧の間合いに入る直前、急加速して左右のジャブを叩き込んだ。
よし。予想通り、まったく反応できていない。スピードでは圧倒的にこっちが上だ。
しかし、あの分厚い筋肉の鎧は、ジャブでは貫けそうにない。これだけ上背があれば、頭部への攻撃も容易ではない。ならばどう攻めるのが正解か。
決めた。まずは撹乱して、足元の守りを解除する。それから――
「タラキ!」
ん? この声はミアさん? 馬車から降りて――
って、痛っだあああぁっ!!
何だ?何かが俺の頭に――
見えなかった。気配も感じなかった。これってもしかして……魔法?




