(第049話)多良木は戦争に行った
俺、昔から戦争映画が好きなんです。元社会科教師ですから。
反戦モノも嫌いじゃないけど、やっぱ男ならあれですよ。元グリーンベレーのワンマンアーミーが大活躍するアレ。ブルーレイボックスも買っちゃったしね。
けど、決して戦争に行きたかった訳ではなく、それどころか、自分が戦争に行くことになるなんて想像もしてなかったわけで……何というか、複雑な気分です。
それはひとまず置いといて、今回の作戦はこう。
ガスパールの守備隊二千人を町の前に配置。オーク軍およそ三千匹を迎え撃つ。
数のうえでは不利だが、練度の高い兵士のみで構成された精鋭部隊であるらしく、戦力的には負けてないらしい。
つまり、ミルズくんの兄弟子のような雑魚はこの中に入ってないということだ。
実はこの二千人は囮で、攻撃するのは後方に配置した弓部隊と魔法部隊のみ。前方の歩兵部隊は守りに専念し、攻撃は精鋭中の精鋭六人プラス俺による遊撃隊に任せる。
ちなみにミルズくんは回復術師だから部隊中央。軍隊の基本らしい。
この作戦の肝は俺だ。オークどもは俺のことを知らない。もしかしたらラルゴが何かしら伝えてるかもしれないけど、どっちみち一般の兵士は知らない。このことを最大限に利用する。
つまり、『どこからともなくやって来た正体不明のピチピチ血塗れ服の男が丸腰で暴れまわってたらそりゃ統制とれなくなるよね作戦』だ。
「一番隊のカーライルと申します! タラキ様! どうぞお乗りください!」
で、馬に乗ったことがない俺は、遊撃隊の一人である彼、カーライルくんの後ろに乗せてもらうことになったわけだ。まだ若いが、馬の扱いに関してはガスパール守備隊でナンバーワンの腕前らしい。
「タ……タラキです。今日はよろしくお願いします」
カーライルくんは文句のつけようがないイケメンで、そして俺はイケメンが苦手だ。嫌いではなく苦手。中学生だった頃に、クラスの一軍男子たちにイジメられてた日々を思い出してしまうからだ。
一番辛かったのは体育の授業のサッカー。味方チームの奴まで俺のボールを奪いにくるってどういうことだよ。味方いねえじゃん。
「私に敬語など不要です! タラキ様と共に戦場を駆けること、我が生涯最高の栄誉といたします!」
うう。なんて爽やかな。
こんなにイケメンで、ガスパール守備隊の精鋭。おまけに性格までいいときてる。いいな。さぞかしモテるんだろうな。
「あの……タラキ様?」
「えっ? あ! ごめんごめん! じゃ、張り切って行こう!」
カーライルくんの後ろに飛び乗り、言われた通り腰に腕を回す。
君の容姿と能力、性格をもってすれば女の子乗せ放題なんだろうけど、今日だけは筋肉ダルマが相手を務めます。ごめんね。
それから、遊撃隊の六騎が歩兵隊の端に集合。
三騎ずつ前列、後列に分かれ、カーライルくんと俺は後列中央を進む。もちろん、この位置が最も安全だからだ。
「あれがオーク……」
定位置について、遠くに見える敵軍を望む。
初めて見るファンタジー世界の怪物が、こんな大集団になるとは。
「以前のオークは、どちらかというと大人しい性質の魔物でした。それが徒党を組んで人間を襲うようになるなど、誰も予想できなかったと思います」
俺の呟きに答えるように、カーライルくんが説明してくれた。やはりリザベルさんが言った通り、魔王とやらが現れるまでは、この世界は平和そのものだったんだろう。
しかしあの肌の色。黄色というか緑色というか。
獣や虫の姿をしてるなら何とも思わないんだろうけど、人型だとキツいな。どうしてもロイを思い出してしまう。
両軍合わせておよそ一万の目が睨み合う。
不気味なほどの静けさの中、女上司……もとい、ミアさんの声が響き渡った。
「動くのは奴らの接近が始まってからだ! 抜かるなよ!」
指示の意図はよく分からないが、たぶんミアさんが幼少期から学んできた兵法みたいなものなんだろう。強くて美人で人を使うのも上手いって、ほんと理想の女上司だな。
しばらくすると、オークの集団が前進を始めた。特に変わった動きはせず、ただ真っ直ぐに。やはり、知能の面では人間よりもだいぶ劣るみたいだ。
オーク軍の動きに合わせるように、女上司が号令をかける。
「弓矢用意!」
おお。日本の長弓みたいだ。数えきれないほどの矢が放物線を描いて、雨のようにオークの群れに降り注いでいく。さすが精鋭部隊。明後日の方向に飛んでいく矢が一本もない。
「次! 魔法用意!」
来た来た。戦争映画じゃ見れないやつだ。
さっきの弓矢とは違い、魔法弾みたいなのが直線状に飛んでいく。群れのところどころに火の手が上がっているところから察するに、ほとんどが火属性の魔法みたいだ。
「歩兵! 前進後に防衛陣!」
「タラキ様! 参ります! 舌を噛みますので、極力話さないでください!」
「オッケー!」
打ち合わせ通り、遊撃隊はミアさんが歩兵部隊へ指示を出すと同時に動き始めた。
ここから先は指示が届かないので、後はすべて現場の判断に委ねられる。
だからこそ、精鋭中の精鋭であるこの六人が選ばれたのだ。
しばらくして、人間と怪物の雄叫びが混じり合った声が聞こえてきた。オークの群れと最前列の歩兵部隊が衝突したようだ。ミルズくん。どうか無事で。
「スピードを上げます!」
「オッケー!」
歩兵が交戦状態に入ると、指示の伝達が悪くなる。衝突直後はそれが特に顕著だ。
この隙にできるだけ距離を稼ぐ。目的地は総大将まで距離三百メートルの地点。スピードを上げた俺たち六騎は、風のように敵部隊の横を駆け抜けていった。
オークの中には、遊撃隊の存在に気付いた者もいるようだが、このスピードで通り過ぎていく集団を止めることなど誰にもできない。
ところでこの六人、馬の扱いがマジで上手い。まるで自分の手足のように馬を操っている。中でもカーライルくんは頭一つ抜けているようで、一人だけ俺のような重いマッチョを後ろに乗せているというのに、他の五人と遜色ない動きができている。さすがガスパールの守備隊ナンバーワンといったところか。
あっという間にオーク部隊の後方に迫ってきた。
さて、敵軍の総大将はどこに……




