(第046話)異名の由来
俺が構えるのと同時に、ミア・ドラウプニルは腰の剣を抜いた。
キャリアウーマンっぽい見た目によく似合う、細身の長剣。
くそう。ちょっとカッコいいと思ってしまったじゃないか。
切っ先を俺に向けて、まっすぐに立つ。狙いは正中線への突きか。
けど、ラムダさんの連撃を毎日受けてきた俺に言わせれば、そんなものは一直線に向かってくるだけの、単調な攻撃に過ぎない……
って、あれ?
「どうした? 終わらせるんじゃなかったのか?」
ちょっと待て。おかしい。
4分の1の戦闘力しかない筈なのに、なぜこんなに威圧感があるんだ?
見た目が女上司っぽいからって、そんなことが――
「来ないのなら……こっちから行くぞ!」
ミアは一瞬で間合いを詰め、突きを繰り出してきた。
まるでフェンシングのような動き。左右に躱せるようなスピードではない。
バックステップで距離をとるのが精一杯だ。
「そら! 休んでる暇はないぞ!」
連続で突きを繰り出してくる。俺は為すすべなく、後退。
まずい。剣を持っている分、ミアの方が攻撃範囲が広いことは予測していたが、それ以外に警戒するポイントはないと思っていた。
「くそっ!」
というか、何でこんなに速いんだ? これじゃ懐に飛び込めない。
戦闘力では俺が圧倒しているというのに、これじゃ防戦一方じゃないか。
このままだと壁に押し込まれる。俺はフットワークを使い、大きく円を描いて壁から離れた。
「手加減してくれてるのかい? これはまた随分と優しい魔王様だな」
戦闘力測定装置が故障しているのか? それとも、あの漫画の登場人物と同じように、戦闘力をコントロールできるタイプなのか?
「4人目の魔王よ。教えてやる。八英雄のうち、アタシを含めた3人は剣を使って戦う……まあ、近接戦の専門家ってやつだな」
う……何か語り始めたぞ。
そういや俺、八英雄について全然知らないな。
この戦いが終わったらミルズくんに聞いてみよう。
『もう説明しましたよ』って言われるかもしれないけど。
「で、この3人は一緒に修行に励んでいたわけだが……アタシは模擬戦の前に必ず1杯飲んでいた。なぜだと思う?」
「アル中だから?」
ミアは大声で笑った。
「素面じゃやってらんないのさ。馬鹿馬鹿しくてね」
「馬鹿馬鹿しい?」
つまり、他の2人と戦うときは、それくらいのハンデがないと楽しめなかったということ……でしょうか。
「酔いどれの女騎士……それがこの異名の由来なのさ」
そうか。そういうことだったのか。
それは……何て分かりにくい由来なんだ!
「けど、心配しなくていい。今は素面だよ」
心配なんかしてないし。むしろ飲めよ。1杯といわず、2杯でも3杯でも。
何にせよ、楽勝路線はもう完全に消えてしまっている。
勝つために何をすべきか、落ち着いて考えなくては。
「どうやら、終わらせるのはアタシの仕事みたいだ……ね!」
ミアが再び近付き、突きを放ってきた。スピードはラムダさんに劣るが、このリーチが厄介だ。
やはりバックステップで距離をとるしか……
(距離をとる《《しかない》》……?)
違う。それは思い込みだ。ミアの突きがラムダさんの変幻自在の連撃よりも避けにくいなんて、そんな馬鹿なことがある筈がない。俺は刃物に対する恐怖心から、冷静さを欠いていたんだ。
けど、気付いたからといってどうすることもできない。
恐怖心は自分自身を守るための本能だからだ。
本能とはつまり、脳が下す命令。それを制御する技術など――
(あるんだなコレが!)
戦いの真っ最中でも関係ない。気を抜けば体を刺し貫かれるような状況でも関係ない。今回は怒られずに使えるしね!
それに俺は、リザベルさんのロボ声から新たな着想を得ている! 一昔前のエロゲでは定番中の定番だった――リザベルさん(メイドロボver.)だ!
(マ、マスター。私はそのようなことをするためニ、この家に来たわけでハ……)
(お……お止めくださイ。そんなとこを触られてハ、お掃除ができませン……)
(不思議な感覚でス。マスターの動きに合わせテ、体が反応してしまいまス……)
おお。思った通りだ。
おっちょこちょいのリザベルさんとメイドロボ……相性バツグンじゃないか!
「どうした! もう壁際だぞ!」
だから何だ。俺は逃げてるんじゃなくて、観察してるんだよ。
もうバレてるぜ。正中線ばかりを狙ってる理由……突きではそこしか致命傷を与えられないからだろ?
恐怖を感じないから、勝つために最善の策をとることができる。
痛みを感じないから、自分の体を物のように扱うことができる。
俺はミアの動きに合わせて前に出ると、突きをあえて右肩で受け、動きを封じた。
「き……貴様!」
「終わりだ!」
ここからの左ジャブは避けられない。ちょっと気は引けるが、顔面に――
「アンタがね!」
ミアが叫んだ瞬間、全身に衝撃が走り、俺は膝をついた。体が動かない。
これ……痺れてしまっているんだ。
「甘いね。アタシが自分の戦法の穴に気付いてないとでも思ったかい?」
な、なるほど……突きは攻撃範囲が広く隙も小さいが、僅かでも狙いが逸れれば、それは単調で読まれやすい攻撃でしかない。
「既に対策済みってわけさ」
動く的が相手なら、避けられることを考慮しておかなければならないということか。
まずい。痛みは妄想リカバリが何とかしてくれるが、痺れはどうすることもできない。ミア・ドラウプニル……この女、戦いが上手い!
「ま、まさか……酔いどれの女騎士が、魔法を……?」
魔法? 今のが魔法なのか?
「おや。気付いたかい。少年、なかなか賢しいな」
「今のって、雷系統の……電撃波ですよね?」
雷? ショックウェイブ?
何か、いかにもって感じだ。いかにも麻痺を与えそうな感じ。
「ご名答。アタシが使える唯一の魔法さ」
「け、けど! ミアさんが魔法を使えるなんて――」
「バラしてしまったら奥の手にならないだろう?」
確かに。知っていればもっと警戒していた筈だ。
「とはいえ、本職ほど上手くはできなくてね。自分まで痺れさせてしまうのが玉に瑕なんだよ」
そうか。それで止めを刺しにこないわけだ。
ならば条件は五分。まだ勝負の行方は分からない……
「それでも、アンタよりは早く回復するけどね」
ですよね。
俺が一言も発せない中、ミルズくんと楽しそうに無駄話してますもんね。
…………
………………
……………………
まずいまずいまずいまずいまずい! このままだと首を落とされてしまう!
ミルズくん! 聞いての通り、酔いどれさんは動けないんだ! 今ならミルズくんの腕でもやれる! 八英雄を倒して名を上げるチャンス……
って、あれ? 腰抜けラルゴ? お前、何やって……
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