(第045話)戦闘力を測ってみよう
腰抜けラルゴに案内されたのは、この建物、ガスパールの町の守備隊の本拠地1階にある応接室。俺とミルズくんは、そこで振る舞われた食事を腹一杯になるまで詰め込むと、ソファの上で仮眠をとることにした。
入浴は……いいかな。どうせあと1時間くらいで汚れるイベントが始まるんだし。
それにしても……何か俺、以前より気が短くなってない? というより、強気になったという方が近いか。
日本にいた頃、理不尽な扱いを受けることなんかそれこそ日常茶飯事だったが、かといって1度も抵抗したことはなく、それどころか抵抗しようと考えたことすらなかった。強くなったことが、性格にも影響を与えているんだろうか。
「タラキさん。お休みのところすいませんが、1つ質問させてもらえますか?」
「ん? ああ、どうぞ」
ところでミルズくん……何で俺についてきたんだろう? あのままミア・ドラウプニルに事情を話して、守備隊に入れてもらうこともできた筈なのに。
「タラキさんって、その……何者なんですか?」
「4人目の魔王だよ」
「冗談ですよね?」
「ミルズくんはどう思う?」
「僕は……タラキさんは優しい人だと思います」
「八英雄の1人にあんな口を利いたのに?」
今更ながら、何か申し訳ない。
あのとき、自分のことを優良物件だなどと言っておきながら、やってることはガキみたいなお偉いさんへの反抗。優良どころか、とんだ事故物件だったよ。
「正直にいうと、タラキさんが怒ったのは当然だと思います。一方の言い分だけを聞いて、こちらには弁明の機会を与えずに問答無用で拘束するなんて、法治国家に生きる者としてあるまじきことです。国家司法局に報告すれば、すぐにでも調査団が派遣される事例ですよ」
え……? ミルズくん?
君は確か、18歳になったばかりで――
「な……何か難しい言葉を知ってるね」
「勉強したんですよ。父が国家司法局に勤めてますから」
「そうなんだ。そりゃ詳しくなるよね」
なるほど。ミルズくんは年齢相応に頼りない部分もあるが、もともとは法律家の卵。俺の肩を持ったというわけではなく、法律家目線でこの件を見ていたということか。
「もう一度聞きます。タラキさん……本当は何者なんですか?」
うーん。どうしよう。話したところで信じてもらえないだろうけど、ここまでついてきてくれたんだから、もう後は一蓮托生だよなぁ。
「ミルズくん。信じられないかもしれないけど、君にだけは本当のことを話すよ」
時間はたっぷりある。俺はできるだけ詳細に、2年前に滑落事故で死んでから起こったことを話した。
好奇心旺盛なミルズくんは拳を握り締めながら聞いてくれたが、やっぱり信じられないというか、半信半疑のようだ。
「え、えーっと、その……何て言えばいいのか……」
「分かるよ。けど、今の話が嘘じゃないって証明するものを持ってるんだ」
俺はポケットから、掌に収まるサイズの丸っこい機械を取り出した。
「え? これ……何ですか?」
「戦闘力測定装置。機能は名前と同じだよ。この世界に、こんなものは他にないでしょう?」
一昨日はロボベルさんに話しかけられて、こいつの使用を中断していた。ちょうどいい機会だし、戦闘力の計測をしておこう。
俺は説明書を読みながら、使用方法を確認……って、ストップウォッチとほぼ同じじゃないか。
よし。とりあえずミルズくんでお試し。中央の突起を対象者に向けて、右のボタンを押す、と。めちゃくちゃ簡単だ。
「えーっと……これか。おお……」
「どうでした?」
中央の窓部分に数字が出てきた。ほんとストップウォッチだな。
「ミルズくんの戦闘力は170。俺が以前戦った奴より上だよ。真面目に修行してたみたいだね」
「ホントですか! 頑張ってよかった!」
うん。この初々しい反応。2年前の俺を思いだすなあ。
「じゃあ、次は俺を――」
「うう……凄く楽しみです。どれくらいになるんでしょうか?」
「ちょっと待って。えーっと……えっ? あれっ?」
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「来たか。4人目の魔王」
再びやって来た腰抜けラルゴに案内され、俺とミルズくんは地下の修練場とやらにやって来た。ミア・ドラウプニルは既に部屋の中央に鎮座し、俺たちを待ち構えている。
「うちの食事はどうだったかな?」
「まあまあ美味しかったですよ」
「なるほど。最後の晩餐というには少し物足りなかったというわけだ」
「ご心配なく。まだまだ長生きしますんで」
「タラキさん……分かりましたよ」
そのとき、ミルズくんがひそひそ声で俺に話し掛けてきた。戦闘力測定装置を見せたのは、話を信じてもらうためだけじゃない。ミアの注意が俺に向いている間に、密かに計測してもらうという目的があったのだ。
「2760です」
何だ。予想通り大したことないな。
「それじゃミアさん、とっとと終わらせましょう」
「始めよう、ではないのか?」
「いや。こっちで合ってます」
最後の稽古のとき、俺がラムダさんに勝てたのは偶然、というよりほとんど奇跡だった。あのときのラムダさんは10パーセントの力で戦っていたわけだから、その戦闘力はおよそ1万6000。
あれだけ一方的にやられてたんだから、さぞ大きな差があったのだろうと思っていたが、実際には1.5倍もなかった。
そう。この戦闘力という数値はかなり厳密なもので、ちょっとでも差があれば、逆転することはもの凄く難しくなるのだ。少年漫画みたいに2倍、3倍の実力差を跳ね返すなんてことは、基本的にあり得ないと思っていいだろう。
では、傲慢な女、ミア・ドラウプニルよ。結論を言ってやろう。
八英雄だか何だか知らないが、4分の1程度じゃ勝負にならないんだよ!




