(第039話)いきなり餓死しそうなんですが
体が大きいほどカロリーの消費量も大きくなる。当たり前だ。俺は自分のマッチョっぷりに惚れ惚れとしてて、そんな当然のことすら気付かなかった。
しかし、食料を手に入れろと言われても、ここは見渡す限りのだだっ広い草原だ。牛や羊ならご馳走の山に囲まれてるような状態なんだろうが、人間の俺にはただの草にしか見えない。
「ち、近くに……人が住んでいる場所はないですか?」
とにかく人だ。人がいる場所に行かないと。
(サガシマス! エット……アリマス! ケッコウチカイデス!)
「ど、どこですか?」
(マズ、ナンセイガドッチカワカリマスカ?)
ナンセイ……ああ。南西ね。
やばい! カロリーの消費を抑えないといけないのに、ロボベルさんの話を理解するのにエネルギーを使ってしまう!
「わ……分かりません」
(エット……トオクニタカイヤマガアルホウコウデス)
タカイヤマ……高い山か。ああ、あれだな。
「分かりました」
(ソッチノホウコウニムカッテ、ジュウニキロメートルホドススムトチイサナシュウラクガアリマス)
ジュウニキロメートル……12キロメートル?
「と……遠いです」
(エッ? ソンナニセッパツマッテマスカ?)
セッパツマッテ……? セッパツ待って?
違う。切羽詰まってか。ああもう。ややこしい。
「かなりやばいです……体が震えてます」
(アア! ドウシマショウ!)
ていうか、何で町スタートじゃないんだ?
いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない。考えるだけでもエネルギーを使ってしまうんだから。
「とにかく、行ってみます……」
(ガンバッテクダサイ! センリノミチモイッポカラデスヨ!)
千里の道も一歩から、か。確かにその通りだ。
途中で倒れる可能性が高いけどね。
何てことだ。2年間も必死に修行して、この星で(たぶん)最強の力を持っているというのに、到着後すぐに餓死することになるとは。
(タ、タラキサン! コウウンノメガミハ、ドウヤラタラキサンヲミハナシテハイナイヨウデス!)
コウウンノメガミ……幸運の女神?
「どういうことですか?」
(ヒトガイマス! ウマヲツレタシュウダンデス!)
「馬を連れた集団? 遊牧民みたいな?」
(タブンチガイマス! ブソウシテマスネ!)
武装した集団か。なるほど。
(ソイツラヲブチノメシテ、ショクリョウヲゴウダツスルンデス!)
よし。そいつらをぶちのめして、食料を強奪する――
「って、駄目ですよ! そんなことしたら!」
(タラキサン。ソコハシュラノクニデス。アマイコトヲイッテタライキノコレナイカモシレマセンヨ)
「修羅の国ってなんですか! 地球よりもイージーな世界だって言ってたじゃないですか!」
(ソウイエバソウデシタネ。テヘッ☆)
くそう。ロボ声で『てへっ☆』なんて言われても、ちっとも可愛くない。
「とにかく、その武装した集団とやらに接触してみます。ここから近いですか?」
(ハイ。イチテンゴキロメートルクライ、ヒガシノホウコウデスネ)
1.5キロメートル、東。なるほど。それくらいなら頑張れそうだ。
よし。千里の道も一歩からだ。心を無にして、ただひたすら足を前に動かす。
俺は最強の男。このくらい何てことはなく――
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到着。ようやく武装集団のもとに到着。もう餓死寸前。
どうかいい人であってくれ。この哀れな転移者に食料を分けてくれ。
「何だぁ? テメェ、どこの者だよ?」
第一声がこれ。はい。いい人の線は消えましたね。
「おかしな格好しやがって。見せ物小屋から逃げ出してきたかぁ?」
うう。めちゃくちゃ人相悪い。
けど、とりあえず言葉は通じる。それなら交渉の余地はあるってことだ。
「お、俺は多良木伸彦といいます。長い間何も食べておらず、餓死寸前です。どうか食料を分けてもらえませんか?」
武装集団は……6人か。
頼む。どうか慈悲を――
「ふざけんなよ。それが何も食ってない奴の体かぁ?」
ち、違うんだ。体型は関係ない。
ボディビルダーが低血糖で命を落とすことがあるように、マッチョだから健康そのものってわけじゃないんだよ。
「ま、待ってください。この人、顔が青白いし、ガタガタ震えてますよ。嘘だと決めつけるのは――」
おお! いた! いい人!
人相悪くないのが1人だけ混じってるなって思ってたんだよ!
「うるせえ! 嘘だろうがホントだろうが、恵んでやるつもりなんかこれっぽっちもねえんだよ!」
「す、すみません……」
あ。やっぱり下っ端でしたか。
いい人ってだいたいそうですもんね。
(タラキサン! ブチノメシテヤリマショウ!)
うわ。ロボベルさんの声が。
(アンシンシテクダサイ! ワタシノコエハタラキサンニシカキコエマセン!)
け、けど、もう立ってるのがやっとで――
(ナニイッテルンデスカ。タラキサンニハアレガアルデショウ?)
あ……アレって何?
(ドンナギャッキョウカラデモギャクテンヲカノウニスル、ラムダサンジキデンノヒッサツワザ……)
う……何て言ってるんだ?
ラムダさん……直伝……必殺技……
「聞こえたか? 俺たちはテメェに食料を分けてやるつもりはねえ。餓死しそうだってんなら、そのままこの草原の肥料になりな」
リーダーっぽい男が冷たく言い放つと、俺を庇ってくれた青年を除いた4人がドッと笑った。
(クソドモガ……ゼンゼンオモシロクネエンダヨ!)
「そうですね。俺もそう思います」
(タラキサン……ヤッテクダサイ!)
「はい。ラムダさん直伝の……アレの出番ですね!」




