(第038話)やってきました異世界へ
おお。
おお。
おお。
ここが……異世界。
うむ。思ったより普通。というか、何もない。
いや。何もないという言い方はおかしい。
空がある。大地がある。草がある。ところどころに木も。
ただ、それだけ。360度どこを見回しても一面の草原。町もなければ人もいない。
空気は……悪くないな。だいぶ乾燥してるような感じがするけど、大陸か?
温度は暑くもなく寒くもなく……あ、でも風が吹くとちょっと肌寒い。
服は……着てる。白い部屋にいたときと同じ、上下同色の長袖Tシャツと八分丈パンツ。未来から来た殺人マシーンのようにすっぽんぽんで登場するのかと思っていたから、まったく、拍子抜けもいいとこ……ではなく、よかったよかった。
あれ? 服がパツパツだ。部屋にいたときは割とゆったりしてたのに。転移のときに縮んだのか?
いや……違う。ちょっと待て。これって、もしかして……
俺、マッチョになってない?
そうだ! 服が縮んだのではない! 俺がデカくなったんだ!
か……感動だっ!
俺は遂に! 長年のコンプレックスだった! モヤシ体型から! 解放されたぞォ!
うわっ……私の二の腕、太すぎ……?
やだなにこの腹筋……超カッコいい。
このまま一気にモテ曲線に乗る! もう誰も俺を止めることは――
ん? ポケットに何か入ってる。
これは……説明書?
それとこの丸っこい機械。何だか見覚えがある。これ……戦闘力測定装置?
うおおおっ! これは超お役立ちアイテムだ!
宇宙最強の女戦士(の10パーセント)と互角に近い(かどうかは怪しい)戦いを演じたこの俺が、(うっかり者のリザベルさんの話では)地球より生き抜くのがイージーだというこの星の住人やモンスター如きに負けるとは思えないが、やはり無いよりはあった方がいい。
うん。別にビビッてるわけじゃないけど、無いよりはあった方がいい。
とりあえず俺の戦闘力から測定してみよう。
皇帝と戦ったときが1270。これで人類最強レベルだった。
あのときとは比較にならないほど強くなってるということは間違いないが、数字として表すとどうなるんだろう?
とりあえず説明書……よかった。日本語だ。これがもしコルネリア語とかだったら絶対可愛い……じゃなくて、絶対読めないからな。
(タラキサーン!)
え……? 何?
(タラキサーン、キコエマスカー?)
な、何だ? ラジオ放送みたいな声が聞こえてくる。
(タラキサーン! キコエテタラヘンジシテクダサーイ!)
うう。怖い。返事をした方がいいのだろうか。
ていうか、何で俺の名前を知ってるんだ? それに、どこから聞こえてくるんだよ?
(コエガヘンナノカナー? サスガハベツウチュウデスネー)
ん?
(アア! ワタシガナノレバイインダ!)
これって、もしかして……
(リザベルデスヨー! キコエマスカー?)
「リ……リザベルさん!」
(タラキサン! ヨカッタ! ブジダッタンデスネ?)
「もう会えなかったんじゃ――」
(シバラクサポートシマス! マカセテクダサイ!)
「サポート! それはありがたいです!」
(フフフ……ショウジキデイイデスネー)
「ところで、どうしてそんなロボットみたいな声なんですか?」
(エエッ? ワタシノコエ、ロボットミタイナンデスカー? ナンカヤダナー)
まずい! 無口になられたら困る!
「け、けど大丈夫です! 少しずつ元の声に戻ってきてますから!」
(ナライインデスガ。ベツウチュウハムズカシインデスヨー)
ベツウチュウ? 別宇宙……なのか?
「ところで、別宇宙って何ですか?」
(ソレハデスネー、タラキサンガスンデイタチキュウセイガアルウチュウトハマタベツノウチュウデ、ホンライナラゼッタイニイケナイバショデス。ソモソモウチュウトハヒトツデハナク、シカシベツノウチュウノソンザイヲ――)
ああもう。ロボ声のせいで何言ってるのかまったく分からない。
「分かりました。とりあえず、もう地球に戻ることはできないってわけですね?」
(ソウデスネ。ウチュウヲトビコエルコトハデキマセン)
「そ、それと! 俺の体、変化が起こってて!」
(ヘンカ? ドンナヘンカデスカ?)
「それが……なんと! マッチョになってたんです!」
(マッチョ?)
「そうです! 長年のコンプレックスだったモヤシ体型からついに脱却を――」
(カオハタラキサンノママデ?)
「顔は……どうでしょう。鏡がないから分からないです」
(フフフ……ゴウセイシャシンミタイニナッテルカモシレマセンネー)
「な……何言ってるんですか! リザベルさんも絶対こっちの方がいいって言いますよ! 腕なんかホラ、まるでハリウッド俳優のように――」
(ア、デモ、チョットマズイカモシレマセン)
「な、何か問題があるんですか?」
(エット……カラダガオオキクナッテルンデスヨネ?)
「はい。2倍とまでは言いませんが、少なく見積もっても1.5倍には――」
「カロリーノショウヒガハゲシクナッチャウンデスヨー」
カロリーの消費?
(オナカヘッテマセンカ?)
「え? あ、いや。いろんなことがあり過ぎて、あまり意識してませんでしたが」
そういえば、なんか……うぅっ!
(タラキサン!)
「だ、大丈夫です。ちょっと眩暈がしただけで……」
いや。違う。これはたぶん……低血糖症状だ!
大学のときに1度あった。真弓先輩に勧められた、幸せになるための壺を購入するべく、昼夜を問わずバイトに励んでいたとき。急な眩暈と寒気、倦怠感に襲われ、意識を失って倒れたんだ。
(ト、トニカクショクリョウニナルモノヲサガシマショウ!)
そんなこと言われても、見渡す限り一面の草原なんですが……




