(第037話)リザベルさんの一人称でお送りします(1)
多良木さんがこの部屋を出てから、もう五分くらいは経過したかしら?
そろそろラムダさんを起こさないと。
「無事に終わったかの」
「あ、すいません。ちょうど今起こそうかと思ってたところで」
「構わん。どうせ寝てはおらんのじゃ」
まあ、それは知ってましたけど。
「しかし、話すなら今がよいかの」
「もう多良木さんはいませんし、コルネリア語でいいですよ」
「今はこの日本語というものが気に入っておるのじゃ。わらわのキャラに合っとるようじゃしの」
気に入ってたんですか。確かに、のじゃロリ語はロリババアのために開発されたようなものですからね。これ以上ないくらい合ってますよ。
……っと、そんなことより、話を進めましょうか。
「ラムダさん。以前から聞こうと思ってたんですが、あの世で貴女に日本語を教えたのは誰ですか?」
「はて? 誰じゃったかのう?」
なるほど。とりあえず、初手はとぼけてみるわけですか。
けど、この私……名探偵リザベルの手にかかれば!
「無駄ですよ。亡者の監督官……そんなに数は多くないですからね」
ふふふ……まだまだ終わりじゃありませんよ!
「それに、そのちょっとおかしな日本語。教えた者の趣味がダダ漏れしてますから」
「……その口ぶりじゃと、もう検討はつけておるようじゃな」
否定しない。ということは、やっぱりアイツか。
「ラムダさん。貴女……ハニトラを仕掛けましたね」
「なかなか鋭いのう。その通りじゃ。わらわの性技は房中術としても使えるでの」
地獄の総監督官……噂通りのロリコンジジイですね。あの世で亡者と私的な関係を持つなんて、規約違反も甚だしい。この人の生前の行いを考えれば、何か企みがあって近付いてきたってことくらい、分かりそうなものなのに。
「まあ、そのことについてとやかく言うつもりはありません。あの世の規約など、私には関係ないことですからね」
「ならば、別のことが気になっておるようじゃな」
あ。やばい。この流れ……
「お主の心配事……当ててみせようか?」
いつの間にか攻守が入れ替わってる。
「悪魔とやらについて、わらわがどれほど知っているか……お主が知りたいのはそこじゃろう?」
流石は1500歳。見た目は少女でも、中身は老獪ですね。
「どういうことですか?」
決めた。とりあえず、初手はとぼける。やっぱりこれが定番――
「とぼけるでないぞ。わらわが日本語を話せると知ったとき、お主、焦っておったじゃろ?」
「そんなの、焦るに決まってますよ。多良木さんも目が点になってましたし」
あ。笑ってる。
この見た目で笑われると、なんか腹立つ。子供に馬鹿にされてるみたいで。
「日本語はわらわの方が得意のようじゃな。多良木は純粋に驚いておったが、お主は違う。先ほど言った通り、焦っておった」
う……ガンガン圧をかけてきますね。
「では何故、多良木とお主とでは反応が違ったか……それは、お主が知っているからじゃ。戦士など、わらわの本質ではないということをの」
……完敗です。腹を割って話すしかないですね。
しかし、いくら多良木さんがいなくなったとはいえ、まさか自分から本質の話題に触れてくるなんて。
「分かりました。では伺います。私が知りたいのは二つ。ラムダさん。貴女が悪魔に関することをどれだけ知っているのか。それと、そのことを多良木さんに話していないか、ということです」
「ふふ……最初からそう言えばよかったのう」
ええ。敗北感を味わう前に、そうすべきでした。
「まず一つ目からじゃ。わらわは好奇心旺盛でな。お主らが悪魔と呼ぶ生物について知りたくなった。そこでもう一度、あのジジイの寝室に忍び込んでの。洗いざらい吐かせたというわけじゃ」
「つまり、ほぼ全部知っている……と受け取っていいでしょうか?」
「お主らと同等の知識があると思ってよいわ」
ああもう。だからエロジジイって嫌い。
この人がどれほど危険な存在か、知ってる筈なのに。
「二つ目じゃな。お主としてはこっちの方が気になるところじゃろうが……安心せい。多良木には何も話しておらぬ」
そう……でしたか。
よかった。監視していた甲斐があったというものです。
「しかしの。わらわが思うに、多良木は今回の転移そのものに不信感を持っておるぞ」
「ど……どういうことですか? まさか多良木さんから――」
「直接聞いたわけではない。拳を交わした者同士、伝わるものがあるということじゃ」
あ。また笑った。
この掌の上で転がされてる感じ……やっぱりムカつきます。
「じゃがの。愛するお主のために、考えんようにしておる」
「私のために?」
「お主を困らせたくないんじゃろう。まったく、健気な男よの」
うう。やばい。また泣いてしまいそうです。
「じゃが、多良木は愚鈍な男ではない。あやつはいずれ、この転移の真相に辿り着く。そのときお主がどうするか……見ものじゃな」
……そうか。この人、全部知ってるんだ。転移のことも、悪魔のことも、そして《《私たち》》のことも。だから多良木さんを、この部屋に閉じ込めておこうとしたんだ。
転移させないために……
「まったく、お主……わらわ以上の性悪女よの」
う……うるさい。そんなこと分かってます。
けど……私だって多良木さんに負けないくらい、多良木さんを愛してるんです。
だから私は、絶対に、どんなことをしても……
多良木さんが悪魔になることを阻止してみせますから!




