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(第034話)カッコいいって思われたくて

初めて知った絶望の()()。それは意欲の消失だった。


痛みや恐怖なら、妄想リカバリで消すことができる。だが、リザベルさん(サキュバスver.)もリザベルさん(清楚乙女ver.)も、絶望だけは消してくれない。


当たり前だ。そもそも、何もやる気が起こらないのだから。


多良木たらきよ。そう自分をめるでない」


(かろ)うじて五感だけは働いてるらしく、耳がラムダさんの声を拾った。


「お主は十分やった。後はわらわにすべてゆだねよ。ともに443年の時を越えようぞ」


昼はラムダさんに鍛えられ、夜はロリサキュバスに癒され……そんな生活も、けっこう悪くないかもしれない。


「では、もうしまいでよいな?」


もうこれ以上、頭は働いてくれそうにない。

リザベルさんを裏切ることに対して、罪の意識すら感じない。


だから……もういいです。それでいいです。

ラムダさん、これから443年、よろしくお願いし――


「た……多良木たらきさん! 聞いてもらえますか?」


ん? これ……リザベルさんの声か。


「わ、私はラムダさんみたいに……多良木たらきさんを強くしてあげることも、楽しませてあげることもできません!」


この声……泣いてるみたいだ。


「私ができることなんて……ただ、多良木たらきさんのそばで、多良木たらきさんの姿を見て、多良木たらきさんの声を聞いて、多良木たらきさんと笑い合って……」


何故なぜ、リザベルさんは泣いているんだろう。

それに、何て言ってるのかよく分からない。

もう放っておいてくれ。俺はラムダさんと、ここで443年の時をともに――


「そんな……いつも通りがいいんです」


今……いつも通り……って言ったのか

何のことだ?


いつも通り……いつも通り……いつも通り……


俺とリザベルさんにとっての()()()()()って、どんなことだろう?


いつもリザベルさんとやってたこと……

いつもリザベルさんと感じてたこと……


毎朝、前日のトレーニングの成果を報告していた。

何故なぜって、リザベルさんに頑張ってるなって思ってほしかったから。


この2年間、何のために頑張ってきたのかと問われたら、答えはこうなる。

リザベルさんにカッコいいって思ってもらうためだと。


じゃあ、今は何のために()()()()()しているのかといえば。

そりゃ、リザベルさんにカッコいいって思ってもらうために決まってるじゃないか。




これ……今この瞬間……これこそまさに、()()()()()じゃないか!


「私は多良木たらきさんに、変わってほしいとも、特別な何かになってほしいとも思いません」


そうだ。俺はハーレムを作りたいわけでも、宇宙最強になりたいわけでもない。

ただリザベルさんに、カッコいいって思われたいだけなんだ。


多良木たらきさんのそばに……いさせてください」


戦いの最中だというのに、涙が出てきた。

今までの人生で、俺にこんなことを言ってくれる人は誰もいなかった。これを天使と呼ばずして、何と呼ぶ?




全身の細胞が生まれ変わっていくのが分かる。

神経が仕事を再開し、体の隅々(すみずみ)に俺の意思を伝える。

骨が、皮膚が、筋肉が、俺の願いをかなえるために動き始める。


絶望から救ってくれるのは……ただ1人、天使だけ!

そう! リザベルさん(大天使ver.)だったんだ!


「そうですよね。リザベルさん……」


いつの間にか、自分でも気付かないうちに立ち上がっていた。


「リザベルさんが俺に……ずっと、カッコつけさせてくれたんです」


だから夢中で鍛えてたんだ。2年間ずっと。

だから楽しかったんだ。2年間ずっと。


「それ以外のことは……割とどうでもいいことなんですよ」


もう迷いはない。

俺には……天使がついてる!


「立ちおったか」

「すいません。待たせてしまって」

「気にするでない。どのみち次でしまいじゃ」


ラムダさんが先に構えた。次が本当の最後だ。


「全力じゃ! 恨むでないぞ!」

「はい!」


ラムダさんが間合いをめてきた。今までで最高のスピードで。

掌底しょうてい、拳、肘、膝、蹴り……宇宙最強がありとあらゆる技をり出してくる。半分は防御できた。半分は当たった。


けど、気にならない。

一撃でいい。一撃だけでいいんだ。


バックステップでラムダさんの手刀をかわした。この距離なら矢吹やぶきロールに繋いで……


「それは通じん!」


だからおとりに使う。

俺は右フックを打つと見せかけ、カウンターを狙うラムダさんに体をぶつけた。


もう頭が働いてくれない。何がしたいのか自分でも分からない。

ただすがりつくように、ラムダさんの腰に腕を回した。


「学んでおらんのか! それも通じん!」


分かってる。打たれてもいいんだ。()()と分かってる攻撃なら耐えられるから。

さっきと同じように、腹に寸勁すんけいの重い一撃が入ったが、ひるまず手探てさぐりで背中に回り込んだ。そのまま力任せに細い腰を締め上げる。


多良たら……! ぐぅっ!」


あのラムダさんが、初めて苦悶くもんの声をあげた。


「こ、この程度で、わらわは倒せんぞ!」


分かってます。分かってますよ。

だから、次で最後です。俺にできることは、もう他にありません。


「なっ!」


俺はラムダさんの体を抱え込み、体を大きくらすと、そのまま全力で頭から床に叩きつけた。


これで……本当のすっからかん。


忘れてた痛みと疲労が押し寄せ、体の自由を奪っていく。

自分がどんなことをしたのか思い出せないまま、俺は意識を失った。

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