表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/57

(第032話)リザベルさんがいる朝

「ごはぁっ!」


カウンターの右が脇腹に入り、俺は倒れた。

駄目だ。矢吹やぶきロールのタイミングも完全に読まれてしまっている。


あの技はカウンターに弱いということは作中でも明記されているのだが、まさかこれほどだったとは。これじゃ動くまとじゃないか。


「今日はもうしまいかの」

「ま……待ってください」


「何じゃ。またチチさわりたいのか? すっかり貧乳ひんにゅうとりこになったものよのう」

「そうじゃないです!」


結局、あれからリザベルさん(サキュバスver.)は1度も現れず、ドルマゾーラへの攻撃に悶絶もんぜつするたび、ラムダさん(ロリサキュバスver.)のチチにお世話になっているという、言葉にすると途轍とてつもなく恥ずかしい状況が続いていた。


「では何じゃ?」

「今日が終わったら、あと1日しかないんです! もう時間が――」

()()?」


ラムダさん(ロリサキュバスver.)は凍り付くような笑顔で俺を見下ろした。


「時間ならいくらでもあるじゃろ。明日が終わればの」

「くっ……!」


「443年、わらわとともに楽しもうぞ。昼にきたえ、夜にいやされ。最高ではないか。まあ、この部屋には昼も夜もないがのう」


何も言い返せない。というより、体が動かない。

この9日間、必死になって戦った。考える、ありとあらゆる技をり出した。

けど、届かない。何一つ通用しない。

ラムダさんは強すぎる。宇宙最強は、俺の手が届くような位置にはいないんだ。


「それではリザベルや。わらわを()()()へ送り返しておくれ」


リザベルさんは無言むごんうなずき、ラムダさんを返すための呪文を小さくとなえた。


これで……残り1日。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おはようございます。新しい朝です」

「お、おはようございます」


朝だ。少し眠気が残る、何だか気持ちの悪い朝。

夜のうちに、体のあちこちに鉛でも流し込まれたかのようだ。


「730日目です。報告をお願いします」

「何もやってません……」


最後の朝。

これが、リザベルさんと一緒に過ごせる、最後の朝。


「分かりました。それでは、今日も頑張ってくだ――」

「待ってください!」


嫌だ。こんな形で終わるなんて。


「もう……どうしようもないんでしょうか?」

「……いいえ。何とでもなります」


え?

い、いや。何ともならないだろ。なんせ、相手は宇宙最強の――


「単純な話です。私がラムダさんを呼ばなければいいだけですから」

「あ……そっか」


言われてみれば、確かにその通りだ。リザベルさんが召喚しょうかんしなければ、ラムダさんはここに来ることができない。

けど……それじゃ何で、リザベルさんは毎日呼び出してたんだ?


ちかいも約束もすべて忘れて、今日から心機一転しんきいってん、異世界で新しい生活を始める。それで――」

「い、いや! そんなの――」

「いいと思いますよ。誰も多良木たらきさんをめたりしません」


そりゃ、そうかもしれないけど…… 

って、今はそんなことを考えてる場合じゃないだろ! 

俺の頭! このポンコツ! ちゃんと仕事しろ!


「ご希望なら、今すぐ異世界へ送ります。ラムダさんもスケベジジイも、もうこの部屋には呼びません。それですべてのかたがつきます」


()()が嫌だから、何とかしたいんだよ!

けど、何を言えば、思いを伝えられる? 何をすれば、この状況を打破だはできる?

もっと考えろ! 2年も一緒にいたんだぞ! 何も思いつかないなんて――


2年?


2年……2年……


「1つだけ……正直に答えてもらえますか?」

「分かりました。1つだけなら」


「リザベルさんは、この2年間……楽しかったですか?」


咄嗟とっさに思いついたこと。俺はこの2年間、とても楽しかった。

だから、リザベルさんも同じだったら嬉しいなって。

ただ、そう思っただけだ。


けどきっと、俺が期待しているような答えは返ってこない。

だって俺は――


「はい。とても」


返ってきた言葉が意外過ぎて、耳がおかしくなったのだと思った。

そんなはずない。だって俺は――


多良木たらきさんを起こしに行くのが、楽しみで仕方なかったんです」


ロリサキュバスのチチいやされてるような男を、起こしに行くのが楽しみ?


「それは……今朝もでしたよ」

「おかしいですよ!」


そんなわけあるか。

だって俺は――


我儘わがままで、自分勝手で、リザベルさんを裏切って、悲しませて……最低の人間なんです!」

「そんなことないです」


「だって、俺――」

「そんなことないです」


「い、いや! まだ何も言って――」

「そんなこと……ないんですよ」


リザベルさんは俺の手をとった。


多良木たらきさんと過ごした日々……本当に、楽しかったんです」


何も返せなかった。

俺の目に映る、リザベルさんの姿がにじんでいく。


「お、俺も……」


涙はとめどなく、どうしようもなくあふれ、俺の目からこぼれ落ちていく。


「す、凄く……楽し、くて……」


言葉が上手く出てこない。


「昔は……あ、朝なんか、大嫌い、だったのに……」


けど、最後まで言いたい。伝えたい。


「リ、リザベルさんが、いる朝、は……大好き……でした」


ようやく言い終えた。

涙は全然止まってくれない。けど、不思議と恥ずかしいとは思わなかった。


リザベルさんは何も言わず、ただじっと、俺が泣きむのを待ってくれた。


「あの……俺が泣きんだら……」

「ラムダさん……ですか?」

「はい。お願いします」


勝つためにどうすればいいかなんて、そんなの俺に分かるわけがない。


「負けないでくださいね。大好きな……多良木たらきさん」


けど、今日は……今日だけは……リザベルさんのため()()に戦いたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ