(第030話)わらわは語学が得意なのじゃ
さて、ロイとの再戦から一夜明けた今日。
前日、盛大にやらかしたリザベルさん。
その後の会話がどんなものだったかというと。
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「そ……そうでしたか。そういうことだったんですね」
「リザベルさん?」
「多良木さん……私、もう分かっちゃいました」
「落ち着いて! リザベルさん!」
「もっと早く気付くべきだったんです。私みたいな貧乳女を、多良木さんが毎回妄想に使ってる理由……」
「そんな! 自分で言うなんて!」
「私……多良木さんが想像した通りの、ふしだらな女だったみたいですね」
「違います! リザベルさんはふしだらなんかじゃ……」
「ふふふ。これじゃ私も、スケベジジイと同類です……」
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んなわけないだろ! うっかり、勘違い、おっちょこちょいのどれかだよ!
いつものことじゃないか!
しかし俺が、リザベルさん(サキュバスver.)を妄想リカバリに頻繁に登場させていたことは紛れもない事実だ。そして、そのことが彼女を追い詰めてしまった原因の1つだということも。
あれからリザベルさんとは、事務的な会話を2、3度交わしただけ。怒ってるわけではないと思うが、確証が持てない。こういうのって苦しい。
「リザベルさん。ちょっとお願いがあります」
「え? あ、はい。何でしょう?」
けど、話さないといけない。ロイとの再戦を、終了10日前に設定した理由。
「ラムダさんに伝えて欲しいことがあるんです」
「……何ですか?」
う……怖い。次の台詞を口にしたら、リザベルさんはどんな顔をするんだろう。
けど、ちゃんと伝えないと。俺は拳を固く握り、覚悟を決めた。
「あと10日で、俺が1度もラムダさんに触れることができなかったら……異世界には行かず、ここに残って修行を続けようと思ってます」
あ。やっぱり。
リザベルさんは一瞬ぽかんと口を開けて、すぐに怒りの表情に変わった。
「だ……駄目ですよ。そんなの」
「すいません。けど、考えて決めたんです」
「無理ですよ! ラムダさんは最強の戦士で――」
「だからです」
一呼吸おいて、俺は続けた。
「宇宙最強の女戦士に稽古をつけてもらってる俺が、弱いままでいい筈がないんです」
うう。気まずい沈黙。
しばらくして、リザベルさんは唐突に口を開いた。
「多良木さん、言いましたよね? 443.2574年は無理だって」
「は……はい」
「あれから私も、地球星人のことを調べました。この部屋で数百年という時間を1人で過ごすのは、地球星人には不可能です」
「ま、まあ……」
確かに、これから先の443.2574年はリザベルさんがいない。
それはきっと、俺にとって耐え難い苦痛となる。
「考え直してください。私は多良木さんを悪――」
「1人ではないぞ」
ん?
「多良木さん、何か言いました?」
「いえ。何も」
「けど、『1人ではないぞ』って……」
「俺も聞こえました。けど、俺じゃないです」
「それは変ですね」
「はい。この部屋には俺たち以外にはラムダさんしかいません」
「でも、ラムダさんは日本語が――」
「話せませんね」
「話せるのじゃよ」
え?
え? え?
ええええええええええっ?
「どうじゃ? わらわの日本語は。なかなか流暢なもんじゃろう?」
ど……どういうことだ?
幻聴じゃない。夢を見ているわけでもない。ラムダさんが日本語を話している。
「ど……どうして日本語を?」
「多良木よ。わらわを侮るでないぞ。1500年の歳月で、極めしは武の道だけではないわ」
狼狽える俺とリザベルさんを他所に、ラムダさんは話し続けた。
「わらわは語学が得意なのじゃ。今回学んだ日本語以外にも、200以上の言語を習得しておる」
「ま、学んだって、いつからですか?」
「ここに呼ばれてすぐ、《《あの世》》で日本語を教えてくれる者を探し出しての。最初にロイと戦った頃には、お主らが何を話しとるか分かるようになっとったのじゃ」
つまりラムダさんは、《《あの世》》で日本語を、それもラムダさんのキャラにぴったりすぎるのじゃロリ語を誰かに教わったということか。
教えた奴、グッジョブ。
「た、確かに書いてあります。ヒッポロス語検定1級、クワマンテ語検定1級、カイルタン語検定1級……語学以外にも、漢方薬検定、野菜検定、ワイン検定、観光案内検定、習字検定、DJ検定、マッサージ検定……」
リザベルさんが袖口から取り出した紙を読みあげている。まだまだ終わりそうにない。
つまり……宇宙最強の女戦士は、宇宙最強の資格コレクターでもあったんだ!
「じゃ……じゃあ! ラムダさん!」
「何じゃ? リザベル」
「日本語が分かることを、今になって明かした理由は何?」
「はて? それはもう言うたつもりじゃが」
「き……聞いてません!」
「まったく、相変わらずのうっかり者じゃな」
リザベルさんは目に涙を溜めて、唇を噛み締めている。
間違いない。ラムダさんが何を考えてるか、もう分かってるんだ。
「聞いてないです!」
「ならばもう1度言ってやろう。わらわはお主と違って、多良木を1人にはさせん」
「い……意味が……」
「とぼけるでない」
ラムダさんがクスクスと笑った。
いつもクールで、感情を表に出さなかったラムダさん。
まさか、こんな笑い方もできるとは。
「お主が用事とやらでこの部屋を離れる443.2574年、わらわはずっと多良木の傍におってやる。多良木の望み通り、みっちりと鍛えてやるつもりじゃ」
呆然としているリザベルさんに、ラムダさんが止めの一言を放った。
「それにの……多良木がわらわを求めるなら、わらわも多良木を癒してやるつもりじゃよ」
涙が頬を伝わり、リザベルさんは膝をついた。
ラムダさんはそんなリザベルさんを気に留めることなく、俺に妖しい笑顔を向けた。
「聞いたかの。多良木よ。お主はわらわと、ここで長い時を共にする」
「ラ、ラムダさん……」
言葉が続かない。舌なめずりをするラムダさんの全身から迸る凄まじいエロスが、俺を圧倒している。
「言っておくが、残り10日間。一切手は抜いてやらぬぞ」
守り抜いてきた純潔が今、風前の灯火となっている。
これぞまさに、蛇に睨まれた蛙……もとい、痴女に睨まれた童貞。
「1500年の歳月を経て練り上げたわらわの性技。その身で受けてもらうぞ」
性技……だと?
これが、宇宙最強の女戦士のもう一つの姿……ロリサキュバスver.か!




