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(第027話)ファーストキスは突然に

そのとき、俺はふと思った。

知的生命はそうでない生き物と違って、()()()()()()()()に戦うわけじゃない。


じゃあコイツは、いったい何のために戦っているんだろう? ねたみ? 怒り? 憎しみ? もっと別の、俺では想像もできない理由?


数億年を生きたという知的生命、悪魔あくま。コイツを突き動かしている力はいったい何なんだ?


それに言葉は通じなかったが、コイツでも学習はするんだろうか? もしそうなら、これまでの俺の攻撃パターンを見て()()つかんでいるはずだ。


と、考える間もなく、ロイは仰向あおむけの姿勢のまま飛び上がり、俺に向かってきた。すぐさま、リザベルさんにカッコいいと言われた昇竜拳風しょうりゅうけんふうジャンピングアッパーで迎撃げいげきを――


「なっ!」


あろうことか、ロイは自らの顔面を、俺のこぶしに押し付けるように叩きつけてきた!

まずい! 今度は俺が読まれてたんだ!


圧倒的な耐久力タフネスを武器に、ロイはアッパーで吹き飛ばされることなく、空中で俺の両肩をつかんできた。打撃戦では分が悪いと考えたんだろう。


間違いない! コイツは()()()()()()()、学習したんだ!


ってええええ!」


着地の瞬間、ロイが俺の首筋に歯を突き立ててきた!

これ、死人じゃなかったら頸動脈けいどうみゃくを噛み切られてる!


「は、放せよ……このハゲ野郎……!」


ロイのつるつるの頭をつかみ、引きがそうとするも……

くそっ! なんて馬鹿力だ!


けどな! 俺には、最新の自重トレで磨き上げてきた筋力があるんだよ!


「ぬうっ!」


よし! 放したぞ! もう少しで矢吹やぶきロールの距離だ!

次は仕留しとめ――


「うえぇっ!」


ま、また胃液吐きやがった!

最悪だ! 今回は至近距離で()()()()を浴びてしまった! しかもちょっぴり口の中に入っちまったじゃねーか!


「こ……コロス!」


俺の中で《《何か》》が切れた。まさか、こんな形でファーストキスを奪われるとは……

その罪、万死ばんしあたいする!

いや! これをキスと言うべきかどうか分かんないけども!


「おらああっ!」


頭突き! 


「おらおらおらおらおらあっ!」


頭突き! 頭突き! 頭突き! 頭突き! 頭突き!


からの……全体重を乗せた右ストレート! ロイは力なく吹き飛び、壁に激突した。


「△▫■◆♂〆※!」

「それまで、だそうです!」


ラムダさんによる終了宣言。

終わった。これで完全勝利だ。俺は両手を突き上げて叫んだ。


「俺がこの部屋最強のオスだあーーッ!」

「3人しかいませんけどね」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


とりあえず、気絶している矢吹やぶきさんとロイはとっとと()()()に送り返された。

それにしても、自身の編み出した必殺技より、目の前にいる女性に執着しゅうちゃくするとは……何というか、矢吹やぶきさんらしい。


で、俺はというと、師匠的ポジションのラムダさんによる総評そうひょうを聞いている。もちろん正座で。


「◇≒ΠδЖЙсэшγ」

「お見事、と言っています」


うう。あのラムダさんがめてくれた。初めてかもしれない。


「ただ、これがもし本当の戦いであれば、最後の噛み付きで首の動脈どうみゃくを切断されていた。めの甘さは相変わらずであり、今後の課題でもある」


あ。やっぱりバレてたんだ。てへっ☆


「ロイの戦い方を卑怯ひきょうだと思うか?」


突然の質問に、俺は言葉に詰まった。どう答えればいいんだろう?


急所攻撃に目潰し、胃液攻撃、噛みつき……ロイのり出してきた攻撃はすべて、地球のスポーツや格闘技の大会であれば、どんなにルールがゆるいものであっても、決して見過ごされることはないものだ。


けど、だからといって卑怯ひきょうだとだんじるのは、ちょっと違う気がする。だってこれ、試合じゃない。誰かに()()()()()()()の戦いじゃないんだ。


なら……


「勝負とはそういうもので、それでも勝たなければいけないと思っています」


とりあえず、頭をひねってしぼり出してみたけど……こんなんでいいんだろうか?


と、不安になっていると、ラムダさんは笑顔になり、最後にキレッキレのコマネチをしてくれた。

たぶん、当たらずとも遠からず、といったところなんだろう。

嬉しい。戦士として認めてもらえたような気がする。俺も立ち上がり、すかさずコマネチを返した。


「@α&$&β★〇々〆※★!」

「明日の稽古はいつも通り行う、と言っています!」


「☆$&ε¥★Δ♀Φπ♂Ξ!」

「それまでに体をきれいにしておけ、だそうです!」


そう言ってラムダさんは帰っていったわけだが……

きれいにしておけと言われても、どうやって?


俺は死人だから、食事しない、汗かかない、排泄しない。当然、体が汚れることもない。だからこの部屋にシャワーはついてないし、それで困ることもなかった。


けど今、俺の体にはロイの胃液がこびりついていて、盛大せいだいに臭いを放っている。間違いない。これ、自分史上最悪の汚い状態だ。


「ど……どうにかなりませんか?」

「ちょっと待ってください! こういうときは――」


リザベルさんはローブの袖口そでぐちから、何やら冊子のようなものを取り出した。表紙に書いてある文字は……分からない。地球の言葉ではないようだ。


「えっと……QアンドAは……あった」


そんなものがあるのか。


「ふむふむ。転移者の体がいちじるしく不衛生ふえいせいになった場合、短時間の入浴を許可する」

「おお! よかった!」


「ただし、不測ふそくの事態にそなえ、管理者は転移者の入浴中、目が届く場所にて待機するものとする……何ですって!」

「管理者? 誰ですか?」

「そ……そんなの私に決まってるじゃないですか!」


リザベルさんは冊子を床に投げつけた。

しかし、目が届く場所にて待機か。どうせなら『一緒に入浴することとする』みたいに書いてあればよかったのに。


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