(第026話)ダダ漏れする煩悩
くそう。せっかくデンプシ……じゃなくて矢吹ロールを実戦で使うところを見せたかったのに、これじゃ若い女性にセクハラトークをかましに来ただけじゃないか。何考えてんだよあの爺さん。
「まっくのっうちっ! まっくのっうちっ!」
リザベルさんがせめてあと3分、我慢してくれれば……
っていうか、その応援は危ないからやめろ。
いや! そんなことを考えてる場合じゃない! ロイはもう目の前にいて、俺のドルマゾーラを狙って腕を振り上げてる!
けどね……
「だから読めてるんだって」
俺はバックステップでロイの振り下ろしを躱した。
デンプシ……じゃなくて矢吹ロールは攻防一体。着地の瞬間からでも繋ぐことができる!
「どおおりゃああああああ!」
右フックから始まる怒涛の連撃!
どうだ! 浪速の虎も尾張の竜も屠り去ってきた、日本で一番有名な必殺技! この問答無用、空前絶後の破壊力!
「あはははは! 再現してる!」
こ、こいつは超気持ちいい!
笑われてるのは腹立つけど。
「まだまだぁ!」
このまま体力が底をつくまで殴り続けてやる! 俺は風神! 地上にあるものすべてをなぎ倒す――
と思ったのも束の間、ロイが何やら黄色い液体を吐きかけてきた!
「うええぇっ!」
これ……胃液だ! まずい! 目に入った!
「く……臭っっっっさあああああ!」
リザベルさんが悲鳴を上げた。そりゃ臭いよ。胃液なんだから。
それに、それだけ離れたところにいても匂うんだから、顔面に吐きかけられた俺は死にたくなるくらい臭いんだよ。
いや! 臭いのは我慢できる! それよりもまずいのは目だ! 視界が奪われてしまった! ロイは今どこに――
「ごふうううぅっ!」
入ってしまった。ドルマゾーラに。強烈な蹴りが。
その瞬間、目の痛みも胃液の悪臭も気にならなくなる。神経のすべてが、ドルマゾーラの痛みを俺に訴える仕事に切り替わったんだ。
前回はここで終わった。
けど、今の俺は知ってる。神経に別の仕事をさせる方法を……!
それがこれだ! 出てこい! リザベルさん(サキュバスver.)!
(こ……今夜のリザベルさん、随分と大胆なんですね)
「いやあああっ!」
(え……2回戦? まいったな。今日は俺も疲れてて……)
「やだやだ! 勝手に寝てて!」
(じゃあ……元気にしてもらえますか?)
「私、そんなふしだらな女じゃありません!」
これこそラムダさん直伝、妄想リカバリ!
あれから毎日、ドルマゾーラの痛みをこいつで掻き消してきたんだ!
毎回ダダ漏れしてしまうのが玉に瑕だが……
リザベルさんの精神的苦痛という対価を支払い、ドルマゾーラの痛みは消えた。
しかしピンチは続いている。視界がまったく回復してないからだ。
だが、ロイの次の攻撃は予測できる。目か口か……どっちでもいい。どっちみち狙ってくるのは顔だ。
俺は上半身を大きく仰け反らせた。顔の前を何かが通過していく。
さらに後転の勢いそのままに、ロイを蹴り上げた。どこに当たったかは分からないが、体が伸び切ってるところに入った筈だ。効いているに違いない。
「おおっ! マトリックス! それにサマーソルトキック! 超カッコいい!」
解説ありがとう。けど、やはり漫画だけ扱いが(以下略)
すぐさま顔中に吐きかけられた胃液を拭う。臭い。吐きそうだ。
ところでロイは……
いた。壁際で仰向けになってのびている。
左右のフックを30発は叩き込み、おまけにカウンターのサマーソルトキックまで決まったんだ。さすがにおしまいだろう。
と思った矢先、ラムダさんの檄が飛んできた。
「@&$&¥★〇△▫■◆♀♂々〆※!!」
「油断するなと言ってます! あと臭いぞって!」
仰る通り。前回は油断が原因でやられた。たぶん油断してなくても勝てなかっただろうけど。
ただ、限界が近いのは間違いない。ロイの耐久力は異常だが、それでも無限ってわけじゃない。ラムダさんのもっちんぱおーん(=乱舞技)で意識をなくしたんだから。
次がきっと……最後の攻防になる。
あと、臭いは余計です。分かってますから。




