(第021話)お姫様と勇者様
嘘でしょ?
だってあれ、見てたでしょ?
あんなの食らって生きていられる生物なんて、この宇宙でラムダさんだけでしょ?
その証拠にほら。緑の怪物はまだあそこに……あれ? いない?
どこに……って、下?
「ぐほおおおっ!」
股間に強烈な頭突きを食らった!
油断してたのは認める! けど、何でだ? 音なんか全然しなかったぞ!
死んでるから潰れはしないが、ダメージは甚大。ていうか、もう無理。
「ぎゃああああ!」
動けない人間の目に親指突っ込みやがった!
これも潰れはしないが、視界はなくなる。だからもう無理なんだって!
「お、うぉぼええええ!」
今度は口の中に手を突っ込んできた!
間違いない! コイツ、俺を殺す気だ!
皇帝だってこんなに残虐じゃなかった。恐怖で意識が遠のく。
俺の……負けだ。
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リザベルさんの話では、緑の怪物、ロイの長い腕が半分くらい俺の喉に入ったところで、ラムダさんが勝負ありを宣告。ストップをかけたが、言葉が通じないロイが従う筈もなく、やむなく例の乱舞技を発動。近くにいた俺も巻き込み、即死級の打撃を千発以上浴びせた。
その際、くまさんパンツ……ではなく、神獣モッチンがお尻にプリントされた下着が何度も披露され、矢吹さんは孫の発表会を楽しむかのように手を叩いて大はしゃぎ。邪魔だと判断したリザベルさんによってあの世に送り返された。
俺の攻撃をものともしなかったロイも、宇宙最強の女戦士の必殺技を受けてはひとたまりもない。今度は動けないふりではなく、完全に動けなくなった。当然、乱舞技に巻き込まれた俺も。
ラムダさんは転がった2つの屍を見下ろし、明日の稽古は通常通りの時間で行う旨を告げて帰っていった。
で……リザベルさんの説明が終わった後も、俺はしばらく呆然としていた。
負けたということは分かっているが、何故負けたのかよく分からない。
その理由はたぶん、ロイがあまり強いと感じなかったからだ。負けておいて言うのもなんだけど。
「多良木さん。いかがでした?」
「え……あ、ああ。その……とりあえずありがとうございます」
「な、何でお礼を言うんですか?」
「だって、もともとは俺の我儘で始まったことですから」
「我儘……じゃないと思いますよ。自分の力を試してみたいって思うのは当然ことです」
「けど、リザベルさんはあまり乗り気じゃなかったみたいですし」
「そ、それは……」
リザベルさんは言葉に詰まったかのように、その先を声にすることができなかった。俺の頭を膝に乗せ、静かに、悲しげな目で俺を見ている。
しばらくして、決心したかのようにぽつりと呟いた。
「確かに、乗り気じゃありませんでした」
小さく溜息をつき、言葉を続ける。
「今は後悔してます。どうして多良木さんに悪魔のことを話してしまったのか」
「じゃあ忘れます」
不意を突かれたのか、リザベルさんは目を丸くした。
「忘れる? えっ?」
「俺が忘れたら、これ以上悩まなくて済みますよね?」
「わ……私、悩んでるように見えます?」
「凄く見えます」
返事がない。もう最後まで言ってしまおう。
「実は、俺も後悔してたんです。リザベルさんを悩ませてしまったことを」
返事がない。鳩に豆鉄砲という言葉がぴったりだ。
「俺にとって一番大事なのは、リザベルさんが笑顔でいてくれることです。リザベルさんが笑顔じゃないと、何やったって楽しくないんですよ」
返事がない。けど、次は……
「で、いいこと思いついたんです」
「いいこと……ですか?」
よし。食いついてきた。
「アイツ……ロイのことを悪魔じゃなくて、緑の怪物だと考えましょう」
「そのまんまですね」
「で、緑の怪物がイタズラばかりして、あるお姫様を困らせている」
「急にお姫様ですか?」
「だから勇者は、お姫様を悩ませる緑の怪物を退治する」
「今度は勇者?」
「そしてお姫様は、怪物を倒してくれた勇者に……ご褒美のキスをする」
「はあ。って、ええっ?」
「なんて考えてみたんですけど……どうでしょう?」
「ど……どうって、言わ、言われましても……」
うう。恥ずかしい。けど、もう一押し……
「ほっぺでいいんです」
「あ……あの……えっと……」
リザベルさんは俺から視線を逸らした。やはり駄目か。
そりゃあ、そんなことを変態童貞なんぞに言われたって、ただただ迷惑だとしか……
「いいですよ」
「えっ! ほ、ホントですか?」
それから不意に、リザベルさんの手が俺の頭を撫でた。
「頑張ってくださいね。不埒な勇者様」
急に心臓が暴れ出し、頭が真っ白になる。やはり童貞は……弱い。
よし。明日から鍛え直しだ! お姫様のキスを頂くためなら、何だってやってやる!




