(第020話)アーユーロイ・サドラー?
「それじゃ、とりあえずスケベジジイを呼び出します」
うん。相変わらず決断が早い。
「矢吹さん、ラムダさんを怒らせたりしないでしょうか?」
「大丈夫ですよ。ラムダさんは日本語が分かりませんし、スケベジジイは地球星流の礼儀を知りませんから」
俺は、壁にもたれかかって腕を組んでいるラムダさんをちらりと見た。
地球、特に日本流の礼儀作法は、コルネリア族にとって失礼な行動になる。そのことを知らなかった俺は、初日に半殺しでも全殺しでもなく、全殺し数千回分のダメージを与えられたんだった。
「きっと大はしゃぎでコマネチしますよ」
「まあ、そういうの好きそうですね」
確かに、矢吹さんからボクシングをとったら、ただの礼儀知らずのスケベジジイだもんな。何て言ってるかも分からないだろうし、まあ、何とかなるか。
「というわけで出でよ! スケベジジイ!」
「ちょっ! さすがに雑すぎる!」
…………何か普通に出てきた。
凄いな。あんなのでも召喚できてしまうんだ。
「おお! リザベルちゃんじゃないか! 相変わらず別嬪さんじゃのお!」
そして第一声がこれである。
スケベジジイで呼び出せてしまう理由が何となく分かった。
「そ、そして……これはまた何とも可愛らしいお嬢さんじゃ!」
はいはい。ラムダさんのことね。分かりますよ。確かに、そうとしか見えませんし。
けど、言葉が通じてたらえらいことになってますから。
「うむ。安産型のよい尻をしておる。五年後にはきっと、男どもをとろけさせる素敵なレデエになっとることじゃろう!」
ラムダさんはまったく反応しない。にも関わらず、思ったことを即言語化する。
それがスケベジジイ……もとい、好色老人の特徴だ。
「どうじゃ? ワシ、一番乗りで予約しておいてええかのう?」
「や、矢吹さん。危険ですから、隅の方に動いてもらえますか?」
「放っておいていいですよ。どうせ死にませんし」
うーん。やはりリザベルさんの様子がおかしい。
さっきの言葉……悪魔の存在は私たちの罪だとかなんとか。あれはどういう意味なんだろう。
「出でよ! ロイ・サドラー!」
けど、どんなに悩んでいても、決断(=召喚)が早いのはいつも通りなんだよな。
「リザベルさん! ロイの言葉は分かるんですか?」
「マルグレッド星の言葉は分かります。けど、ロイには通じません」
「そ、それじゃコミュニケーションは?」
「多良木さん。認識を改めてください。悪魔はそういう存在じゃないんですよ」
……出てきた。
え? ええ?
ええええええ?
「こ……これが悪魔?」
いや。悪魔っぽいといえば悪魔っぽいのか?
やせこけた体に、異常に長い手足。つるんとした緑色の肌。どんよりと濁った黄色い目。大きく裂けた口からは涎が垂れ落ちている。体毛は一本も生えていないようだ。
前触れもなく登場した悪魔は、突然起こった出来事に動じるでもなく、かといって周囲の様子を観察するわけでもなく、心ここにあらずといった様子で、どこか一点をぼんやりと見つめている。女性が出てくると思っていた矢吹さんも、これにはびっくりだろう。
「な……何で緑色?」
「食事なしでも生きられるよう、皮膚を葉緑体と同じ構造にしてるんです」
うえっ。気持ち悪い。
けど、俺がビビッてたんじゃ話にならない。リザベルさんは俺のために、嫌なのを我慢して呼び出してくれたんだから。
深呼吸して、覚悟を決めた。
よし! いくぞ!
「な……ナイストゥミーチュゥ、アーユーロイ・サドラー?」
「英語は通じませんよ」
「ア、アイムタラキ・ノブ……って、痛っでええええええ!」
「多良木さん! だから言ったでしょ!」
速い! ロイは目にもとまらぬ動きで俺の背後に回り込むと、首元にかじりついてきた。右手を差し出して挨拶をしようとした俺を嘲笑うかのように。
すかさずラムダさんからの檄が飛ぶ。
ぴっぷるぽっぷる? コルネリア語? 何だそれ?
「壁に叩きつけろって言ってます!」
何で壁に叩きつけろがぴっぷるぽっぷるになるんだよ?
緊張感がなくなるだろ!
いや。ツッコみは後だ。確かにこの状態から脱出するにはそれしかない。
さすがは宇宙最強の女戦士。判断が早い。
「どりゃああ!」
一番近い壁に背中から突っ込み、張り付いた悪魔を押し潰す。
ロイはうめき声をあげ、俺から離れた。
よし! この距離はボクシングが使える!
「おらあっ!」
顔面に右ストレート。壁とサンドイッチ状態になるロイ。後頭部を強かに打ち付けた。
「まだまだあっ!」
力なく倒れ込むロイを引き起こすように、右アッパーを決める。今度は天井に激突。
「おしまいっ!」
タイミングを合わせ、落下してくるロイの頭に横蹴り。ラムダさんの動きを参考に、密かに練習してたんだ。
腕の三倍といわれる脚の筋力。攻撃に使わないのはもったいないからね。
ロイは反対側の壁まで吹っ飛び、激突。涎を垂らしながら、うつ伏せになって倒れた。
うむ。自画自賛になるが、初めての蹴りにしては、なかなかいい感じだったんではないだろうか。
さてと……当たり前だが、立ち上がってくる気配はない。
それもその筈、地球人なら三回は死んでる攻撃を食らったんだ。
しかし、まさかここまで強くなっているとは。皇帝と戦ったときですら地球人最強クラスだったのに、そのときと今とでは雲泥の差がある。これが限界突破か。
ラムダさんの十パーセントに近付いてきてるって話だったし、これはもう転移先でも無双間違いなしだろう。
はっ! ということはもしかして……巨乳ハーレムが実現する?
正面に巨乳。右を向いても巨乳。左を向いても巨乳。
何故そんな状況なのかって? それは俺が、巨乳の海で遭難してしまったからさ……
「@&$&¥★〇△▫■◆♀♂々〆※★!!」
ん? ラムダさんが何か言ってる。ぽこぺんぷぅ……何だ?
「多良木さん! まだ終わってないって言ってます!」
だから何でまだ終わってないがぽこぺんぷぅに……
って、終わってない? 嘘でしょ?




