(第002話)転移3点セット(普通)
「痛たっ!」
残念という言葉に反応した女性は、ローブの袖口からハリセンを取り出して、俺の頭を引っ叩いた。
「残念だなんて……ひどい! ひどすぎます!」
「は、はあ」
「どうして、そんな心にもないことを言うんですか!」
しかし……ツッコみどころが多いな。
まず、俺は言ってない。心を読まれてしまったんだ。
それに、貴女が読んだということは、それは俺の心にあることだ。
ついでにいうと、何でそんなとこからハリセンが出てくるんだ?
しかし、彼女が機嫌を損ねてしまっていることは事実だ。この状況でいきなり帰られでもしたら、それこそ詰みになる。とにかく、何でもいいから言っておかないと。
「す、すいませんでした。けど、美人だと思ってることも事実ですよ」
「分かればいいんですよ。人間、素直が一番ですからね」
おお。こんな雑なフォローでも、何とかなってしまうもんだな。
……いや。きっと、この女性が単純なだけだろう。
うん。普通はこんなので機嫌が直ったりしないよな。
しかし、頭の中に思い浮かべただけで伝わってしまうというのは、なかなか厄介なことだ。かといって、この女性と話をしないという選択肢もない。
ならば……心を無にし、事務的な会話に徹するしかない。
彼女が心を読めるのは、俺の感情が強く動いたときだけのようだし。
大事なのは平常心を保つこと。そうすれば、淡々と話を進めることができる筈だ。
「ところで、先に名前だけでも教えてもらえませんか? やっぱり、俺だけ知らないってのは公平じゃないと思うんで」
「名前はリザベルといいます」
よし。とりあえず名前ゲット。
「他に、貴女のことで、教えてもらえることがあれば――」
「年齢、体重、スリーサイズ等、一般的に女性に聞くのは失礼だとされていることに関しては、お答えすることができません」
うぐっ。そんなことを聞くつもりなんか微塵もなかったのに、これじゃまるで知りたがってるみたいじゃないか。
「というわけで、名前が分かれば十分でしょう?」
何が『というわけで』なんだ?
というか、最初から答える気なんかなかっただろ。
「そんなことないですよ。例えば、足のサイズなら教えてあげてもいいですし」
そんなことを知ってどうしろっていうんだよ……って、また読まれてしまってる!
いかんいかん。リザベルさんのペースに巻き込まれるな。
冷静になれ。事務的な会話に徹するんだ。
とりあえず、話を先に進めてみよう。彼女に関することは後回しでいい。
「ではリザベルさん。確認させてください」
「どうぞ」
「俺って、死んでるんですよね?」
「そうですよ」
「けど、何だかまったく実感がなくて」
「そういうものですよ」
「で、今は白い部屋の中で、リザベルさんと話をしている」
「そうですね」
「つまりこれって、転移だか転生だかのイベントってことですか?」
「えっ?」
何? 違うの? ていうか、何か様子が変だぞ。
震えてる? 俺、何かまずいことを言ってしまったのか?
「お……恐るべし地球星人! あんなちっぽけな科学力で、私たちの秘密の一端を知ってるなんて……!」
え? 秘密? そういうものなの?
それに、地球星人って何?
……い、いや! 考えるな! そういうものなんだ! たぶん!
「も、もしかして多良木さん……私の正体も?」
「神様……ですよね?」
「あぁっ! 恐るべし地球星人!」
うぅ……ツッコみたい……
って、いかんいかん! 心を無にするんだ!
リザベルさんはちょっと変なのが通常状態なんだ。大丈夫。すぐ慣れるさ。
それに、冷静に考えれば、質問するまでもなかった。
死んでいる筈の俺が、生きているときと同じように考えて、動いて、会話している以上、何かしらのイベントに巻き込まれていることは間違いないんだから。
なら、次に考えることは――
「ところでリザベルさん。スキルは何がもらえるんですか?」
そう。転移転生の醍醐味といえばやはりスキル、つまり特殊能力だ。
基礎的な能力が低くたって、スキルが優秀であれば逆転できる。それが転移転生のお約束というものなのだ。
「は? スキル? 何ですかそれ?」
さて、何にしよう。ここはやっぱ男のロマン、超筋力? けど、超知力も悪くない。ハズレっぽいけど実は優秀、なんてのも……
ん?
「ス……スキルなし……ですか?」
リザベルさんは表情を崩さず、真っ直ぐに俺を見つめている。
この目、この顔……本気だ。
しかし、本当にスキルなしで異世界に放り込まれるのか?
現代の日本ですら、十分に対応できていたとは言えなかった俺が?
「んぶっ……ぶふぅっ!」
「え?」
「あはははは! じょ、冗談ですよ! スキルなしでは生きていけませんからね!」
「お……驚かせないでくださいよ」
「ふふふ……驚かせてしまってごめんなさい。けど! 今回は多良木さんのために、スペシャルな特典をご用意してますから!」
「おお! 通販番組みたい!」
「その名も……じゃじゃん! 転移三点セット!」
「なんか古い! けど三つも!」
「その驚きの内容は……一つ、言語が通じる! 一つ、住人の見た目や生理機能が地球星人とほぼ同じ! 一つ、文化、風習、倫理観が地球星人とほぼ同じ!」
……え?
「あの……それって……」
「この三つが揃ってる状態でスタートできるなんて、まさに奇跡ですよ!」
確かに。うん。確かに。
それは分かってる。分かってるんだが……
「それだけですか?」
「それだけって……まだ何かお望みなのですか?」
「いや。超強くなるとか、超賢くなるとか、他の人にはない特殊な力を使えるとか」
「うわっ。やはり地球星人は強欲ですね」
強欲……なのか? いや。言われてみればそうかもな。
何の努力もせず、他者よりも優れた存在になりたいなど、人としてどうかと――
いや! 納得するな俺! どう思われようと、ここは粘り強く交渉しなければ!
だってスキル無しじゃ、序盤のゴブリンとかオークとかにやられてしまうだろ。あいつら武装してるし。集団で襲ってくるし。
「も、もちろん、贅沢を言うつもりはありませんよ。けど、何もアドバンテージ無しじゃ、せっかく転移してもすぐに――」
「ご心配なく! アドバンテージありますから!」
ああもう。何が言いたいんだよ。
「あなたには才能……限界突破を授けます!」
才能? げんかいとっぱ?
「その……限界突破ってのは、何なんですか?」
何だろう。言葉の響きからして、嫌な予感しかしない。
「あなたが想像している通りですよ! すべての生物に課せられた宿命……個体差による才能の限界をなくしちゃうという、素晴らしい才能です!」
才能の限界をなくす才能……
何が言いたいのかよく分からないが、嫌な予感が当たってしまったみたいだ。
「確認させてください。ということは、スタート地点は――」
「もちろん、今の多良木さんのままですよ!」
よし。予想通り。
それでは次の課題は、リザベルさんにそれじゃ序盤がやばいって分かってもらうことだ。頑張れ俺。この交渉で失敗したら、後は死ぬだけだぞ。死んでるけど。




